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少年は刀一本でPKになる  作者: 鳩乃蕃茄
妹の属性には気をつけよう
67/79

52 求むるは蛮勇、示すは殺し

チェンソーマン9巻で死んだので初投稿です。あ、2ヶ月ぐらい更新止めてごめんね

「あー外何も見えんなこれ」


「それよりこのケーキ美味〜い」


「花よりウンたらかんたらってか。いや、しかしほんとに味覚があるのマジで意味わからん」


 モリアーティにはここ、カフェ・モランと街道の近くにあるポーロックの2つの飲食店がある。

 名前の悪趣味さはともかく、俺とアガサは滞在してからこっちのカフェ・モランを愛用していた。

 なんたって甘い物が多いのだ。森の木の実やら生クリームをふんだんに使ったパフェにクッキーにケーキにケーキ!

 実に素晴らしい。


「しかしいいの?ツキハ。奢ってもらっちゃって」


「いーのいーの。1人だけで入るのは辛かったから…」


「なるほど」


 β鯖はPK蔓延る修羅の国だがそれでも酔狂な事に観光目的のプレイヤーもいなくは無いのだ。


「あいつら同じゲームなのに何故か輝いて見えるのやっぱバグだろ」


「陽キャはゲームでも輝かしいんだねぇ」


 こちとら傍から見るとショタボ系ボロ布マッチョと殺意高い系サムラ○ソードの不審者コンビだ。

 カフェのマスターも若干引いておられる。


「そういやアガサの方は用事終わりそうか?」


「まだまだ終わらないんだよこれが〜。肝心の特殊な薪は見つからないし」


「時間かかりそうだねぇ」


 アガサの本職は鍛冶師だ。PKなのに。

 そういうわけで、彼が今murdersの武器修理を担っているのだが、別に戦えないこともない。なんなら直近のイベントにも参加していたくらいである。

 じゃあ鍛冶師らしくハンマー使うのかと思いきやハンマーは神聖だから使わないんだと。

 ゲームでそんなこと考えるとは変わってる奴だ。

 いや、だからこそか?


「で、ツキハの方はどうなの?」


「俺か?いや、まだ挑んでないけど、この霧には入りたくないんだよなぁ…」


 何も見えない。そう呟いた通り、目の前の森は俺たちのいる2階のデッキを越す高さまで鬱蒼と広がっており、漏れるように濃厚な霧が手前まで覆い尽くしている。

 一メートル先も見えないだろう。


「でもそうも言ってられないから困ってる」


「そうなの?」


「あー俺の苦手なやつとさ、今度一緒に遊ぶんだよね。この鯖で。だからそれまでには獲物作っときたいじゃん?襲われたらアイツ弱っちいから死ぬし」


「ふーん………」


 ケーキをフォークで切り、口に運ぶ。ブルーベリーに似た味わいの木の実が美味しい。

 さて、紅茶も…うむ、美味し


「さては女の子だね?」




 思いっきり紅茶を吹いた。


「ツキハ、汚いぞ」


「突然ドンピシャで当てられたら誰だって吹くだろ」


「あー本当にで女の子だった?」


「マジもマジ。しかもあっちに弱み握られてるから逆らえん。つかなんで分かった?」


「いや、男ならさっさと見捨てて逃げるか肉壁にするだろうなって」


「女でもしないか俺」


「………いや、してたね女でも」


「それはいいとして…パフェ…パフェ…」


「さーツキハ」


「ナニカナーアガサ=サン」


「今すぐ行こうね。死んでも大丈夫大丈夫。リスポはここになってるから。女の子相手にみっともない姿は見せられないだろ?」


「はぁ………分かったよ。それじゃ行ってくるわ」


「帰ってきたら限定隠しメニュー奢ってあげるよ〜」


「ういー」





 ━━━━━━━━






 ガサガサと落ち葉を踏み、深霧の森に入っていく。

 以外なことに霧が濃かったのは外側だけで、中に入れば見える程度には薄くなっていた。

 外界から遮断するみたいで不気味だが、何も見えないよりは100倍いいだろう。


 それほどレベルの高くない敵を蹴散らしとりあえず奥へと進んでいく。


 まあとはいえたまに一面真っ白な霧の中レベル27とか高レベルの敵も出てくるから油断は出来ないのだが!

