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少年は刀一本でPKになる  作者: 鳩乃蕃茄
妹の属性には気をつけよう
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59 狐

 ごろりと宿屋のベッドに寝転がる。このままログアウトしてもいいが、些か時間には早かった。とはいえ、何かをするほどの時間がある訳でもなく。近場でPKに行くのがせいぜいだろう。もっとも、そんな気力さえないのだが。

 おもむろに、太刀を抜いた。

 鈴のような音と共に澄んだ蒼の刀身が露になり、自分の不機嫌そうな顔を映し出す。

 指先を刀身に走らせた。

 途端、僅かな痛みと共にHPが削れ、元に戻る。血は、出ない。

「やれやれ、どちらが現実なのかね」

 時たま、ここは現実以上に現実になることがある。けれど、所詮は誰かが管理しているネットゲームの中に過ぎず、身体はポリゴンと電子情報の塊でしかない。

 妹を斬り殺そうと、鬱憤晴らしにもならないのだ。

 ため息交じりに刀身を鞘へと納め、起き上がる。

そういえば、貰ったまま数日ほど放置していたアイテムがあったではないか。

「……この仮面、どうしようかね」

 黒く、目元だけを覆う狐面。件のイベントで手に入れたアイテムだった。

 どういうものなのか確かめようにも、スキルもステータスもフレーバーテキストも見えないのでは、困惑するしかない。

 試しにつけてみるか、なんて考えるほど、流石に俺も安直ではない。ただでさえ、ヘルの呪いでうかつに死ねないのだ。これ以上縛りプレイみたいなことになったらキャラデリも考慮せねばならないだろう。

 ……それ以上のメリットを享受していることには目をつぶるとして。

「まあ、そんときはそんとき、か」

 確かに何も考えず着けるほど安直でらないが、好奇心に抗えるほど慎重というわけでもないのは、俺自身が知っていることである。

 最悪、キャラデリして他のビルドを試してみるのも悪くはないだろう。

「ま、この暇な時間を潰すのにはいいか」

 鼻歌なんて歌いながら、そうして黒い狐面を被った。


 不自然なロードが挟まったのは、被った直後のことだ。

 そして、真っ暗な視界の中央に紅い狐のマークが点滅した。

『ハロー坊や。こんな怪しげなものを被るなんて、命知らずにも程があるね』↲

 その下に、チャットが流れた。古のMMOのような、キーボードで打ち込まれた文章が。

「なんだ、お前」

『失礼な坊や。覚えておきたまえ。名を聞くのなら、自分から名乗るのだと』↲

「なら、名乗らなくていい。お前は、なんだ?」

『捻くれた坊や。君はきっと性格が悪いね。しかし、ふむ。ワタシが何、か。些か哲学的な質問だろう。君がポリゴンの塊であるなら、私も同じくポリゴンの塊だ』↲

 点滅する狐のマークが、ニタニタと笑うような気がした。

 少しの会話でよくわかる。こいつは、性格が非常に悪い。

『酷い坊やだ。だが、同族であることは否定しないさ。そんな君に免じて、回答しよう。ワタシは■■■』↲

「なんて?」

『未熟な坊や。失礼した。まさか君がこの程度も読めないような低レベルだとは思わなかったよ。では……そうだね、炮烙と呼びたまえ』↲

「分かった。よろしくな、狐」

『難聴な坊や。話聞いてたかい!?』↲

「長い、読みにくい。狐でいいだろ、狐で。妖狐とかのがいいのか?」

『……坊や。ワタシの負けでいい。名前なんて、ワタシには関係のないことだから』↲

 その文字が流れると同時に、視界は明るくなり、眼前に宿の扉を捉えた。顔を触った感じ、仮面はそのままなので恐らくはパイロットのヘルメットみたいな感じになったのだろう。というか狐のマークは点滅したままなのでまんまである。

 ピロン、という音が鳴った。聞きなれたクエスト受注の音であり、下を見ればやはり。

《連続クエスト:血濡れの妖狐面#1が開始されました》

『妖狐面より性格が悪い坊やへ。これは試練だ。君、あるいはワタシ自身への。達成すれば君に利があることだけは確かだろう』

目的 深夜のパトラにて密輸される、ある品を略奪せよ!

※クリアまで血濡れの妖狐面を外すことはできません

※破棄不可能なクエストです

 報酬 ???


 パトラ……ああ、モリアーティとは別に追加された海の街か。当然のように密輸があって、当然のように略奪が求められるのはなんというか、うん。俺だけ別のゲームやらされてる気分だ。というか外せないのかよ。まあ、どうせ頭に付ける装備持ってないから構わないか。

しかし、連続クエストね。

『人殺しの坊や。さっそく行くのかい?行くのだろう。ワタシは待ちきれないよ』↲

「残念だったな俺はこれから夕飯だ!」

 文句を言われるよりも速く、ログアウトボタンを連打する。

 その甲斐あってか、狐によって書き込まれる罵詈雑言よりも速く、俺は現実へと帰った。




「ねえ妹ちゃん!海行きましょう海!あそこなら初心者プレイヤーが沢山いるし、身を隠すのにも、遊ぶのにもピッタリよ!」

 山道をかれこれ数時間、歩いてはプレイヤーへと奇襲を繰り返していたマーガリンが突然そんなことを言い出したものだから、遂に狂ったのだとユイは確信した。

「えぇっと私、海がちょっと嫌いなんですけど……」

「そう言わないの。せっかく水着だって買っちゃったんだから。それに、確かあそこら辺に停泊する密輸船、なかなかに強い魔法職のアイテムが落ちるはずなのよね~」

 その一言で、ユイの目の色は変わる。

「それで……お兄ちゃんに追いつけるのなら、行きます」

「そう来なくっちゃ。じゃあ、さっそく向かおう!このまま歩けば夜には着く……はず!」

 既にオレンジに染まり始めた空を見て、ユイは不安になるのだった。

あけおめ

せっかく追加したお面を活かさなきゃと考えた結果新キャラが五秒で生まれました。

あ、色々といつもありがとうございます。電撃に向けて書いてた小説は酷い出来になりそうなので、多分落ちたら貼りそう。

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