渇望
また、獣たちが好む闇が訪れた。しかし、この闇は、いつもより暗がりが増しているような気がする。なにか訪れそうで訪れない、このなんとも言えないもどかしさは、何なのだろう。そんな中、闇の訪れと共にヴァニラは目を覚ました。そこには、ヴァインの姿はなかった。見渡しても、いる気配もしない。ヴァニラは、安堵し、逃げられるだろうと身をよじった。だが、動くことはない。しかし、それこそがヴァインの狙いだった。
「おはよう、ヴァニラ。調子は、どう?」
ヴァインは、いきなりヴァニラの前に現れた。ヴァニラは、驚きのあまり、声がでない。何せ、その力は、ヴァンパイアだけが持つと言われていた瞬間移動。ハーフは、吸血しか受け継がないと言われていたからだ。一体これは、どう言うことだ。ヴァニラは、動揺し始めていた。
「ヴァニラ、いつ婚姻の儀式を始めようか。どうせなら、早い方がいいよね。心変わりをしない内に」
突然、ヴァニラの体に異変が起きる。今日の朝、ヴァインの血を飲んだはずなのに、止められない吸血欲。激しい喉の激痛。
「く、くるしい。はぁはぁ。助けて」
ヴァニラは、極度の喉の乾きのあまり、声がしゃがれている。そう、飢えた獣のように。
「苦しいだろ、ヴァニラ。楽になりたいよな。ならば、言うがいい。婚姻の儀式は、明日行うと。そしたら、その乾き、満たしてやる」
まるで、すべての主導権は、ヴァインが握っているとでもいっているように聞こえる。そして、服従しろと目で訴えている。
「ヴ、ヴァインは、何がしたいの?」
ヴァニラは、苦し紛れにヴァインに聞いた。それには、語気というものは感じない。それでも、洗脳されないような自我は残っていた。
「決まっているだろ。ヴァニラを手に入れたいそれだけだ。」
しかしヴァニラは、たとえ弱々しさに漬け込んでヴァインに独占欲にされされても心変わりする気がなかった。なぜなら、ヴァニラが好きなのは、兄のヴァルなのだから。ヴァニラにとって今大事なことは、ヴァインに全てを奪われるのではなく、この場をどう乗り越えていくかしか選択肢はなかった。
「僕は、ヴァインなんて大っ嫌い。そうやって、自分が手に入れたいからって、手に入れようとする欲望。そんなヴァインとなんて一緒になりたくない」
苦しみながらもそう叫んだ瞬間、ヴァニラの自由を奪っていた鎖が外れる。それでも、乾きが治まるはない。ヴァニラは、力が使えると確信したのかヴァインの前から消えた。




