54 その太刀の銘は
赤い男に連れられ濃霧の道を歩き着いたのは、庵というには大き過ぎる小屋々だった。
「こっちだ」
森にこんな場所があったのかと驚く俺を傍目に赤い男は気にした様子も無くひとつの小屋に入っていく。
そこは鉄と火が踊る鍛冶場。
のはずなのだが……。
「酒臭せぇ……」
鍛冶場というもの普通鉄と泥の匂いがするものじゃないのか?
だというのにここの匂いは酒、酒、酒。それも俺は飲んだことが無いので詳しくないが恐らくそこら辺に転がってる洋酒と日本酒の混ざった最悪な匂いだ。あとゲロ。
「ガハハそりゃあそうじゃろうな!!」
しかめっ面の俺を横に愉快愉快と笑う男を改めて眺める。
赤い。身につける和服は勿論のこと、肌や髪そして目まで鮮血のように真っ赤なのだ。
不勉強なだけかもしれないが俺は現実でもファンタジーでもこんな種族は知らないが一体この男は何者なのだろうか?
「どれ、とりあえずこっちに来い。お前も気になるだろう。儂の素性から話してやる」
「……アルミホイル巻かなきゃか?」
「……普通にお茶だ」
「小僧に酒は出さんよ。ま、儂のは熱燗だが」
湯呑みで飲むな湯呑みで。
「さて、儂が何者かだったな」
「ああ。俺の知識不足かも知れないが本当に何の種族か分からないんだ」
「儂は美録。酒豪の美録だ。種族はちぃと珍しいかもしれないが猩々という種族だ」
「猩々…?猩々……ああ!も○のけ姫の石投げてくるアレか!」
「その姫の巻物に登場するのかもしらんが儂はただの鍛冶師よ。最も今はただの酒飲みに違いないが」
「ひとつ質問いいか?」
「構わん」
「あんたに仲間は居るのか?」
美録と名乗った男1人で使うにはここは大きすぎるのだ。もしかしなくても仲間は居るだろう。
「ふむ……面白い質問だ。しかし答えは否。儂は今1人きりだ」
「差し支えなければ昔居たのか教えて貰っても?」
「ダメだ」
「そうか」
どうやらフラグが足りなかったらしい。というかその回答は実質YESだろ。
「あ、そういえば気になったんだがさっきのテレパシーとなんか話し方が違うのな」
「んー?ああそれはアレだ。そっちの方がかっこいいじゃろうて。そらに雰囲気もある」
「いやそんな理由かよ……」
「それよりもお前さんは何故こんな森に来た?」
「それにはこういう事情があってな──」
そうして俺はインベントリから爺さんに貰った鍔を取り出しながら美録に経緯を話し始めた。
「ほう、なるほどなるほど。であれば奴の素材も持っているだろうな?」
「ああ」
メニューからゴロゴロと怪傑のガスラークの素材を出し始める。《ガスラークの豪腕》《ガスラークの重皮》《怪傑のガスラークの角》《ガスラークの鉄肉》《ガスラークの堅骨》《怪傑のガスラークの骨髄》《怪傑の呪血》
何故かただの骨やら肉やらではなくわざわざ堅いとか付いているのはボスモンスターだからだろうか?それともゴブリンキングが上位モンスターだったからか。モンスターハ○ター的な。
そんな馬鹿なことを考えてる間に素材を見た美録は目を見開き、そして黙ってしまった。
「どうかしたのか?」
「小僧。お前さっき太刀を使ってどうだった?」
俺の質問は無視らしい。
「どう、と言われてもまあ長くていつも使う打刀よりは扱いにくかったなとは思った」
「じゃあ使えない訳じゃないんだな?」
「え、まさか太刀を作るのか?」
「そうだ。俺の目が老化で狂ってなきゃお前は間違いなく太刀の方が向いている。いや、絶対に伸びるだろう」
「いつも使うのは風ノ型っていう速度重視なんだが」
「問題無いじゃろうて。あの小娘のことだ、どうせ太刀用の稽古だって付けてくれるわ」
「そこまで言うほどなのか?」
「何より俺は太刀の装飾が今とても作りたい」
「そっちが目当てじゃねえか!!!」
────
「刀を作るのは炎からだ」
鼻歌交じりに青い木炭を炉に注ぎ込んで行く。
「コイツは輝燐炭。ちと製法はめんどくさいが抜群の火力と特殊な炎を作り出す特別製だ。普通は使わないが今回は特別だ」
たちまち火は青い輝きを放ち出す。それはそれなりに離れているにも関わらず肌に熱さ感じるさせる程だ。
そうして出来上がった炉に美録は懐から取り出した鉱石を放り込んだ。
「普通の鉄じゃないのか」
「それじゃあせっかくの素材に勿体ないからな。秘色鋼つう…まあお前さんのレベルにちょうどいいぐらい玉鋼だよ」
今度はそこら辺に放置されていたゴブリンキングの骨やら角やら更には背骨までをも炉に放り込んでいく。
その度に青、黄、緑と色とりどりの光が炉から漏れだしそして消えて秘色鋼と合わさり出す。
「最後に大事な物を入れる」
美録が握るのは折れた真如の片割れ、いや魂。それを美録は慎重に炉に入れた。
ゴゥと今までとは比較にならないほど大きく真っ赤に燃え上がったのは途方も無いほど血を吸っていたからなのか。
「ここだ」
ともかく作業は続いていく。
火バサミで掴んだそれを金床に乗せたかと思うと高速で叩き出す。
カーン!カーン!カーン!
