51 邂逅
ドアノブを引き目に飛び込んできたのは、必要最低限の家具があるだけの生活感の無い部屋。
そう、よそ見した瞬間白いモコモコが突っ込んできた。
「久しぶり!兄さん」
月乃結愛。異母兄妹にして最嫌の妹。
「…誰だ?」
「酷いよ。最愛の妹を忘れちゃうなんて」
美しいと可愛いの間のような顔立ちと、色素の薄く大きな瞳。銀糸のような白く長い髪は無造作に下ろされてるだけのはずが艶やかで、蠱惑的に笑う様は不気味にすら感じる。
「とりあえず座って〜ほら椅子も用意したんだから」
「なあ」
「ん〜?どうしたの。兄さん」
「なんでランジェリーなんだ?」
「んふー。着替えるの忘れちゃった☆だって自分の部屋だし?」
「 」
いや、落ち着け。落ち着け俺。
「どうせわざとだろ。部屋出てるから着替ろ」
「見ててもいいよ?」
にヘラっと笑みを深め左肩の紐を解く。
「……いい加減にしろよ。俺はお前のマセガキごっこに付き合いに来たんじゃないんだ」
「……分かった、それじゃ本当に着替えるから部屋から出てて、お兄ちゃん」
随分と久しぶりに会ったというのにお兄ちゃんは相変わらず冷たい。
体を張って恥ずかしくなりながら準備をしたのに見向きもされないのはさすがに心にクる。いや、一瞬少し下を見たから成功?
まあこの程度、どうってことは無いのだ。
だって私は唯一兄を慕い、愛する者なのだから。
「お兄ちゃん入ってきていいよ」
第2ラウンドのコングが脳内で鳴った。
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「はいよ」
「?」
「下で淹れた紅茶」
「……今度からは私が淹れる」
「そんな顔歪めなくても」
「これは茶葉に対する冒涜」
どうやらお気に召さなかったようだ。
ちゃんとパーカーと緩い短パンに着替えた結愛の腰掛けるベッドに床に座って寄りかかる。
「髪、染めたのか?」
「これ?気がついたら白くなっちゃった。なんでだろうね」
アハハとぎこちなく笑って結愛は髪を指で弄ぶ。
「……何があったんだ?」
「学校でちょっとね。まあどうでもいいよ」
「そうかよ」
「それよりさ、お兄ちゃん。学校はどうなの?」
「……学校なんざどうでもいいだろ」
「ふふやっぱ兄さんも社会不適合者だね」
「『も』、か」
「そう。私『も』不適合者だよ」
諦めたように笑う彼女に何故か腹が立つ。
「…クソが。で、今は部屋で何かしてる?」
「何もしてない」
「なんかしてんだろ」
「天井見ながらぼーっとしてる。疲れちゃったのかも」
「………」
会話というのは難しい。特に好きでもない心折れた人との1対1は。
「ねえ、お兄ちゃんはいつも家で何してるの?」
「基本はVRMMOとかのゲームしてるな。GOFってやつ」
「ふーん…私もやろっかな。暇だし」
それはマズイ。こいつとこれ以上関わる時間を増やしたくないぞ…。
「やめとけよ?GOFはな、プレイヤー同士での殺し合いが日常なんだ」
「控えめに言って頭おかしいんじゃない?」
「おかしいよ。な、やめようぜ?」
「まあ…いいや。私はお兄ちゃんと一緒に居られるなら地獄にだってついて行く」
俺は知っている。自らの決定したことを頑なに譲らないことを身を持って知っているのだ。
「…分かった。メモ帳あるか?」
「ん」
だから覚悟は決まった。どうせこいつとはどうにかしないといけないのだ。
ならばこんな辛気臭い部屋じゃなくてこっちの領分に持ち込んでどうにかする。
サラサラと所在鯖とフレコ、その他もろもろを書き込み手渡した。
「これで多分あっちで会える」
「ありがとうお兄ちゃん。勉強用にフェアリーヴィジョン自体はあるからゲームは買ってもらうね」
そういやあの漬物石そんな名前だったな。良く覚えてるもんだ。
「ああ」
「お兄ちゃんも変わったね」
「え?」
「やさしくなった」
「……そうじゃない。そうじゃないんだよ。ただ俺は」
お前は結愛と異なり過ぎて気持ち悪い。
それが本当に口から漏れたかは分からない。
それがどう伝わったのかは分からない。
けれど
目の前の少女はただ、笑った。
「……帰る。GOFの用意出来たら連絡してくれ」
「うん。来てくれてありがとうお兄ちゃん。嬉しかった」
振り向きはしなかった。
月乃結愛
生まれながらの完璧超人にして容姿端麗、親はとある大企業の専務という将来すら約束された、まさに『神に愛された少女』
ブラコンをエクセントリックに359°拗らせた。
多分ここは神の想定外。
あ、感想、ポイント、ブクマ等々くれると逆立ちして跳ねます




