42 魔女
亡霊と争ったベッドルームの反対側、つまり礼拝堂の左側の扉を開け廊下を歩いていく。
5層のボスは恐らく今回最後のイベントボスだろう。だとすると4層のボスとは何なのだろうか?
その答えは恐らくこの何の変哲もない両開きの扉の先にある。
刀の耐久は不安だがまだ大丈夫。服もまだ壊れはしないだろう。万が一のときのことも考えて色々仕組んでおきはするか。
さて、では突入するとしよう。
抜刀し扉を蹴破り入る。
そこまで広くない正方形。天井は高くないか。
「生意気な人間が1匹入り込んだか」
そして魔改造された修道服から見え隠れする白い肌が美しい美女のような上半身と…
「何…その何?タコ?それともR18系のしょ…フベラッ」
掠った。凄い掠った。
「もういっぺん言ってみろ?なんですって?」
どうやら触手は地雷だったらしい。
「まあちょっとエッチで俺は好きだけどボスならぶっ殺すしかねぇなぁ!?」
「エッチですって!?いい度胸してるわね。ぶっ殺すわ!我が名はウィロー。魔女ウィロー」
「修道女だと思ったんだが魔女だったとは」
「さあ行くわよ!〈Slujitoriiservitori.Distrugeți intrusii bine〉!!!」
よく分からない呪文と共に無数の魔法陣から触手が現れ、一直線に襲いかかってくる。
「見た目に反してめんどくさい!!」
慌てて斬り、躱し……キリがない。ならばとこちらも一直線に本体に突っ込む。
「ッ!死になさい〈Un glonmagic〉!」
「遅い。【桜花】!」
桜色の刀身が伸ばした左腕を切り落とし流れるように腹を斬る。魔女の指から放たれるはずだった光弾は虚空に消え、青黒い血が吹き出した。
「い、痛いじゃない!〈Slujitor!〉」
魔女の背後から触手が現れ守るように固まり、俺に襲いかかる。どうやらこれ以上の深追いは危険らしい。
慌てて迎撃したが幾つか刺さり、痛覚を大きくしたことに後悔しながらポーションを飲み干す。
「これもしかしなくても相性最悪では?」
「そうね」
ズルズルと触手の壁が割れ、中から左腕が触手と化した魔女が息を切らしながら現れた。
HPは残り45%。どうやら行動変化の類だったらしい。
「いくらマナが変質してバケモノと化した私でも邪神に魅入られ、人殺しに特化した人間モドキに接近されたら厳しいわ」
「やっぱお前はあの日記の…」
ボソリと呟いた言葉は魔女には聞こえなかったらしい。
「でもそれはあなたも同じでしょう?」
「……そうだな。速攻で殺さなきゃジリ貧で死ぬ。つまり」
「近づかれるまでに殺せば私の勝ち」
「近づけば俺の勝ちだ」
少年は刀を構える。魔女は杖を持ち呪文を唱える。
魔女の呪文で壁から幾つもの触手が槍の用に生え、数多の魔法陣が地面から顕になる。
少年は風よと小さく呟き、淀む空気に風が吹き荒れる。
それは同時に始まり、別々の行動を経てまた同時に終わりを迎えた。
「血が止まらない…。ああ…私はここで死んでしまうの?まだ夢も叶えて…いない…」
「そうか」
「なーんてね。ま、扉を超えるには十分な実力はしてるんじゃない?」
崩壊が始まっていた魔女の体が直後ズルズルと触手に変わりそれも溶けた。
直感的に声の方に振り向き鯉口を切る。
そして聞こえてくるのはヒールの音。
「おいおいなんだそりゃ」
「あら?そんなに殺気を巡らせないでね。私はただの見送りにして橋渡し。私は殺しても意味は無いし、それに今の貴方ごときの力では傷1つ付けられない」
その通りなのだろう。既にこちらは臨戦状態にも関わらず指ひとつ、触手ひとつ動かそうとしない。
「分かればよろしい。それじゃ、せいぜい私をあなた達の愚行で楽しませてね。【門よ開け】」
5層へと続く扉が音をたてて開いた。
第5層
階段を降りた俺を迎えた光景は……
巨大な部屋…軽く30m四方はありそうな円柱型の空間であり、そしてそれを全部埋め尽くすほどビッシリと描かれた魔法陣と禍々しいステンドグラスの数々だった。
何より目につくのはその中央に浮かぶ巨大なタイマー。
この異様な雰囲気はここが例の十二王の1人が封印されてる場所なのだと全ての感覚を持って伝えてくる。
時間はあと2日と何時間か。
とりあえずまだここでできることはないだろう。
そんな訳で端にあった帰還用のポータルに飛び込んだ。
〈魔女ウィローの杖〉
教会全体の人間のマナが吸い取られたがしかし修道女ウィローは生き残った。
扉から溢れ出るマナを吸い取り耐え続けた。
この杖は魔女と化した悲運の修道女の在り方の具現化である。
HP+150 INT+50
……ちなみに本体の脆さと内容が合ってないと言われよくネタにされるのは内緒である。
雰囲気的にドロップアイテムを載せられなかったでここに出しときます。
ちなみにボスの強さはインスタンスダンジョンの参加人数によって変わるため、ソロの場合はあまり強くないです。




