欲望
ある村に人ではない獣が住んでいる屋敷がある。その屋敷に近づけば、その獣に魅了されてしまうらしい。そして、抜け出せなくなり、永遠に屋敷にとらわれてしまう。そんな中、赤髪の少女が、涙を流しながら屋敷のそばを歩いていた。
「兄さん、早く捕まえてきてよ。おなかがすいて僕死んじゃうよ」
中学生ぐらいの女の子ヴァニラが、赤子のように駄々をこねる。ヴァニラの顔は、栄養失調と疑われてもおかしくない顔色をしていた。
「そんなの誘わなくたってほいほいとくるんだよ。人間は愚かだからな。欲望を内に秘めていたら、あとは、糸で手繰り寄せるだけだ」
ヴァニラの兄であるヴァルが、悲しげに嘲笑う。欲望を内に秘めているという面では、彼らも同じな気もしなくない。
「兄さんだって辛いでしょ。三日前に満月が来て死ぬかと思ったぐらいなんだから」
ヴァニラは、怖いといいながら淡々と話していく。
「俺だって辛いよ。死ぬかと思っても、飢えで死ぬことはないのだから」
ヴァルの嘆きは、今まで経験した悲しみすべてを思い出しているかのような気がする。
「兄さんは、繊細だもんね。人間は、愚かだと言っているわりには、自分の方が愚かだって思っているでしょ」
図星だろうか、言い返す言葉が出てこないでいた。ヴァルに悪いことをしたとでも思ったのだろうか。ヴァニラは、天を仰いだ。
「兄さん、僕、外に行ってくるね」
ヴァニラは、ヴァルのためを思ったのか外に飛び出した。その久しぶりの光景に、感動しそうになる。フクロウの静かな叫び。森の会話。月が照らす、獣の正体。
「今の時間は、ほとんどの人間が寝ているよね」
森にかたりかけながらヴァニラは、奥へと進んでいく。奥と言えば、人間界と魔界を繋ぐ、架け橋がある。もしかすると、そこに行こうとしているかもしれない。兄、ヴァルのために。
「どこに行こうとしているのかな。ヴァニラ」
誰かの冷たい手が、ヴァニラの肩に触れる。その瞬間、ヴァニラの後ろで悪寒がはしった。
「ヴァニラ、こっちを向いてよ」
ヴァニラは、恐る恐る後ろを振り向くと一歩ずつ退いていく。彼は、ヴァニラにとって恐れる獣。ヴァルの幼馴染みであり、なぜか、ヴァニラの婚約者となっている、ヴァイン。ヴァインは、獣といっても、ヴァンパイアと人のハーフであり、ヴァルよりも欲求が強い。ヴァインは、人と同じものを食べるが、ヴァニラたちと同じく、満月になると吸血欲が発生する。その欲は、誰よりも大きく、人間三人は軽くいけるという。その三人の末路は、死しかないが。
「ねえ、ヴァニラ。いつになったら、返事をくれるの?」
ヴァインは、どんどん近づいてくる。よく見ると、ヴァインの目が赤い。
「来ないで、来ないで。僕は、兄さんのために今からっ、ううっ。ハアハア」
ヴァインは、ヴァニラの首筋に牙を立てる。飢えすぎた獣のように血がすすられていく。ヴァンパイアは、極限状態の時まれに、ヴァンパイア同士の血液を取り入れる者もいる。ヴァルやヴァニラは、そのようなことはしないが、ヴァインは、頻繁にヴァニラの血液を取り入れる。
「やめて、ヴァイン。僕だって、今、お腹が空いてて」
ヴァニラの意識が遠のいていく。ヴァニラは、倒れてしまった。