目の前の赤い男──美録は鉄を叩き、熱し、叩き折り曲げては熱し、そして叩く。
この作業を繰り返し、ようやく鉄を伸ばし出す頃には明るかったはずの外も真っ暗になっていた。
「さあ後は焼き入れだ」
炉からゆっくりと引き抜いたソレはもう最初の鉄塊とは別物のように薄く、そして長く引き伸ばされ、輝いていた。
そしてをその赤熱する鉄を一息に美録はゴブリンキングの呪血へと突っ込んだ。
俺は確かに見た。見てしまった。
赤く輝く鉄へと群がる無数の真っ赤な腕、腕、腕。
そして自らが加熱される苦痛に耐えかねたなのような怨嗟の聲を、確かに聞いた。
「見ろ出来たぞ」
ハッと我に帰って美録の方を見れば、血の池から引き抜かれた鉄は赤黒い血とは真逆の、深い蒼に輝く美麗な刀身と、大波のようにうねる刀紋を持った太刀に生まれ変わっていた。
「これが…俺の剣なのか?」
「そうだとも。もっともまだ少し工程が残っては居るがな」
見とれた俺に苦笑いするように美録は笑った。
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「よし、これで本当に完成だ」
相変わらず綺麗な刀身と真如のときよりも長めでマッドな黒の謎の材質の柄。普通の木材じゃないっぽいのか?
調整が必要なはずの握り心地は何故かピッタリと、真如と同じで欠片の不満も湧いてこないのだ。太刀に変わったはずなのに。
「ガハハそれが魂の力だ。小僧それより鍔を見ろ鍔を!」
「鍔?」
見ればさっき美録に渡した鍔が装着されている。これは…椿か。俺の刀に縁起の悪いデザインとは実にピッタリだな。
さて、ここまでは納得のデザインばかりだったがここからが問題だ。それは鞘。
柄と同じマッド感のある黒の地素材と銅系の鈍い金属製の装飾が鯉口付近と先に付いているのはいい。かっこいいしな。
だがその上を2本の黒っぽい深緑の化け物の腕が左右から掴んでいる禍々しい装飾デザイン。これ怖くないか?俺はちょっとビビった。だって絶対これゴブリンキングの腕じゃん……。
ちなみに余談だがその手首に繋がる紐から太刀を佩く紐が繋がってたりする。実用性もあるのがなんかやるせないなほんと。
更に余談だが柄先にはゴブリンキングの角を削った奴が引っ付いてて多分刺せば痛そうな感じがするのはちょっと嫌らしくて好きだったりする。
そんな総合して(?)大満足な新しい相棒を物騒な鞘に収め腰に佩く。
「うむ、やはり似合う」
「そうかありがとうな。それでこの太刀の銘は──
「虚空切真如」
「その刀の銘は虚空切真如だ。虚空に沈んだゴブリンキングの血肉を織り交ぜた王を制し者だけが持つお前だけの刀だ。大切に使え」
「……当然だ」
そうして、俺は新しい相棒を手に入れた。
《虚空切・真如》カテゴリー:太刀
STR+150 AGI+100
斬撃と刺突の攻撃とASに中補正
耐久値580
ツキハと仲間たちが切り伏せた幽谷に沈みし小鬼の王の素材と折れた真如の魂を織り交ぜて作った太刀。
『ソレは今も見ている。ソレは今も聞いている。例え死せど諦めること無く進軍の機会を探しているのだ。冒険者よ、心して決して油断無きことを祈る』
──猩々が一人美録より
感想貰ってウッキウキで書いてました。深夜に朦朧としながら書いてたのでなんか問題があったらコメントまで。
あ、テンプレ3点セットはもう言わないんで適当に入れてください。
5月31日素材の名前を怪傑のガスラークに変更
多分次は遅れるんでお面の話とか妹ちゃんとかはまた今度……多分次回には出るけど(出るとは言ってない)




