ボス戦4-2
机組み立てたり島整備したりしてたら遅れました。
結論から言うと、水ノ型の安定した運用方法は攻めることだと俺は考えた。
カウンター型なのに攻めるとはなんぞやと思うかもしれないが、逆だ。
主軸となるカウンターの読み間違いによるミスを、攻めて相手の行動をコントロールすれば大幅に減らせるのではないか。そう考えたのだ。
それを成功させればこの嵐のような剣戟の中ですら時間稼ぎを行うことが出来る。
「高田馬場!3秒頼む」
攻める。スキルは敢えて使わず、同じ方向からの攻撃を繰り返し、対処するように誘発。
それをカウンターで腕を斬り、バックステップ、それと同時に高田馬場の文字通り曲芸のようにワイヤーで操られたダガーが暴れ回り、隙を埋める。
ちょうどリキャスト回復。同じくして下がった高田馬場と入れ替わるように前に出て、【一閃参方】。
ヘイトをコントロールしつつ、【流水】と『足』を上手く使って大剣を逸らし、続け様に斬りつつ、背後から高田馬場の【ハイドスライス】。赤い双刃が背中を抉る。
これで20秒。更にアドリブで3発殴り縦振り誘発からの躱しで隙を作ってバフをかけ直してもらい、また前に出る。
『敵増援4。背後!ハツ、ヤマザキ、芝5頼みます』
後方から聞こえる金属音と弓の空を切る音。
あっちも大変らしい。
建て直し完了まで残り140秒と少し。
「あら〜まっ゛楽しそうじゃな〜い!私も混ぜて♡【ダイ゛フーンア゛ックス】!!!」
「助かる!」
気味の悪いオネエ声、そして回転するトマホークと共に明美が復帰した。
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盾役が全員復帰し、ようやく安定してヘイトを回せるようになってきた。
怪傑のなんちゃらのHPは残り5割。
雑魚の討伐も最初は苦戦していたようだが、もういつも通り解体してるあたりさすがだ。
しかしそろそろだろう。
〈ぬぅっ!やりおるか……。
ならば我も本気を出さねばなるまい。
いでよ!絶対なる忠兵よ!我が兄弟よ!我が手足よ!〉
「っ!?殴れ!」
「ダメです!無敵状態です!」
「これ上位mod召喚か」
「うっわめんどくせぇ。下がれ下がれ作戦会議だ」
〈安らかに眠る者たちよ!
いでよ三賢者!目を覚ませ〉
魔法陣が王を囲うように現れる。
ソレは徐々に人の…いやゴブリンの形を形成仕出し、剣を、鎧を、杖を、盾を最後に羽付き帽子を作り魔法陣を突き破った。
[賢者ガナベラ]Lv36
[剣者ギルナーン]Lv37
[拳者エドガア]Lv36
「ダジャレかよ!」
思わず叫んだ。三賢者とかいうからなんか魔法系のじじいとかが出るのかと思ったらこれだよ。たしかに"けんじゃ"ではあるけどさ
「あ、おまそんな叫んだらっ」
凄い見られてる。なんか魔法の詠唱も始めてるな。
「………よし、俺は三賢者の相手してくるわ」
『いえ、やらなくていいです。というか突っ込むな誰か止めろ』
んな必死に言わんでも…。
「どうするんだ?」
もう既に三賢者は走り出している。
「とりあえず散開!魔法は躱せよ!」
『(三賢者を除いた雑魚の数は7。今動かせる戦力は……これでいこう)ツキハさんと明美さん、他主要タンクの方々は怪傑のガスラークの相手を頼みます』
「了解」
『高須とハマグリさんと芝5と高田馬場さんは前衛2人の相手を、「了解した」
マーガリンさんとNATOさんは魔法使いを速攻で頼みます。「とっておきで瞬殺するね!」
チナミとマヤは本体殴ってる2人に全力でバフと回復を回してください。
他雑魚を倒した者はヘイトに気をつけながら本体殴りをお願いします』
「あらあら無茶を言うわねぇ!火照っちゃう♡」
「んじゃ明美さんまたよろしく」
タンク役が挑発スキルを使用するのと同時に納刀、【隠伏】を発動し走り出す。
「さて、僕達も始めますか」
「あいよ」
第2ラウンド開始だ。
〈ぬぅまた貴様か武芸者………〉
「そうですよっと」
大剣と刀が数度ぶつかり、火花を散らす。
足、視線、身体の動き。それら全てを使って王の剣を誘導して躱し、ときには受け止めひたすらに時間を稼ぐ。
俺に攻めるつもりは無く、HPの減らない王に素早く決定打を打つ方法は無い、はずだった。
〈ぬぅぅ小癪な!剣人よ、来い〉
「ツキハ避けろ!!」
「は?」
今までの傾向から見てあえて正面から突っ込み大剣を誘は……ッ!まさかこの短時間で学習したのかよ!?
