61 三者三様、集うは密輸船
電撃一次落ちしたので初投稿です
潮風香る白と青の街パトラには様々なプレイヤーが溢れている。
一般的なプレイヤーから、海と綺麗な街並み目当ての観光客に漁師まで。ある意味では最初の街以上の賑わいを見せていると言っても過言ではないだろう。
必然か。人が増えれば合わせて増える人種もいる。血生臭い匂いを濁し、愉悦や苛立ちをマスクやフードを隠すPK達。一般に隔離サーバーとさえ呼ばれるβ鯖の住人であり、殺しに快感を見出した異常者たち。
だが、そんな彼らでさえその集団からはひっそりと距離を取る。
小太りな男を先頭に、お揃いの仮面を見に付け、パトラを歩く集団がいた。
『masquerade』。あるいはただ、領主の一団と呼ばれるPKたちの中でも危険視される者たち。
そんな彼らは——
ビーチから敗走していた。
街の一角で、男たちが頭を抱えていた。噂の『masquerade』である。
「『コック』、分かりきってたことだろ。こんな鯖のビーチにまともな女がいないことくらい」
「そりゃあまさか、全員男アバターを一から改造して作ってる男の娘しかいないとは思わねえけどよぉ。元気だせよ、俺は元気になったぞ」
「黙ってろ変態。女性も逃げてしまっていたではないか。俺も付いてるのは許せんのだ。騎士道故に、な」
『コック』と呼ばれた男がようやく顔を上げた。その服装はなるほど、確かに料理人と呼んで差し支えないだろう。いささか猟奇的なコックコートさえなければ、だが。
「流石にちょっとレベル高かったねぇ。聞いたら今日はそういうオフ会の日だったらしいし運が悪かったかな」
優しげ、というよりも気弱そうな顔で『コック』と呼ばれた男は苦笑いを浮かべる。
「はー領主がいればな。きっと領主ならあんな男の娘だって上手く捌けるんだろうなぁ」
「いいや」
緩慢な動作で、『コック』が立ち上がる。次々と男たちが立ち上がった。
「捌くだけなら、僕が上だ」
明確な自信を込めて、『コック』は言い切った。
じっとりとし湿った地下道を男たちは歩いていた。海が近いのか、波の音がして、それから潮風に紛れて、ほんのりと血の匂いが男たちの鼻孔をくすぐった。ふと一人がGOFはここまで作り込んでいるのかと疑問に思い、それから眼前の尋問風景を見てすぐに放り捨てる。これは、錯覚の類ではないと理解したのだ。
「『コック』、すみません。NPCがまだ情報を吐きそうになくて……」
「ん、そうか。じゃあ任せてくれ」
顔に大きな古傷を負った男が椅子に縛られていた。何度か殴られた跡が、揺れる電球に見え隠れする。薄暗い小部屋は、大して広くもない。五人も入れば満員になることだろう。
「あんだよ。また交代か?誰が来ようとお前ら冒険者に吐く情報なんざ欠片もねえぞ!!!」
「うん、それでいい。じゃあひとつ、GOFが素晴らしい点を教えよう」
『コック』がインベントリから小さな包丁を取りだした。ぬるりと輝くその刃がどれほど強化されているのかを証明しているだろう。
それから大きな中華包丁が、調理鋏が、ピーラーが、泡だて器に似たナニカが台の上に並べられていく。
「上級NPC、いわゆる思考を持ったNPCにはリアリティのために人と同じ痛覚が設定されていているんだ」
「……だったら、なんだよ。殴られたって目ん玉くりぬかれたって話さねえぞ俺はァ!」
男の縛られた手が、ガタガタと震えた。ガタガタと、ガタガタと、どれだけ暴れても、指先すら固定された状態では意味はない。
「なに、人という生き物は経験上、想像した痛みは何倍にも感じるというだけさ。じゃあ、飾り切りからはじめよう」
「おい、やめろ。俺は、お前らみたいに生き返
ニッコリと笑って、『コック』は男の小指に包丁を当てた。
「男の吐いた情報通りなら、今夜ですね」
「うん。領主がNPCを通じて聞いた話からもウラは取れたね」
HPがほんのわずかに残ったNPCを背に、男たちは話し合う。
「では計画通りに」
「うん。じゃあ今夜、密輸船を襲撃だ」
真っ赤に染まったコックコートでニコリと『コック』は、ほほ笑んだ。
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「……やっぱり海は嫌いです」
「アレはちょっと特殊なケースだって~」
水着に身を包んだ少女が二人、トボトボと街を歩いていた。
「ありえないですよ!」
白の髪をツインテールに結んだユイは思わず天を仰いで、太陽に負けて俯いた。
誤算である。兄に水着を見せる前に下見をしておくか、程度に行ってみれば男の娘しかいないビーチが待っているとは思わないだろう。
だが、現実である。
「許せません……許せない……私よりかわいいなんて」
「妹ちゃん、たまに自信過剰なとこあるよね」
マーガリンの苦笑いさえもユイは気づかない。
「ま、君はかわいいと思うよ~?同性の私から見ても、ね」
「別に貴方に褒められてもうれしくないんですけど」
