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プロローグ



 石川の山奥に地図にはのらない村があった。


 その隠れ里に住む一族は、鎌倉の時代から続く(しのび)である。

 ひたすら己の技を研き、その時代ごとの権力者の警護、敵の暗殺を(まか)されてきた。


 その里では優秀な遺伝子のかけあわせと技の継承により、常に最強の忍を生み出す努力が続けられきたが、遂に一族最強の忍が完成した。


 それがくのいち、阿也小路(あやのこうじ) アヤメである。

 今年16のスラリとした和風美少女であった。


 アヤメは長い黒髪をはねさせ

 「だ か ら、こんな山奥で一生を終わらせたくないの!来月には絶対出て行くんだからね!」


 向かいに座る髪の長い美中年は陣九郎。

 アヤメの父親である。

 「だ か ら、はこちらのセリフだ。

 これから先、任務がある時は連れて行ってやると言っただろ?

 お前は一族最高の身体能力、暗殺術の使い手、我ら阿也小路の宝だ」


 「でも任務って、それ終わったらすぐまたこの里に帰ってくるんでしょ?

 それにその任務だって一年に一回あるかないかじゃない!」


 陣九郎は茶をすすり

 「なんだ?欲しいものは買い与えてやっているだろう?何が不満だ?」


 アヤメはちょっと考え

 「えーと。インターネットとか、普通の友達とか……」


 「男か?」


 アヤメは目を丸くし

 「ば、お父さん何言ってんの?!意味分かんない!!」


 陣九郎は深くうなずき

 「お前も16か。俺も鬼じゃない。その内最強の遺伝子を受け継ぐ孫も欲しい。

 その為にそれなりにではなく、各地に目をやり最強の忍を探してやっている。

 くのいちが任務をまともにこなせなくなる三十路(みそじ)になったら見合いの縁をもうけてやるからそれまでは俺について、」


 「み、三十路?!三十歳ってことー?!何それ?!絶対無理!!」


 「まぁそう言うな。これから先、俺が隠居となれば、お前の肩には一族の全てがかかって来るのだぞ?

 お前も16、少しは立場と言うものをだな」


 「もう良い!!私寝る!!」

 最近の日課となっている家出話を強制的に終わらせ、自室に向かう。




 アヤメの部屋。


 後ろ手でふすまを閉じると、一族によって代々飼われてきた月の輪熊の子供、ヨシロウがアヤメを見上げた。


 アヤメは机に行き、イスを引き頭を抱えた。

 「ホントお父さんは自分勝手なんだから!!

 任務とこんな田舎暮らしの毎日なんて耐えられない!

 大体三十歳まで恋愛が出来ないなんて絶対無理!!」


 明日は7月7日、机の隣には七夕の飾りがあった。


 短冊を手に取り天井を見上げるアヤメ

 「あーステキなイケメンさんとイチャイチャラブラブしたいなー。」

 そう言いながら短冊にそれを書いたが、直ぐに丸めゴミ箱に投げた。


 「えーっと……七夕の神様、こんな山奥じゃなくて、もっとムードのある街でイケメンさんと出会えますよーに。と」

 少女らしい願い事を書き、イスに座ったままのびをし、あくびをすると電気を消して寝床に入った。


 金太郎のような真っ赤な腹かけのヨシロウが布団に入ってくる。


 「ヨシロー、私このままおばさんになっていくのなんかイヤだよー」

 小さな子熊の頭を撫でているうちに修行疲れもあり、直ぐに眠気がきた。



 アヤメはおかしな夢を見た。


 気が付くと、目の前に白い狐が着物で立っている。

 「ほむ、よしろうの言ったとおり、お主は素晴らしき力を持っておるな。

 その力、欲している世界がある。

 そこならお主の願い通り、恋とやらも出来るかも知れん。

 どうだ?行ってみるか?」


 「はっ?!キツネがしゃべった?!」


 足元のヨシロウがアヤメの足をつつく

 「アヤメがいつも頑張って修行してるから、ボクが狐の神様にお願いしてみたんだ。」


 「えっ?!ヨシロウもしゃべった?!   あっ!これ夢だな?そうかそうか!」


 白い狐は目を細め

 「どうじゃ?その世界でお主の力で悪を討ち、弱き者の為に闘うか?」


 アヤメは元気に手を上げ

 「はいはーい!やりますやりまーす!これどうせ夢だしねー」


 白い狐はうなずき

 「では本人の許可も得られたし転送を始める。

 良いか?いけめんも良いがホドホドにな?」


 「分かってまーす!じゃあロマンチックな世界にお願いしまーす!」

 拳を上げて狐に合わせてやった。


 ヨシロウが狐にちょこんと頭を下げた

 「狐神様、どうもありがとう」


 狐神はそれを見下ろして

 「なに、お主の飼い主を思う真摯(しんし)な気持ちに打たれただけの事よ」


 

 アヤメはヨシロウの頭を撫で

 「ありがとうヨシロウ。夢でもうれしいよ!」

 抱きしめてやる。


 ヨシロウがいつものようにアヤメの顔をなめる。


 「うふふ。夢なのに何かスゴくリアルに感じるね。

 ハァ、でもこんな夢見ちゃう私ってヤッパリ……」




 「?!」



 アヤメはまぶたごしの突然の陽射しの明るさで目覚めた。


 上半身を起こすと潮の香り。


 「揺れてる?地震?」


 美少女は大きな船の甲板に寝ていた。

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