純血
ヴァンは、人間の少女を抱いたまま屋敷につれてきた。誰もいない暗い大広間で少女をおろす。その少女の肌に触れる度に、ヴァンの肩が上下に動く。きっと抑えられないのだろう。
「外へ出して。自由にして。もういやなの。苦痛なの」
ヴァンの能力『拘束』で動くことはできないものの、少女は叫ぶ。しかし、その少女は泣いていた。
「それはできない。お前は俺の生け贄だ」
獣さながらの声だが、ヴァンはまだ正気を保っているようだ。きっと限界は近いだろう。
「どうして自由にさせてくれないの。死なせて。私を湖で死なせて」
少女の目から大量に涙が流れる。湖とはきっと魔界で一番大きい魔力湖のことだろう。魔力湖は、魔力の源でもあり悪魔や魔女が管理をしている魔界にとって大切な湖だ。そこにはヴァンパイアも含め立ち入りが規制されていて、今の魔力を保っている。その魔力が薄まると、人間に倒されると聞く。
「お前が死にたいのなら、俺が吸い殺してやる。お前が本当に死にたいのならばな」
ヴァンの喉元がなる。ヴァンは脅すように牙を見せつけ、少女の肌に近づき、ゆっくりと肌を突き刺していく。
「痛っ。そんなもので死にたくない。あっ」
少女の声が色っぽくなる。何度も何度も溢れる声がヴァンを高ぶらせる。ヴァンの吸血音も同じく色っぽい。
「うまい。こんなの初めてだ」
ヴァンは、味わうように吸っていく。だが、いつもと違い欲望に任せてではなく優しい。まるで絹を扱っているかのように。いつのまにか少女は反応しなくなってしまった。
少女の意識が薄れたのを感じ、ヴァンは牙を離した。ヴァンは少し涙をぬぐい、また抱き抱えた。
「本当は死にたくないくせに」
冷たく、悲しみに包まれた言葉は暗い屋敷に響いて消えた。
「俺だって死にたいよ。永遠の命を持つヴァンパイアは死にたくても死ねない。俺は、人間がお前がうらやましいよ」
ヴァンは呟き終わった後、ソファーに少女を寝かせ、着ていた上着をかけた。




