55 敵はスイーツセット
新しい刀が手に入ったのならまずは試し斬りだろう。
幸いここはβ鯖。試し斬り用の藁があっちから歩いてくる地域だ。
そうこうする間にもう来た。
「オラッ首狩りテメェ覚悟だ死ねェ!!」
「刀が無いとは僥倖首寄越せや」
「【逆月】」
鞘走り、太刀がほんの少しの抵抗を残しながらASに従い刀身を洗わにする。
そう認識する間にも身体は動き、白い軌跡だけを残してモブAの土手っ腹を切り裂いていた。
「一応抜刀スキルは太刀でも使えるのな。ただ間合いが前よりも長い、か」
「───!!!」
そして打刀よりも重い。打刀のつもりで振るったせいで危うく体幹を崩すところだった。
ついでにフリーズするBを横目にしっかりとAにトドメを刺してポリゴンに変え、Bに注力する。
「お前なんで刀を──」
「侍が刀を持ってなくてどうするんだ。【風】よ」
そうボヤきながら【風】を纏い、滑るように下段でBに突っ込む。
それを見て盾を前に、剣の間合いを隠すようにBは構えた。
現実でもある構え方だが、実際合理的で攻めにくい。
片手剣と盾は攻防手堅いが、あいにく攻略法はもう、決まっているのだ。
「ハアッ!」
「はっ」
短く漏れる声と声、そして直後に剣と剣がぶつかり火花を散らす。
迎撃のため振り下ろされた剣に合わせるように切り上げ、鍔迫り合いに持ち込まれる前に刀身の長さを利用して剣を流し、盾を持つ左へ逸れながら足を使って急回転。
そのままがら背中から空きの首目掛け、独楽のように風ノ型太刀AS【落椿】を叩き込む。
赤、というよりも椿色という方が正しいか。
ともかく。椿色に染まった蒼い刀身は打刀よりも深く、滑らかに骨ごと断ち切り、ホームランでも打ったように首を飛ばす。
は?とでも言いたげな顔を一瞬だけしたモブBもポリゴンに変わって砕け散り、リザルトが写し出された。
さて、まだまだPKはそこらじゅうにいるだろうから狩りながら街にでも帰って……あ、アガサとの約束忘れてたな。
流石に数日経っているのでアガサはログインしていなかったがとりあえずメッセを送っておく。
音速で帰ってきた。しかももうログインしているじゃないか。
そんなに俺に奢りたかったのだろうか。
そんな訳で早速モリアーティのカフェ・モランでアガサと合流した。
「おお〜本当に刀を手に入れたんだねぇよかよか〜」
「さて、それじゃあ約束通り奢って貰おうかな」
「それはもちろん」
何故かニヤリと笑ったアガサはウインドウに表示されたポップアップメニューを普段の緩慢なイメージからは想像出来ないほど素早くめちゃくちゃにタップしていく。
いや、もしかしてこれは……。
「これでヨシ、と」
やはり何か順番があったらしい。
最後にショートケーキをタップすると、普段の白いポップアップメニューは、魔女の笑う顔と共に反転し、不気味な黒いメニューが浮かび上がった。
そこに表示されたのはひとつだけ。
『魔女の頭蓋骨盛りスイーツコース』
「もう名前からしてヤバそうなんだけどこれどんななの?」
「さあ?」
「え?お前食べてないの……?」
「そりゃあ僕はメニューの表示方法を聞いただけだしね〜」
「仕方ない。一緒に食べてもらうぞ」
「もちろん。僕も気になるからね」
ポチ、と最後に1回そのメニューをタップすれば、すぐさまNPCが2つ、明らかに人間の頭蓋骨にしか見えないを運んできた。
「『魔女の頭蓋骨盛りスイーツセット』でございます。どうぞごゆっくりお過ごしください」
NPCは一礼し、そしてゆっくりと頭蓋骨の上をスライドさせるように外した。
中に詰まっていたのは………
これまた毒々しいまでにピンクのスポンジケーキとチョコレートや木の実。そして脳みそを象ったような砂糖菓子だった。
「これはちょっと」
「うん…」
「「凄まじいな……」」
見ているだけで目が痛い。さっきまで殺し合いをしていただけにちょっと精神にクるが、そんなことを言っても仕方ない。
腹を括ってまずはケーキにフォークを入れた。
「見た目に反してちゃんと美味しいのなんか負けた気がする」
「君が来るまでに色々食べてみたけどこのケーキ、1番美味しいよ……」
色が激しいだけで、生クリームはとてもサッパリとした味わいであり、スポンジも柔らかく美味しい。
間に挟まる酸味が少し強いベリーもアクセントとして機能して生クリームの甘さを中和しており、悔しいがめちゃめちゃ美味しいのだ。
こうして男二人、仲良くスイーツに敗北したのだった。
そうしてスイーツを堪能し、食後にまた毒々しい色をした紅茶を(これも悔しいがとても美味しい)飲んでいた頃合でアガサが切り出した。
「で、ツキハ〜どんな刀を手に入れたんだ?」
「んーああ。これだ」
店内ということもあり、比較的目立たない場所ではあるが慎重に太刀を鞘ごとアガサに見せる。
「これは……凄いな」
「やっぱり鍛冶師からはそう見える?」
「うん。素晴らしい出来だよ。このレベルはまだプレイヤーじゃ辿り着けないんじゃないかな?」
刀身を少し抜いて検分し満足したのかアガサは納刀し手渡した。
「だけどきっと僕達はこれを作った人を越える物を作るよ。ううん、絶対にだ」
「そうか。それは楽しみだ」
「そしたら君が使ってくれよ?首狩り君」
そう話す彼の瞳には熱い炎が渦巻いていた。
それはなんというか……そうだ。
──まるで、鍛冶場の炎のように。
「ま、性能しだいだな」
「そこはちゃんと頷いくれよ〜!!」
「それはちょっと恥ずかしいからな。誤魔化す!」
「それはもう誤魔化せてないって言ってるのと変わらないよツキハ〜」
「うるさいんじゃい!そういうものなの!」
「はいはい。そういえば明日じゃなかったっけ?妹さん来るの」
「え?マジ?そんなに時間経ってたっけ?」
VRヘットギア自体の機能であるカレンダーアプリを開き、見てみれば本当に明日である。
どうしたものか。逃げるか?
「ダメだよ〜?逃げちゃ。人を殺してもいいけど家族を悲しませるのはアウトだよ。PKとして以前に人としてね」
まったく、狂った倫理観である。いや、それに納得する俺もおかしいのだろうが。
「分かったよ。逃げても仕方ないものは仕方ない。しっかりと『洗礼』をしてお帰り頂くことにする」
「うむ、それならヨシだ」
「アガサお前たまに思うけどキャラ安定しないよな」
「ロールプレイングなんて適当でいいんだよ適当で」
そう言いながらアガサは机に突っ伏し溶けながら適当に手を振るのだった。
生存報告です。最近また投稿してなかったのは公募用の作品をずっと書いてたからですね。
新作をイチから書くのはやはり難しいものです。
なんでまたしばらく雲隠れすると思いますがお許しを……




