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少年は刀一本でPKになる  作者: 鳩乃蕃茄
PKのはじまりはじまり
56/79

ボス戦4-1

ようやく描きたかった場所までたどり着けた。

生きてて良かったすね

夜8時58分 ゴブリンの牙城前_


あいつに返事は返したはずなんだがどうやらまだ来れないらしい。


仕方ない切り替えるか。ああそうしよう。


「よーしお前ら元気かー?」


「「「「おおおおおおお!!!」」」」


「元気そうで何よりだ。あと5分後にそこの魔法陣からワープしてイベント戦最終戦を行くが準備はいいか?」


「OK」「バッチリですよ」「いつでも」


続々と返ってくる返事と空気には不思議と快感すら覚える。そう、これだ。この感じだ!ゾクゾクするような未知との戦闘に対する緊張と高揚感。

ああ早くボスと戦いたい…!

その気持ちを押さえつけ、演説を続ける。


「あのバカ剣客が爆弾投下してくれたおかげで攻略組(笑)は内ゲバで壊滅したらしい!

嬉しい限りだ。

俺はもうこうして話してる時間すら惜しく感じる。

さあ諸君、最後に一言だ。


楽しもうぜ」


29人が乗った魔法陣は徐々に輝きを強くし……


決戦の舞台へとワープした。





───




「もう9時じゃん……」


設定していたタイマーが鳴り響き、ようやく気がつく。

課題の終了率は65%ぐらいだろう。これなら休んでも文句は言われないはず…。


「というわけで1時間休憩させてもらう」


ちょうど覗きに来た母にそう伝える。


「えーあと5問で区切りいいじゃんそこまでやっちゃいなさいよー」


「いや無理。頼むから許して」


「分かったわよ。やっていい。だけど1時間は守ってね。守らなかったら香川県の刑よ」


ヒッ…1日ゲーム1時間のみ…通称香川の刑。


急がねば。


倒れるようにベッドに横たわり、ログインした。





━━━━━━




鐘が鳴る。


地下深くの封印地という言葉に似合わぬ優雅な空間が軋み、ガラスは割れ、ランタンの火は消える。


それに呼応するように中央の結界にヒビが入り出す。


鐘が鳴り響く。徐々に早く徐々に激しく。





やがて一際大きく鳴り、辺りは無音となる。



「……ッ!全員拡散!バッファーと魔法使いは魔法用意!シールダーはいつ来てもいいように構えろ!弓兵は番えろ」


殺気。


そして、結界が割れた。








〈ぬぅ…ここは……なるほど。我は封印されていたということか〉


現れた者は身長2m20cmぐらいだろうか。

今までの3m級のゴブリンキングと比べるとあまりに小さく感じてしまう。

そして何より目を引くのが身の丈以上はありそうな大剣だ。あれの威圧感は半端ない。


『貴様らも奴らと同じ門の者たちか……。


我が名はガスラーク


怪傑のガスラークである!!


我が望みは繁栄のみ。正義も法も既に死に絶えた!