そうい言いながら、ユイは少しだけ赤く染まった顔を背けた。
「へぇ妹ちゃん、よくこんな店知ってたね」
「……お兄ちゃんが好きそうなので」
「うん、納得」
飲み屋というには少々上品だろうか。船をモチーフに、波や錨、船のデッキなどを細かくデザインに落とし込んだ室内は、おそらくは観光客用の店なのだろう。ダイナミックな音楽と相まって、アトラクションチックな雰囲気さえある。
もっとも、客にプレイヤーは少なく、もっぱら利用しているのはNPCなのだが。
「しかし少ないね~」
「客層を見れば納得ですけど。あ、私このシードラゴンバーガーで」
「それもそうだね。ホエールバーガーで~」
ちらりと見た先には、古傷まみれの男たちがたむろしていた。常連と呼ぶのが皮肉に当たるかは審議が必要だろう。
「あれじゃ観光客も来るわけないじゃないですか」
「……β鯖で観光してるような人たちが気にするのかな~?」
「む、それもそうですね」
料理をただ待つだけの時間。そんなどうでもいい話している二人が噂の常連は許せなかったらしい。
「聞こえたぜ嬢ちゃんたち。俺たちと遊びたいってか?」
「は?お兄ちゃん以下の雑魚に興味はありませんけど」
「こわ~」
「なんだとこのガキども、もがっ!?」
常連の一人がナイフを抜こうとして、それよりも速く男の口内へと、長い猟銃が突き付けられる。
「うーん、確かにわたしも弱い一般人は嫌かも~」
動けない。仲間が人質に取られてるなんて話ではなく、物理的、いや魔法的なバインドによって。
「【カバラ#6-3 茨の拘束】」
数秘術によって生えた茨が床を破り、男たちを拘束していた。いつの間に本を抜いたのかも、男たちには見抜けない。
「マーガリン。どうします?こいつら」
「う~ん流石に事故物件にするのは店長が可哀そうだよねえ」
「あ、あの、ご注文の御品物が完成したんですけどぉ」
「そうですか?あ、シードラゴンバーガーを頼んだのは私です。ホエールバーガーはあっち」
「お、どうもどうも~。……とりあえず、ハンバーガー食べよっか」
「ざ、けんな!離せクソ女ども!」
そうして、縛りつけられた男たちを肴にハンバーガーを食べる奇妙な空間が爆誕した。
「姉さん方、俺たちが悪かったです」
「だそうですけどマーガリン」
「んー舎弟は別に欲しくないんだけど~」
茨は既に解かれていたが、男たちは綺麗に土下座していた。
「お客さん方、そこらへんでガキどものことを許しちゃくれませんかね」
「うーん店長さんが言うならいいかな」
「へへ、ありがとうございやす。その代わりと言っちゃなんですが、稼げて大陸外のアイテムが手に入るこのクエストをどうぞ」
《クエスト:密輸船の護衛!が解放されました。受注しますか?》
「妹ちゃんどう思う?」
「受けたいですね。魔導書がもし手に入るならそろそろ欲しいですし」
「なら受けよう」
迷うことなく、マーガリンが受注した。
「それじゃ、私は一旦落ちるね。また今夜」
「え、あの、私にこの空間どうにかしろってことですか!?」
「姉貴、買い物ですか!どこでも御供しますぜ!」
「「姉貴!」」
「か、勘弁して欲しいんですけど」
泣きそうになりながら、ユイもログアウトした。
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「うーん、まだ吐いてくれないのか」
ドゴ、バキ、グチャ、という音がバーの室内に響いている。
NPCの店主が、マウントポジションを取られてツキハに殴られ続けていた。
『下手くそな坊や。拷問は相手の心を折るんだよ?』↲
「知ってるけど俺にそんな経験はねえぞ」
ついでにもう一発とばかりに店主を殴る。
『非効率な坊や。冷静に考えて拷問が正攻法な訳がないだろう』↲
「やってみなけりゃわからんでしょ」
と、ここでようやく店主の心が折れたらしい。
「は、話す!話すからそろそろ殴るのをやめてくれ!」
「ほら、正攻法じゃん」
『…………』↲
「こ、今夜大陸外の物を積んだ船が三番港に来るんだ。お、お前の探してるもんもあるはずだ……」
《クエスト進行を確認。夜の密輸船に乗り込もう!》
「ん、なるほど。教えてくれてありがとう」
ようやくツキハはマウントポジションから立ち上がった。
「さて、夜まで時間があることだし——狩りに行くか。PKを」
殴るのも飽きたことだったし。そう付け加え、ツキハは虚空切真如を軽く小突いてバーの扉に手をかける。
「じゃあなおっさん。今度からはまともなバーをやれよ」
ほぼ勝手に入って勝手に荒らした人間のセリフとは思えないものを吐き捨てて、ツキハは狩りへと歩き出した。
今回の電撃大賞、ありえんほど一次で絞ってなかった?4%って話聞いて笑うしかなかった
久々に書いたので口調とかステータスとか完全に忘れてました。なんか違くないってのがあったら感想に書いてくれたら修正しますー




