43 相変わらず風見には敵わない
すみませんかなり遅れました&今回は息抜き回です
翌日。結局昨日はダンジョンを攻略し終えたらそのままログアウトしてしまった。
ほんとはもっとゲームがしたかったのだが…そう、何を隠そう今日は定期テストなのである。夕飯のときに初めて知った。
なぜ9月の中程に入ろうかというこんな時期にやるのかと思うが世の中そういうものらしい。冬と初夏だけだったらしい20年前が羨ましくなるな。
世の中の様々なものが自動化されていく中なぜか学校には歩いて行かされ、その上行ってもいじめられるとなるとほんとに行く気が失せるというものだ。
だが、休めない。今の時代大半の仕事をAIがこなし、大卒でも半分も採用されないような就職氷河期故にたかだがいじめ如きで休んでいられない。
……まあその分BIでニートでもそれなりに生きていけるのは内緒だが。
そんな訳で仕方なく一夜漬けで勉強し、眠いまま登校している今に至るが、時間は8時5分。遅刻ギリギリである。
全力で走るか!
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息を切らしながら教室に入るが、見向きもされない程度には相変わらず無視され続けている。
その対応に少し安心しつつ、席につき、空を眺める。
ネットサーフィンも悪くないがこういう時間も又悪くない。
「お前らー早く席につけー」
ガヤガヤと騒がしいクラスに担任が入り静かになる。
「それじゃあ9時10分からだ。名前書いとけよー
……それじゃよしスタート」
教師の発言と同時にタブレットの画面が切り替わり、問題が出現する。
最初は数学か。まあ得意だから問題ないだろう。
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「よし終わりだ。解くのをやめろ〜」
ふう。なんとか午前中のテストは終わった。
そんな訳で昼ごはんを屋上で一人で食べる。
空は綺麗だ。
何十年か前まで散々地球温暖化なんだかんだと言われていたが最近はSBSPやら電気自動車やらのおかげでほとんど防止されたらしい。
ちなみに環境活動家は今度は人間そのものが悪だと批判しているとか。相変わらず人間は醜い。
「よー遥。今日テストだって聞いてた?」
ぼーっと空を眺めていると視界に日に焼けた黒っぽい肌のイケメン顔がやってきた。
「いや、全く。というか昨日知った。んで裕也は勉強した?」
「いーや全く。俺は今朝気がついた」
「お互いやべーな」
「おう。それで出来たか?」
「とりあえず数学は大丈夫だろうが他が怪しいな…」
「俺は全部ダメだわ〜」
「まあ結果は放課後には出るだろうし仲良く来週に追試だ」
「おーよ」
「あ、やべ午後のテスト始まるじゃねぇか!じゃあなー」
「おう」
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「お前らーホームルーム始めるぞー。ついでに結果も報告するぞー」
にわかに教室が騒がしくなる。まあいつも通りだが。
………はい。追試確定だ。辛うじて数学は逃れたが、他教科は無事赤点。
「赤点は来週に追試するぞー。ちなみに今日からタブに追加問題も出すから忘れずやって提出するように。んじゃさようなら」
あーあ。今日からのログイン率は減りそうだ。
「って訳で数学以外はダメだったわ。お前は?」
ほんとは裕也と帰る予定だったのだが、どうやら予定が突然入ったらしく、たまたま一緒にいた風見と帰っていた。
「私?全教科85以上だけど」
「なんなんお前」
おかしい。風見は俺と同じぐらいインしてたはずだ。これが脳みその作りが違うというやつなのか。
「酷いな〜ツキハくんは」
「ツキハくん言うな」
「はいはーい。んでどうするの?」
「どうするって何が」
「いやクランの件。私にあそこまで言わせて置いて入らないとか無いよ?」
「あそこまでねぇ…」
「あーもうめんどくさいわね…。わかったわよ!じゃあ今からあなたの根本的に抱えてる悩みを暴く」
「無理だろ」
「はぁ…。怖いのよ、人間関係が。どう頑張っても上手く人間関係を築けなかったからもう自分はどうにもならないって諦めてる。何かやって失敗するよりもやらないで失敗しない方がいい。そう考えてるんじゃないの?」
図星かもしれない。
「そう、だろうな。うん、多分そうなんだろう。現実で人間関係に失敗して部活を1つめちゃくちゃにするほどのことをした。だから俺は現実が嫌いになってネットに逃げたけどそこで今度は怖気づいて立ち止まって動けなくなった」
「うん。そうだね」
「なあ風見改めて聞くがどうすればいいんだ?」
「決まってるよ。あのクランに入ればいいのよ。だってあそこには君と意気投合できる人達がいるよ?」
「でもなんか傷つけてるようなことを言ってしまうかもしれない」
「別にあなたがそこまで気にする必要は無いでしょ?傷ついたやつがいるなら謝ればいいじゃない。それも嫌ならその刀で殺しなさい」
いつもののほほんとした笑みとは違う勝気な顔。そこまで言ってくれる友達がいることが今は純粋に嬉しい。
「そっか。ありがとうな。こんな相談に応じてくれて」
「このお礼は駅前のケーキで〜。なんてね」
カラカラと笑いが零れる。
「いいぜ。どのケーキがいいの?」
「それじゃあねぇ………」
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「やっと終わった…」
ケーキを風見と食べて帰ると、非番だった母に赤点がバレ大目玉をくらい泣く泣く勉強してたのだが、担任が寄越した問題というのがかなりの量であり、やってもやっても終わらないのだ。
そうして5時には帰ったはずなのだが、気がつくと7時を半分回ってるくらいになってしまっていた。
「遥ー早く食べに来なさーい」
「ういー」
いつまでも愚痴を言っていても仕方ない。
ちなみに夕飯はパスタだ。
クリーミーで上に乗った卵黄と芳ばしいベーコンが美味しそうなカルボナーラとトマトのいい匂いがするミートソースパスタ。
俺はカルボナーラを、母がミートソースを選び食べ始める。
「あ、そういえば!あいつからあんたに言うように頼まれてたんだった」
普段穏やかな母があいつと呼ぶのは元夫で俺の血の繋がった父だけだ。つまりなんか厄介事だろう。
「どういう風の吹き回し?」
しかも俺と父とは割と仲が悪かったりする。
「なんでも結愛ちゃんに関することらしいわよ」
それを聞いて更に顔が歪むのが我ながら分かった。
月乃結愛、俺の妹にして多分上位互換人間。15歳。
成績優秀にして運動神経抜群、しかも人間関係も良好ときた。
それだけなら顔が歪む要因は無いが、あいつ、こんな兄も慕ってくる。自分より出来た人間が出来の悪い人間を慕うなど無意識とはいえいい気分になる人間は少ないだろう。俺は無理。絶対無理。
「そんな嫌な顔しないであげてよもう」
「いや無理だわ」
「と、に、か、く、話は最後まで聞いて。なんでも結愛ちゃん、いじめられてるらしいのよね」
「なるほど?」
それだけで割と笑顔になる。クズだと思う。
「んで近いうちになんか頼むからよろしくって」
「えーめんどくさ」
「まあそういう訳だからよろしくね。んじゃ今から夜勤行ってくるわ」
「頑張ってね」
さて、じゃあ俺はログインするとしようかね。
近いうちに結愛ちゃんは出てきます。多分。