縦振りと読んでいた大剣は動かず、起こったのは視界外からの奇襲。
慌てて受け流しに回るが間に合わず、現れた剣人の細剣系AS【スティング】は肋を避け、肺を貫通した。
「ッ゛」
経験したことの無い痛みが走り、声にならない叫びを零すが
〈死ねェい!〉
やったのは剣者であり、目の前で王の大剣が黄色く、輝く。
せめもの防御とばかりに片手を峰に持ち、刀を構えるがそれでも重い一撃を防ぐには足らず、刀より柔らかい腕が骨に沿いながら縦に、裂けた。
「あ、ああ、あぁああああああああああああぁぁぁ!!」
スローモーションのように右手が裂け刀がめり込むのが見え、それと同時に訪れる異物が身体に入る奇妙な感覚。HPバーは出血と共に3割…1割…3%なんとか止まる。
「はぁ…はぁっ…痛覚上げすぎたかクソが…」
「ツキハッ!クソッ」
悪態をつきながらポーションを口に突っ込み深呼吸。 震える左手で一気に刀を引き抜く。一瞬、感覚が無くなり、遅れて激痛が体を貫きのたうち回る。
「遥君!!」
「今行くわよ!許ざな゛い゛」
〈ふん。所詮は戦士の紛い物、その程度か。死ね〉
それは慈悲すら籠った言葉と剣。
ここで死ねば俺は楽になれるだろう。
だが、だが!俺はまだ諦めない。
「この程度ッ!!」
目を見開き、唇を食いちぎり、痛覚で痛覚を制し、転り大剣を回避。2擊目を左腕だけで【流水】を使って受け流したところで、追い付いた明美が背後からヘイト技の【ファッキングブロー】を入れるが、それも構わずまさかの3撃目…
いや背中付近まで溜めた赤黒く輝く大剣はAS…!!
ボスがタゲも取ってないプレイヤー1人にここまで固執するなんて聞いてないが、言っても仕方ない。それも受け流して
「待たせたな!【アイアンズディフェンス】」
〈ブラストォオ・スマッシュウウ!!!!!〉
息も絶え絶えの高須さんの盾の裏に慌てて隠れ支える。その直後にとんでもない熱と衝撃が盾と人越しに襲ってくるがそれでも彼は耐えきった。
「高須さん…ありがてぇ……!」
「とりあえずこれでなんとかなったよな!?
ハァハァ…ヒーラーの方あとは任せた!」
「もうやってるさ!」
どうやらわざわざ乱戦中の三賢者から走ってきたらしい。ありがたいぜ。
既に限界もいい所だが幸い回復は間に合い、激痛は収まった。
もう少しなら明美が王の相手をしてくれるだろう。
ならば俺は目の前の剣人を殺す。
アイコンタクトだけで高田馬場に伝え前だけを見る。
「いくぞ」
目の前の強者、剣者ギルナーン目掛け地を蹴り突っ込む。コイツに構ってる暇はない。
故に速攻で決める、決めろ!!
刀を右脇に挟み、鞘と『定義』し、細剣が振られる間際、抜刀する。
脇に挟んだ形の不自然で不格好な形で放たれた【一閃】はしかしギリギリ奇襲としては成功したらしく、やや斜めの刃は細剣を跳ね除け、剣人の首を撥ねた。
「次だ!」
すぐさま未だ戦闘中のガスラークの元へと走った。
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それから数分後。片腕は失ったもののどうにか安定はしていた。
だが、誘導が明らかに上手くいかない。誘った剣に怪傑の剣が乗らず、また俺のカウンターも当たらない。
回復したとはいえ、完全に消えない痛みや左腕しか使えないことが原因だろうがどうにかしたいものだ。
…いや、あれをこうすればいけるか?
「そんなわけで受けをある程度頼んだ。誘導以外の方法でどうにか隙を作ってみせる」
「どういう訳か分からないけどわかった♡ワタシ意外と攻めなんだけどっ♡たまには受けもヤっちゃうわよ〜!?」
「その格好で攻めなのか……。まあOK!それじゃ行く」
タイミングはそろそろか。
再び片手で構え直し、右側に回りながら跳ね、叫ぶ。
「【桜花】」
閃光が、桜刃が右から左へ左から上へ上から下へと振られるが当然、防御され弾かれる。
だが、防御されることこそ狙いであり、
さらにそこに…
「【シャープ・アサルト】ォォ!」
ちょうど雑魚の討伐が終わった味方が偶然突進技で左肩にでも突っ込んだらそりゃ痛いから振り払うために剣を振ってしまうよな。
だけどそれは餌だ。
明美が斧を投げ盾で受け止め、さらに続々と雑魚狩りが終わったメンツが斬る刺す叩く!
