微かな光
ヴァニラは、ヴァインに追いつかれないように全速力で走った。喉の激しい痛みに負けずに。後ろを見たら、捕まるのではないか。そんな思いで、後ろを見ることができない。早く、ヴァルに会いたい。それしか、頭になかった。何度か走っていた頃、ヴァニラは、体力の限界なのだろうか転んでしまう。何せ、ヴァンパイアなど、走るという機会がまったくといっていいほどない。力さえ使えれば、数秒で瞬間移動ができる。欲望に飲まれなければ。ヴァニラは、起き上がろうとしたが、腕が動かなかった。もしかしたら、ヴァインが近くにいるかもしれない。そう思うと、早くこの場から消えてしまいたかった。少しの月の光が、ヴァニラを照らし出す。
「誰か助けて」
ヴァイン以外はいなさそうな森に、届かないとわかっていながらも叫ぶ。ヴァニラには、絶望しかなかった。
あれからどのくらいがたっただろうか。前方から微かだが、足音が聞こえる。これは、人間だろうか。歩くスピードがヴァンパイアよりも遅いような気がする。しばらくすると、徐々に足音が大きくなる。静かで悲しげな歩きは、ヴァニラにとって微かな希望の光が見えた瞬間だった。その人は、泣きながら歩いていた。人間にとって見れば死の森。女子高生くらいの少女が、ヴァニラを横切る。彼女はからだが弱そうな細身な体型をしていた。彼女の視線は、ヴァニラに向いたのに素通りしていく。
「どうしたの?」
ヴァニラは、いつの間にか彼女に声をかけていた。彼女は、ヴァニラの声に気づいたはずなのに止まることはしなかった。まるで、自殺願望があるかのように。
「待って」
二度も声をかけたのに、振り向きさえしない。ヴァニラは、どこかほっとくことができなく足を引きずりながら手だけを便りに彼女のもとを急ぐ。なれていないからか、なかなか彼女のもとへたどり着くことができなかった。
「待って、そんなに奥には行っていけない」
ヴァニラは、追いつけない代わりに場所を制限した。止まってくれることを信じて。その時、彼女の足が止まった。それどころか、来た道を戻ってきている。ヴァニラは、姉妹の再会かのように喜びが溢れていた。




