19 遡って数日前
イベント1戦目後の闇ギルドにて
「なあツキハさん」
適当に受けるクエストを探していると、同盟のメンバーで弓使いのNATOさんが唐突に話しかけてきた。
「最後に撃ってた餓狼ってどこで覚えたんだ?かなり威力のある技だけども」
「あー。……すまんそれはまだ言えない。多分もう少ししたら分かるとは思う」
「そうか。まあ調べず聞くのもマナー違反だしな。また調べてから当たるわ〜」
「そこまで気にしなくていいです。またやりましょ〜」
うん。あの技はまだ、言えない。
たしかあれは数日ほど前…
─────
「おーす。爺さんこんにちは」
「おう」
爺さんのとこに修理しに行った時だ。
「修理お願いします」
「わかった。ちと待ってろ」
言われた通りそこらに座る。
「また派手に使い込んだなぁ。しかもこれ切ったの動物か」
「ちょっと色々あってな」
「切るなら他のやつでやらんか馬鹿者。獣脂と血で刃がダメになるわ」
「わるいわるい」
「ん?お前さん型を身につけたのか。ほう...なら後で鍛えてやろうか?」
「いいのか?ありがたい」
そして修理が終わったあと、あの道場に向かったんだったか。
「よし。さて、まず水ノ型をお前はどう認識してる?」
「...カウンターして戦う消極的な型?」
「間違ってはおらんが少し違う。水とは返すものじゃない。受け流すものだ。返すのはそのついででしかない」
「なるほど?」
「だが守ってばかりでは勝てないだろう」
「そうだな」
「故に返すのだ」
「うん。俺の言ったこととの違いがわからん」
「要するに、だ。あり方だよ。返すことじゃなく受け流すことこそがその型のあり方だ」
(目的が違うのね)
「わかった」
「さて本題に入るぞ。あり方がわかったなら今からやることはわかるな?」
「カウンターする?」
「馬鹿者が!ひたすら受け流せ」
「えぇ…。わかったよ」
「いくぞ」
爺さんは言ったが早いか刀を抜き、構える。
慌ててこちらも刀を抜き、構える。
「ふっ」
短く吐かれた息と共に物凄い速度で刀を突いてきた。
あ、これ避けられないわ。
ダメもとで【流水】を発動し、ヌメリと輝いた刀で横に受け流す。そして返す刀で振り下ろす、が...…
「ふむ...」
それを分かっていたかのように、スっと爺さんは避けた。
「ファ」
「返しが甘いし単純だ。もっと素早く、レパートリーを増やせ。それでは初級にすら届かん」
「そこまで言うならお手本見せてくれ」
「いいだろう。攻めてこい」
爺さんがしたように構え真正面からではなく、変則的に下から斬るが。
「ふっ」
だが短く吐いた息と共になんのスキルを発動した様子もなく受け流され、恐ろしい速度で切り返された。
「痛ってぇ」
「俺も遅くなったもんだ。これでは死んだ仲間に顔向けも出来ん」
「それで遅くなったのかよ」
「秋津洲の剣豪共はこんなレベルじゃないぞ。剣筋すら見えん」
「化け物しかいないのかよ」
「そいじゃあ鍛えるぞ」
そうして始まった特訓。
具体的には爺さんの様々な一撃を受け流し、躱して、反撃の一撃を鋭く早く出せるようにして...
簡単な内容だが中身は地獄だった。
「さて、丸2日やったか」
「ハア...ハア...爺さんすんごい体力してるな」
さすがに死ぬかと思った。
「まだまだ若いもんには負けんよ。そんなことよりもよくやったな水ノ型初級だ。【餓狼】も会得しただろう?」
「ああ。ありがとうな」
そうして俺は水ノ型の初級になったのだ。
初級。そう、まだ初級である。まだ上にいくつもあるというのだ。
気が遠くなりそうになった。
爺さんがヤバいのにも秘密があったり…