さすが50人のうち8割が攻撃担当のイカれた集団だ。
レベル差があろうと代わる代わるのASはゴリゴリと凄い勢いでHPが削れる。
〈ヌウゥゥゥゥ!?許さん許さん許さんぞ!我が覇道は始まったばかりだ!このような事は許さん!〉
「いいから死ね」
言葉とは裏腹にアタッカーが下がった隙を突いて大剣を受け流し、カウンターで返す。
ピキッ
嫌な音が鳴る。やばい…極力受け流したり躱したりしてたがさっき無理に受け止めて限界が来たか。
相手の残りHPは1割を切った。
ギリギリか…。
〈我が覇道決して止まることはない。だが故にこそ貴様らを認めよう。そして我が道の糧となれ!〉
その言葉と共にゆっくりと大剣を振り上げられ黒く光り輝く。
「やべぇ!またアレか。いやそれの強化版か!今度こそ詰むぞアレ」
「高田馬場!何が来るんだよ!」
「名前は忘れたがこっちのHP参照の超広範囲攻撃だ!さっきは5割ぐらい持ってかれたが色的に今度は…」
「9割ぐらい持ってかれそうだな」
「だよな。見た目がもうやばい」
ここで使おう。そして決める。
〈いくぞ英雄達よ。我が最強の一撃を喰らえぇぇぇぇぇええええ!!!〉
まだだ。まだ、あと少し。
───AS発動【栄光の破滅】
叫び声と共に王ガスラークの全身全霊全力の一撃が振り下ろされ、黒い波動が戦場を覆い尽くす。
「───ここだ。【朧】」
自分自身の存在が揺らぐ感覚。世界はモノクロに、音は遠く息はまるで水の中にいるようで苦しい。
水ノ型中級達成報酬【朧】。0.5秒間のみ自らにオブジェクト以外全ての判定を無くす技。
今すぐにでも振り下ろされた剣から逃げたくなるが、震える足で地を蹴り走り出す。
これは逃げるための技じゃない。
振り下ろされた大剣は俺を斬る事は無く、体は歪み、そして王の背中に現れる。
そう、これは殺すための技だ。
ちょうど右手に感覚が戻り、世界は再び色を取り戻す。
「今までの借りは返すぜ。【餓狼】!!!」
斬り上げられた崩刀はしかし従順に主を動かし、ガスラークの半身を斜めに切り裂きながら、確かに心臓を斬った。
ガラスが砕けるような音が響くと遅れて大量のダメージエフェクトが吹き出しガスラークの身体が揺らぐ。
残りHP0。これでようやく死んだはず……
〈ガァァァァァァまだだ!まだだまだだマダダまだだ、まだだァァァァァァ!!〉
だがそれでも王は止まらない。体がポリゴンになり壊れようとも絶叫し、自らを喰らい、立ち上がりこちら目掛けて歩き出す。
〈効かん。効かん。効いてたまるものか。ゴブリンの復権はまだ始まったばかりだ。ここで私が死ぬわけにわいかんのだ〉
刀はない。味方はほとんどが瀕死か死亡し倒れている。どうすれば……。
「!? 」
そうだ、まだ獲物はあるじゃないか。
深呼吸。そしてゆっくりと脇差の柄に指を当て、目の前の敵を睨み、跳ねた。
「【一閃】」
超至近距離で引き抜かれた銀の刃は太い首に刺さり……
そして振り抜いた。
〈負けるわけにはいか、な、い。まだ、まだ、まだ、だ………〉
首の折れた王はピタリと固まり…
ポリゴンと化し砕け散った。
【Congratulation!!
怪傑のガスラークの討伐に成功しました!】
[『快傑』のガスラーク]
正義感に溢れ、義理堅く、剣の腕に優れた国のためを想い平和を願う12王の中でも1、2を争う優れた王。
しかしそれゆえ一部王からは邪魔者扱いされ、遂に人王と魔王の工作によりハメられた。
『名前の変更』により思考や剣技が大幅に悪化している。
そのため本来であれば、比べ物にならないほどに強い。
ツキハが右脇を使って抜刀術を放てたのは、【一閃】の発動判定が、
・使用者に刀が(鞘越しにでも)接触していること
・刀身が何かに挟まれていること
・発動時にある程度システムアシストが可能なこと
などの条件の為です。




