幼馴染
話が進まない。でも次は初戦闘かな。
店のスタッフルームに入ると正面に裏口に通じる扉が見え、その左横にクロスの掛けてあるテーブル1台と椅子が4脚あり、そのまた左奥にはロッカーがあった。右手側の倉庫の様なスペースには掃除用具や出し物に使う備品、ダンボールがいくつか積まれており、その前には真剣な表情でダンボールの缶詰や飲料水を仕分けしている我が幼なじみがいた。
「円、迎えに来たぞ。」
「仁。来てくれたんだね、ありがとう。」
「当たり前だ、言っただろ?俺に出来ないことはお前に任せる。その代わり、お前に出来ない事は俺がやってやると。」
「分かってるよ、だから待ってたんだ。ロクさん、直ぐに店を飛び出そうとしてたんだよ?私は仁が来てくれると信じてた。」
「はは、シロさんらしいや。俺も円が生きていると信じていた。さぁ、さっさと終わらせて家に帰ろう。都と雪春が待ってる。」
「うん、仁は飲み物と缶詰を分けてね。私はダンボールに詰めていくから。」
「あぁ、わかった。」
俺と|終<<おわり>>|円<<まどか>>は家族同然の付き合いで、それこそ双子のように育った。円の父母は、生まれて間もない円を終家の祖父に預け蒸発した。終家の祖父と家の両親は昔から仲が良く助け合いながら子育てをしたと聞いた。
円が九歳の時に祖父が亡くなり、それから両親が後見人となって面倒を見ていた。家と苗字だけは円の硬い意思と遺産で守られた。
そんな環境で小さな頃から一緒にいたおかげで、俺と円はお互いに助け合う事が当たり前になっている。円に出来ない事は俺が、俺に出来ない事は円が。そう口にしたのは随分昔の事だったが、忘れた事は一時もなかった。
「仁君、円ちゃん。店は何時でも出られるようにしといたよ。そっちはどうだい?」
当面の食料や使えそうな物をダンボールに詰め込んだ時、シロさんがスタッフルームに入ってきた。手には厨房の各種包丁、フライパンや鍋等の調理器具を持っていた。
「凄い器用なことしてますね。曲芸でも習ってたんですか?」
シロさんがテーブルに荷物を置きながら答える。
「仁君も起きてからは身体が強化されてるでしょ?僕はそれに加えて器用になってるらしい。今なら指一本でも逆立ちできそうだよ。やらないけど。」
「あー、なるほど。色々体に変化があるみたいですね。まぁ、確認は後です。今は合流することに専念しましょう。さっき外を見た感じ暴動みたいにはなってなかっですけど、町側はどうなってるかわかんないですよ。」
森羅万象でも細かい街の様子は分からないようで、大まかな地図や被災?状況しか把握出来ていなかった。あ、ちなみにボヤの様な火事がいくつかあったのと、適応した植物のせいで道がいくつか変わっていくらいだった。
「そうだね、二人のことも心配だからね。円ちゃん、ダンボールは何個になった?」
「500mlペットボトル24個入りが1箱と残り11本と各種缶詰が1箱、ライトやタオルなどの雑貨が入ってるのが1箱の3箱です。」
「上出来じゃないか。今もってきた調理器具を詰め込んで、4箱だね。僕はこれを詰めるから、何時でも出られるように忘れ物の確認をしといてよ。」
そう言ってシロさんは調理器具をダンボールに詰め込み始めたのを見て、俺達も持っていった方が良いものを再度確認し始めた。すると、去年地域の祭りで出店を出した時に使った、角材の残りが5本ほど出てきた。俺の腕より少し細いほどの太さで、長さは2m無いくらいだ。
「シロさん、包丁を二本ください。円、そこの梱包紐とガムテープ取って。」
「いいよ、仁君。好きなのを持っていきな。」
シロさんのありがたい言葉に感謝しつつ、万能包丁と少し大柄な果物ナイフを選ぶ。
「これでいいです、ありがとうございます。あ、円もありがとうな。」
「いいよ、確認はしとくから。仁はそれ作っといてね。」
「りょーかい。」
まずは梱包用に持ってたカッターナイフで、二本の角材の角を削って持ちやすくする。次に梱包紐とガムテープで刃物を先端に固定した。すると、不恰好ながら簡易的な槍ができる。それを片方シロさんに渡す。
「まぁ、ないよりマシでしょう。雪春ならしっかりしたの作れますけど、俺とこの状況じゃそれくらいの物しか作れないですね。」
「いやいや、いい出来じゃないか、刃物のグラ付きも少ないし何より握りやすい工夫がされてる。ちなみに雪春君ならどうなるんだい?」
「使いやすいツールが1式手に入りますよ。石器みたいな物も作れますし、山菜の目利きも出来ます。それこそ生活だけなら出来ると思います。」
父がアウトドアが好きで、小さな頃からことある事に連れて行って貰っていた。俺はそこまででもないが、雪春は才能があったのかどんどん技術を覚えた。たとえ道具なしてで山中に入っても余裕で生き残るだろう。
「半端ないね、君たちは。こういう状況じゃなきゃ、都ちゃん以外は残念なんだけどね。」
「まったくね、ほら仁君。忘れ物はなかったから、私にも槍貸して。」
「いや、雪春ほどじゃないと思うんだがなぁ。」
「まぁまぁ仁君、今は役立ってるんだから、落ち込またいで。それより、忘れ物もなかったみたいだし行こうか。」
「シロさんのせいなんだよなぁ」
俺はそんなボヤキながら荷物を持ち、スタッフルームのドアを開けた。店はテーブルとイスが綺麗に重なって片付けられている。そんな閑散とした店に、寂しさを感じながら外に出た。