表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年は刀一本でPKになる  作者: 鳩乃蕃茄
妹の属性には気をつけよう
79/79

64 ユイvs『コック』

マストの上へと飛び上がっていくマーガリンを後目に、『コック』はユイたちもまた同じ判断に至ったのだと決めた。

その上で、マーガリンの狙いにも味方の絶叫から理解する。

「地上の援護はあとだ。先にあっちの面倒な魔法使いから倒すとしよう」

『コック』は大きな中華鍋を見せつけるように突き付けた。

「なんですか、それ」

思わずユイも首を傾げる。中華包丁に中華鍋。一体どこからそんなものを見つけてくるのだろうか。

「総員、鍋は持ったね。それじゃ魔法部隊、用意」

けれど当の『コック』は至って真面目に、中華鍋を盾のように構え、腰を落とす。Masqueradeの面々も続く。

生き残ったおよそ七人のPKたちが中華鍋を構える光景は奇妙だが、その背後では生き残った数少ないの魔法使いたちが詠唱を始めている。

慌ててユイも魔法を設置する。ストックは事前に設置した物がおよそ三割程度。そのほとんどが最終防衛ラインとして置いたものだ。

「撃て」

「【カバラ#4-6】」

複数の火球と氷塊が降り注いだのは、ほぼ同時だった。

「「ぉぉおおおおおおおおおお!!」」

その間を、雄叫びを上げてMasqueradeたちが突き進む。苦虫を潰したようにユイは顔を歪めた。冷静になる時間を与えてしまったのは失敗だったからだ。統率を取り戻せばこうして一斉突撃されるのは目に見えていた。

「ちっ【カバラ#3-3】!」

火球と氷塊が激突し作り出した水蒸気の中に突如として出現した炎の柱が男たちを襲う。何人か燃えた。しかし、彼らは炎の中を走り抜け、突き進む。その両手に握り締めた中華鍋が、炎を防いでいた。

思わずユイも叫ばずにはいられない。

「なにそれ!?」

だが、そうしている間にも男たちはユイただ一人を狙って突き進んでいる。

「っ五番から二十番まで、生きているやつは全員私の護衛をしてください」

「「おう!」」

NPCたちの士気は未だに高い。美少女の指示で動けるという一点において、荒くれ者たちは団結しているのだから。

そうして始まったPKとNPCの乱戦の間をくぐり抜け、ユイはさらなる詠唱を重ねる。

「【カバラ0—」

「【スラッシュ】ッ!」

そのASを回避できたのは、たまたまユイが後ろに下がろうとしてもつれて態勢を崩したからだった。たまたま男の踏み込みが甘かったからだった。その他幾つかの偶然が重なり、倒れながらもユイは回避する。

すぐに転がり二撃目も回避するが、船首に逃げ場などない。

「【ツインスラッシュ】」

今度は逃げられぬよう、念入りに放たれた二撃の剣が、ヌルりと鈍く輝いて心臓に迫る。

恐怖はない。

代わりに場違いな疑問がユイの頭を過った。

なんで、ASなんてシステムを運営はこのゲームに導入したのだろうか、と。

思わず、ユイ自身笑ってしまう。死ぬ前に考えることが、コレなのか。

それでも思考は沈み、己に問う。ASの本質とはなんだ?

胸の手前まで迫った剣を見る。重心はガタガタで、AS頼りな動きだ。

現代に生きる人間のほとんどは運動不足で、剣やナイフなんてものを使ったことがないのだから当然だ。


多くの人間は闘争の経験を持たない。

多くの人間は人体の動かし方を知らない。


「VRなんてやるのはそんな人種ばかりだから下駄を履かせる必要があった」


つまるところ、ASの本質とは[技術の平等化]ではないのか?


目の前の剣はガタガタで酷いものだ。けれど、確かにその剣には人を殺すだけのパラメータと勢いと鋭さがあった。

技術の平等化。確かにそうかもしれない。だけどそれは、もしかしてスタートラインを整備するだけだったりしないか?


それは弱者が銃を握るより軍人が銃を握るほうが強力なように。


その検証をするために、ユイの思考は仮想現実へと舞い戻る。

「【逸歩】」

瞬間、ユイの姿がブレた。

否、贅沢にもASを使ってただ一歩横に動いただけだ。そう、ただそれだけ。その一歩に補正だけでなく、次の行動を見据えての重心移動を乗せ、更に硬直がないことを利用し魔法を詠唱し始めていたとしても。

間抜けにも二連撃を外し、硬直した男目掛け、口を開く。

「【カバラ#6-3】」

いつの間に設置したのだろうか。茨が出現し、男の身体を拘束する。

「【カバラ#2-1】」

そして、始めに習得する最初のカバラ、すなわちただの火球が男の身体を芯まで焼き尽くす。


その光景を『コック』が見たのは偶然だった。されど、『コック』は推測する。あの少女はもしやリアルでもかなりの運動神経を持っているのではないか?と。この時点で『コック』の中のユイの危険度はツキハに迫るほどになった。

「君たちは全力でNPCを止めてくれ。僕がアレを殺してきますから」

返事を待たずに『コック』は走り出した。

「一番~三番、時間を稼いでください」

無論ユイとて自分が狙われていることは理解している。急速に接近する『コック』の前に様々な魔法を設置するが、そのどれもが追いつかず、或いは中華鍋に防がれ、効果を示しはしなかった。

そして、NPCの善戦虚しくもユイと『コック』は対面する。

「それ、本当になんなんですか」

「コレ?ああ、料理人用のショップで見かけたんだ。なんでも破壊不可能なオブジェクトらしいから、盾にピッタリだと思ってね」

「来週には修正されてますよ、ソレ」

「今勝てるならそれでいい。そうでしょう?」

ニコリと『コック』は微笑んだ。

「それもそうですね」

ニヤリと好戦的にユイも笑った。


深夜テンションで描き上げたんだけど、ユイの考察は割と気に入ってます。

【カバラ】は0番台がバフ、1番台がデバフ、2番台が火、3が水、4が氷、5が風、6が土、7が光、8が闇、9からは秘密です。

#〇-3みたいな後ろの数字は効果の種類を示しています。3なら継続ダメージや拘束、1は直接攻撃、6なら浮遊機雷みたいなイメージ。割と適当に考えてるので、雰囲気でいいかも。

ちなみに、ユイが獲得してるのは火と氷と土、それと最優先で取った0のバフです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