47 遅刻まであと30秒
お待たせしました。無事試験が終わったのでまたのんびり書いてきます。
ちなみにちょくちょく前に書いた奴手直ししてるんで暇な時にでもどうぞ。結構変わってる部分もあります。
──才能は蝋燭だ。
火を付ければ才は燃え、やがて燃え尽き二度と帰ってはこない。
人によって長さや太さが違い、太く短く煌々と輝く人もいれば、細く長く小さく燃える人もいる。
故に彼女の大きく輝く膨大な蝋燭を見たとき。
俺はそれが
酷く妬ましかった。
第2章『兄想いの妹編』
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暑い。もう9月も終わりが近いというのに大変暑い。
これだけでも行く気が失せそうなのに更に今日は補習ときた。キレそうだ。
まあ、キレてもなんの解決にもならないからさっさと歩いて学校に向かうか。
「よう遥!元気してるか?」
「おはよう裕也」
相変わらずこのイケメンは爽やかだ。
「というか自転車羨ましいな!!乗せてくれよ」
「乗せるわけねぇだろ!……というかもう遅刻確定ラインだぞ」
「マジ?」
「マジ」
グイッと見せてきた今どき珍しい実体の腕時計は8時7分を指しており、残り3分しかない。
やばい。最近寝坊しまくってるせいで遅刻はもう許されないのだ。
「まあ、俺はチャリがあるから間に合うがな。んじゃな〜生きて会おう!」
「ちくしょうめ!!」
無慈悲に笑いながら走り去る友人を睨みながら走り出し考える。
ここから学校まで約500m。いつもの道は安定しているがそんなにはやくない。 (*ここまで約0.5秒)
ならば…!
区画の再整理が進む東京の中でも未だにごちゃごちゃとしたこの住宅街の、更に入り組んだ裏道を走り、ときには塀によじ登って、犬に吠えられ猫に威嚇されながら強引にショートカットしていく。あと100m!!
あとは目の前の正門に突っ込むだけだ。
「遥〜急げ〜!あと15秒だ!!!」
「うるせえええええ!!」
やばい。更にギアを上げて走る走る。
10分まで残り5秒…4秒…3秒…2秒…
「セーフ!!!」
「残念だがアウトだ!この遅刻魔」
若者の筋力低下が叫ばれる世の中で信じられないレベルの筋力を誇る20代新人体育教師兼生徒指導澤田(通称ゴリラ)の無情な声が宣言する。
「マジ?」
「大マジだ」
「テスト勉強して遅れたんで許してくれません?」
「嘘つけお前絶対ゲームしてたろ。いいから放課後職員室に来るように」
なぜバレた。
「ドンマイ遥。まあジュース1本奢ってやっから、な?」
「ありがとう友よ…」
「さてはまた何か変なテレビ見たな?」
───放課後
「そういや月乃、お前あれから剣道部の連中に暴行とかされてないか?」
「……されてないですよ。これで反省文はOKですか?」
「ならいいんだが。なんかあったら言ってくれ。次は俺が殴り返してやる」
ゴリラはこんなことでさえ平気で言ってしまう。
「俺のためにわざわざ若い教員人生潰さないでくださいよ。……後がめんどくさいんで」
「ハハハハお前、少し柔らかくなったか?冗談だよそんな睨むな。だが、本当にあったら言ってくれよ?」
「………では失礼します。先生さようなら」
「おう。明日は遅刻すんなよ〜!」
人は後からならいくらだって騒げるし口だけ喚くことも容易い。だから俺はあの先生が苦手だ。
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「あ、遥君今帰るとこ?」
「んーそうだけど。風見は部活?」
教室に戻ると、風見が帰宅の用意をしていた。
「いや今日は部活が休みなんだよ〜」
「なるほど」
「というか今日GOFメンテか」
「色々変更が入ったもんねぇ」
「クリ弓の終焉だっけ?」
「そうそう。クリ率がまた下がっちゃって、魔法が台頭するんじゃないかって言われだしてるね〜銃が最強なのになんで理解されないんだろうなぁ」
「あれは弾の素材にしてもデリケートすぎる銃身にしても扱う難易度が高すぎる」
「確かにずっと火薬の素材探してるからオススメは出来ないかも」
「マジか」
それにしても魔法対策はそろそろ本格的に考えないと、か。
「そういえば遥君今日パーティ組んで新マップ目指さない?」
「あーすまん今日は爺さんのとこに行くわ。刀折れちゃったからさ」
「ん、了解。よし準備出来たし帰りますか。あ、何か食べてこうよ」
「駅前のケーキ屋は前行ったからクレープでも行くか」
「いいね〜」
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「美味かったな」
「ね〜」
夏のような暑さと言えど、木陰に入ればそれなりに涼しいものだ。
そういえばいい加減あれを聞こうと思ってたの忘れてた。
「なあかざ」
「遥君さ、痛覚感度幾つにしてる?」
「え、ん?うる覚えだけど50ぐらいだったかな」
「50!?推奨が15とかなのに死ぬよそれ!」
現実で感じる痛覚の約半分。半分だがされど一生に1度か2度の大怪我をGOFでは息をするように起こる。軽く比べられるものでも無いだろう。だけど
「だけどまあ腕落ちたり刀がめり込んだら痛かったけどこんぐらい感覚鋭く無いと紙装甲でPKとかやってられんよ」
「ふーん。まあ体大事にしてね」
「ああまあ、うん、分かった。……そういやさ風見って」
ピロロロロ!ピロロロロ!
間の悪い電話が鳴り響きまたも遮られた。
「すまん」
「早く出てあげて?」
木の裏側に回り着信相手を見る。
『月乃玄永』
クソ親父かよ。
ため息をつきながら出る。
「…もしもし?」
「………すまん風見、ちょっと長くなるから先帰っててくれ。野暮用だ」
「あらら…じゃあまた明日ね〜!」
「おう」
『人払いは終わったか?』
「ああ。終わったよ。ちくしょう」
夏は終わり秋が近づくというのに暑さ変わらぬその日。
忌避したかった『ソレ』は1本の電話と共に始まろうとしていた。
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