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少年は刀一本でPKになる  作者: 鳩乃蕃茄
妹の属性には気をつけよう
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58少女と老婆と少女

息抜き更新

「あの……レベリングするんじゃないんですか?」

 敵意半分、困惑半分といったところか。ツユは恐る恐るといった調子でマーガリンに質問する。

 気にした様子も無く、マーガリンは始まりの街を進み続ける。

「まー行けば、分かるよ。妹ちゃん、君レベル幾つだっけ?」

「5、ですね」

「で、属性強化系スキルも取ってないんだよね。そんなんじゃ、効率的なレベリングも行えないでしょ?」

 マーガリンが薄暗い路地へ曲がった。少し躊躇して、ツユも続く。

 右に曲がったかと思えば、左、後ろ、時には上に下と迷宮のような複雑さを誇る道を、マーガリンはまるで近所の近道を進む感覚で歩く。気が付けば、上に見えていた青空は折り重なった屋根に隠れ、完全に見えなくなっていた。

 マーガリンが立ち止まった。それはあまりに唐突だったものだから、ツユは止まれず、マーガリンの背中にぶつかる。銃床がおでこに当たった。

「ここよ。ね、知ってる?ツキハくんの使う侍ってジョブはNPCとの一騎打ちに勝利して初めて獲得できる隠しジョブなんだ。で、そういうものは侍だけじゃなくて他にもあるの」

 ギギ、と重い音を立て、扉が開いた。

「……またあんたかい。継ぐつもりもないのに何回も来るんじゃあないよ」

「違うわよ、おばあちゃん。今回はちゃんと連れてきたのよ?」

 薄暗く、狭い室内は端的にいってしまえばとても胡散臭かった。紫色の間接照明に、どういう用途で使うのかも分からない道具、それから蠢く植物たち。

 しわがれた声の主を探して、ツユはマーガリンの背から前を覗いた。

「コレがお前さんの言う継げるやつかい?あたしゃちんちくりんはごめんだね」

「まーまーエレナおばあちゃん、そう言わずにさ」

 老婆が居た。ツユが真っ先に想像したのは森の魔女だ。お姫様に呪いを掛け、王子を殺さんとする悪い魔女。それから視線を落として、頬杖をする老婆の横に大きな水晶玉があることに気が付いた。

「……占い師?」

「そうとも言われる。だけど占いは趣味のひとつに過ぎないよ。本職は数秘術、それもタロットを使ったやつさね。あたしゃ、人じゃなく世界を視るだけさ。それじゃ、あんたが本当に継ぐに足りるのか、見ようじゃないの」

 ピロン、という音が鳴る。ツユは自分の手元にクエスト表示が出ていることに気が付いた。

《クエスト:カバラの試練が開始されました。キャンセルはできません》

「えと、マーガリンさん?」

「言ったでしょ、隠しジョブがあるって」

 ひぃ、というか細い悲鳴は、薄暗い室内へと溶け込んだ。


「まあ、といってもあたしゃ、あのジジイどもみたいに力比べするつもりはない。行うことはひとつ。カードゲームだ」

 座りな、と言いながら、エレナはカードを配り始めた。

「カードゲーム?」

「とは言っても、やることは単純さね。神経衰弱、言ってしまえばそれだけだ。ただし、失敗するたびにお前さんは三割のダメージを受けることに「じゃあ、私からでいいですか」

 エレナが答えるよりも速く、ツユは無造作にカードを捲り始めた。

 一組目。ハートの9とハートの9、正解。

 二組目。ダイヤのキングとダイヤのキング、正解。

 三組目。ダイヤの3とダイヤの3、正解。

 ツユは手を止めることもなく、位置が分かっているように捲っていく。

「ちょ、ちょっと待ちな。あんた、なんで場所が分かってるんだい?」

 思わずエレナが止めた。

 まるでおかしなことを聞いたかのように、ツユは首を傾げる。

「だって、おばあちゃんのシャッフル見てたら場所は全部分かるよ?」

 マーガリンと、エレナは絶句する。そんなことが可能な訳がない。

 変なことを聞くな、とツユは思った。

私はただ、トランプの初期位置からシャッフルの様子で、位置を割り出してるだけなのに。

……

二十五組目。クローバーのエースとクローバーのエース、正解。

二十六組目。スペードの4とスペードの4、正解。

テーブルに、トランプはない。先手で、ツユが全てを取り切った。

「合格さね。あんた、何者なんだい」

「兄の、妹ですけど」

「……マーガリン、あんたとんでもない子を連れてきたね」

「アハハ、まさかここまでとは思わなかったよ。遥君、凄い妹を持ってるね」

「お兄ちゃんの方が、凄い」

 風見は目を細めた。なるほど、遥が話さない訳だろうと、納得する。こういう手合いの人間は、おそらく彼が一番嫌うタイプであるのを風見も知っていた。

「……まあなんでもいいさ。これがクエスト報酬のジョブオーブさね」

 老婆は机の下から白いオーブを取り出した。

 躊躇するように、ゆっくりとツユはオーブに触れた。

《ジョブが魔法使いから数秘学者に変更されました》

「数秘術、カバラ?変なもの」

「はっそうだろう。あたしもそう思う。だけど、あんたの目的には役立つだろうよ」

 エレナが一冊の本を取り出した。古めかしい、持つだけで力を感じるような本だ。

「お前さんが研究するつもりもないことはよく知ってるさ。だからこそ、思うままに使えばいい。数秘術は道具さね。道具は、使い方次第で如何様も化ける。せいぜい、後悔のないように、ね」

《ボーナススキルとして、数秘術【属性】を獲得しました。また、ゴーレム作成と占星術のどちらかを獲得できます》

 光るホログラムを前に、ツユはほとんど現実から手を加えていない、形のいい顎に手を当て、悩んだ。

 ゴーレム作成、これはおそらく想像した通りのものだろう。……戦う兄の姿が思い浮かんだ。却下、無しだ。彼に勝てる姿は想像できないし、多分足手まといにしかならない。

 そうすると、取るのは占星術。何かには役立つだろうと決め、タップする。


「こいつはあんたの役に立つものだけど、すぐに変えても構わない。ああ、それと教えを請いたくなったらウチに来な。あたしゃ、あんたなら歓迎さね」

 にんまりとエレナは皺だらけの顔で笑い、本を差し出した。


武器:無名の魔導書

 遠い西洋の国家で発展した数秘術を使うための武器。殴っても痛いだけだ。

 数秘術に補正 耐久:800


「武器もジョブもスキルも手に入ったね。それじゃ、レベリング、行くよ!」

「……はい」

 そうして、二人の少女は街を抜ける。強くなるために。人を、殺すために。


何書こうか悩んで妹ちゃん視点です。頭脳戦は苦手なので、ごく簡単にかつそれっぽいものを。

ちなみに没案だとゴーレムでロボゲー始めるルートもありました。趣味で軽四脚です。

コメント、いつもありがとうございます。返信する気力もないですが、励みになってます。

次回は近いかも

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[良い点] めっちゃ面白い更新待ってます
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