 プロテクターに噛み付いた狼の顎を上から貫きポリゴンに変えつつポーションをガブ飲み。


「ふぅ…。なんか普通だな」


 別に敵が弱い訳じゃないが強くはない。

 刀関連と言うことで身構えていたが拍子抜けなのだ。まあ恐らく鍛冶場を発見すれば終わるだけの耐久簡悔精神系クエストだろうな。



 その思考は。



 "ほう。お前、生きがいいな"


 突如辺り一面からけたたましく鳴きだした鳥、虫、動物の音とそれよりもハッキリと聞こえた声によって裏切られることになる。






「誰だ?」


 "我か?ふむ、ただの鍛冶師だ"


「鍛冶師、ね」


 鳴り止まない鳥虫動物の声は明らか異常であり、脳内に話しかけてくるのもまたまともじゃあない。

 (あ、ファミチキください)


「なああんた。多分爺さんの言ってた人だろ?俺の刀を打ってくれるのか?」


 "………ガハハハハハハ!!この状況で動じぬか!よかろう"


「お、マジ?」


 "だが"


「ん?」


 "刀を欲するば力を示せ"


「お、クエストか?」


《クエスト更新》

[『鍛冶師』に力を示せ]

 どうやらその通りらしい。


 "──だが。そもそも、何をして力と証するか?"


「力ねぇ…俺は宗教とか哲学とかそういうのは深く考えたこと無いけどぶっ殺しゃあいいんじゃないか?」


 "うむ。それも力なり"


 だが、鍛冶師を名乗る者はしかしと続け──


 "力無くも技や知恵が優れるものはどうだ?"


「それは」


それも力ではある。


 "ならばもう一度問おう。何をして力とするか?"

「基準しだいだろ」


 "そう、比べる物、者、基準によって変わるだろう"


 "故に『我々』が求るモノも変わる"


 なるほど?


 "『我』が求るは力は蛮勇なり"


「蛮勇?勇気とかじゃなくて」


 "然り。人並み程度の勇気など、過酷な戦では何ら意味を成さない"

 "それ故の蛮勇"


なるほど俺の知ってる蛮勇とは違うらしい。


「蛮勇って具体的に何を求めるんだ」


 "ふむ…ときにお前。絶対に逃げるべき状況で敵を殺せる自信はあるか?"


 そのシンプルな言葉と共に春を思わせる暖かな空気は。

ひんやりとした、夏の早朝を思わせる冷たい空気に変わった。

 森の温かみを感じない、冷徹な戦場の気配。

 気がつくと辺りは霧に包まれ、視界は最初と同じ数メートル先を見るのがやっとなほど覆われていく。


「ご高説垂れるほど俺は口達者じゃないからシンプルに返すが……」


「要は邪魔するやつを殺せばいいんだろう?」


 ガハハハハハハハハと笑い声が頭に響いた。


 "まさに人斬り。まさに業人。実に結構!

 見せてみろ。お前の蛮勇を!!"



 その声を最後に虫の、鳥の動物のけたたましい鳴き声は消えた。


[クエスト更新!]

 彼のお眼鏡に叶う蛮勇を見せてやろう!


「説明軽っ!」


「さて、どう来る?」



 肩紐に掛けた直剣を抜こうと柄を探す腕は空を切った。

 「まさかインベントリも…だよな」

 武器1つ、盾1つインベントリから無くなっている!!


 そのとき。


 ようやく何か金属製の物が重なる音に気が付く。何だ…いや凄い速さで走ってきてる!!

 全く見えはしないのになぜかそれだけははっきりと理解する。


「どこだっ」


 危機感知の鳴り響く音に今更気が付き直感を頼りに思いっきり横に飛ぶ。

ゾクッとした気配は自らが狩人では無く被食者になるかもしれないという直感からか。


その直後、目の前をゾンッと何かが喰いちぎった。そう誤認するほど荒々しくも鋭い一撃。

そこでようやく名前とレベルを視認した。


 《生無き幽鎧》Lv.65


 見えた姿はボロボロの首のない武者鎧と長く引き締まったやはりボロボロの太刀。


 ......ああそういうことかよクソが。

 今までの関連クエストから考えるにもっと難しくなきゃおかしい。が、今回は他に武器があればそれで解決できる。

 彼はなんて言っていた?絶対に逃げるべき状況で敵を殺せる自信はあるか?

なるほど確かにこれは逃げるべきだろう。だろうが...。


「上等だゴラァ!!」


「まずはっ」


 2撃目はさっきより余裕持って転がりながら避け、思考を回転させる。

 どうすれば殺せる?殺すには何が必要だ?

 技、テク、武器。武器...そうだ、俺は武器が無くても奴は持ってるじゃないか。

 しかもご丁寧なことに刀。


「おいおいおいこりゃまあ蛮勇じゃないかァ!」


 やることは決まった。なら、あとは実践するだけ。


 再び愚直にも走りだした獲物・・を前に姿勢を下げた。


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