さあ、我が従者よ、臣下よ、兵達よ!いざ行かん!!!』


『『ギィ!ギィ!ギィ!』』


呼応するように魔法陣から現れる従者とおぼしき鎧を身にまとったゴブリン達。


《怪傑のガスラーク》Lv40


「攻撃隊、突撃」



決戦が、始まった。



━━━━━━━━━━




「おお。目を覚ましたか」


「んん?爺さんなんで?」


「何でもかんでもお前さん、道場でぶっ倒れだろう」


言われて周りを見ると見知らぬ鉄臭い和室の布団の中だった。どうやら昨日俺は稽古のし過ぎで倒れたらしい。で、強制ログアウトしたのか。


「そだっけか。あ、すまん。こんなことしてる場合じゃないんだ俺行かなきゃ」


こんなとこで油を売ってる場合じゃない。


「体は大丈夫なのか?」


「大丈夫。んじゃな」


階段を駆け下り、街へ繰り出す。



「待つんじゃ」


「え、師匠?何故ここに?」


「可愛い馬鹿弟子が『アレ』に挑もうとしておる。なら少しは助けたいと思うのが普通じゃろう」


「おお、加勢してくれるのはありがた「とはいえ、わしは誓約で行けん」


おいおい


「じゃが、間接的に手伝うことは出来る。乗っていけ」


ニンマリ自慢げに師匠は笑い、「朧車」というつぶやきと同時にパチンと指を鳴らす。


轟音が響き、何かが止まった。


「マジか」


首のない牛とその全面にデカい顔がついた牛舎。まさに妖怪朧車。リアルサイズは怖い。


「……これは?」


「ん?だから助けてやると言ったろう?しかしさっきの通りわしは出られん。じゃからわしの眷属のこやつを使え。何速さは問題ない。はよ行かんか」


『お゛お゛お゛お゛お゛』


「あ、ありがとな」


「待て」


鋭い一言と共に爺さんが火事場から現れた。


「なんじゃジジイまだ生きとったんか」


「そう吠えるな幼子。今日はそこの若造に渡し物があってきただけだ」


「渡し物?」


「ああ。先も言ったがその刀、確実に折れる。だからこいつをくれてやる」


懐から小刀…いや脇差か。それを取り出し、渡される。


「これは?」


「名を〈閃刀小狐〉という。せいぜい自決にでも使え」


「お、おう」


受け取り、腰に差す。様になったか?


「終わったかの?じゃあさっさといかんかい」


「そうだな。爺さん、師匠ありがとう」


恐る恐る横から乗ると中は案外綺麗…というか可愛い。師匠の趣味か?


「よろしく頼む」


『それじゃあ出発〜』(も゛お゛お゛お゛)


頭のない牛の鳴き声と共にドスの効いた声が響き、ゆっくりと動き出した。





─────





「ッ!?今の一撃で何人死んだ!」


「アタッカー10名9割(レッドゾーン)!3名死亡!」


「了解した!タンク3名回復に回れ!HP大丈夫なやつは雑魚の相手を頼む!弓兵と俺はデカブツの相手をしに行く。援護頼んだ!」



そう指示を出しつつ乱暴に振り回された大剣を避け、受け流し時間稼ぎに徹する。

ゴブリン王の従者がここまで強いのは想定外だった。

数、質共に優秀で、ガスラークの指揮に柔軟に対応する、まるでプレイヤーだ。

前線は崩壊気味、後衛もバフすらかける余裕がない。

さらによりによって1番頼りになるアイツも今はいない。

ジリ貧だ。


「高田!」


「!?しまっ…」


突如鋭くなった大剣の横なぎ。ここで死ぬのか…?


「……て……って…待って!待って!待って!落ちる!死ぬ死ぬから!!あああああああ」


あ、なんか上から降ってきた。


「ふう…HPは…お、ほぼ満タン。古の漫画で見た5点着地もどきが上手くいったか…っ危ねぇ!?」


土煙が晴れ、現れたのは……


「はっ相変わらず無茶苦茶してんなぁ!」


「よう高田馬場元気か?ただの剣客遅れて到着だ」


場が沸く。1人来ただけ。されど1人だ。それだけ奴は場を変え、動かす力を持っている。


〈邪魔をぉ!!するなぁあぁああああ!!!〉


俺の首を断つはずの大剣は刀で受け止められ、火花を散らす。


「せっかく相棒が来たのに邪魔するじゃねぇよ。【スパイダートリック】」


6本のダガーをワイヤーで括りつけ様々な方向から同時に目を狙う。これで10秒は妨害出来るだろう。


「すまねぇ助かった。何秒ぐらいで建て直せるか?」


『200秒ください。建て直します』


後ろが冷静で助かるぜ。


「了解した!それじゃあ時間稼ぎと行きますか」


「あいよっと」


俺はダガーを、あいつは刀を構えた。

〈閃刀小狐〉

血まみれになりながら最後まで戦ったとある小狐の魂が籠った脇差。

自決?馬鹿馬鹿しい。侍は高潔に?間抜けが。そんなものは要らぬ。

最後の最後まで戦い抜け。生き残ればまた見えるものもあるだろう──


……次回はツキハ視点から。

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