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第一話 ハジマリ

見渡す限りの向日葵が辺り一面に広がっている。


いい景色だ―――


おれはそう一人ごちると向日葵畑のなかにあるあぜみちを一人歩いていった。



おれの愛読書のSF小説には日本って国が出てくるんだ。

そこでは罪を犯したものはみんな程度の差はあっても同じ罰を受けて刑務所ってところに入るらしい。

この国とは全然違うよな。

この国じゃあ犯罪を犯した者はそれに応じた罰を受ける。

人を騙した者は嘘を着けない罪を、人を傷つけた者は二度と人にさわれない罰を受けるんだ。

そしてそれらの罰を受けた人は被更正人とよばれ、本当にその人がもう二度と同じ過ちを繰り返さないように、特別高等人が面倒をみる。特別高等人はこの国でも数えるほどしか存在しない。こいつらは被更正人の基本的人権を預かり、彼らが罪を償ったかどうか判断する。被更正人の生殺与奪権をもつ特別高等人は厳しい試験を突破しなくてはならない。おかげでこの国には慢性的に特別高等人が不足しているってわけだ。

以上説明終了――。

おれは目的地に到着した。辺り一面の向日葵がやけに白ばんで見える。


なんだよ。とっつあんのやつまだ来てねえのか?


おれは脇道の向日葵たちの下に腰を下ろして仰向けに寝転んだ。

ここまできちまったか。まあ、あとはなるようになるさ。なあ、あんたもそう思うだろ?

俺はつぶやくと傍らに置いた愛用のジェラルミンケースを開き中からパイプと草を取り出した。パイプに草をつめて、ポケットにしまってあるジッポのライターで先端に火を着ける。煙を深々と肺に吸い込んで、目を閉じて味を堪能した。まったく、近頃はケムリの量が多くなって来た。

あーキモチいい……ウヒヒヒヒヒヒヒヒ…しばらくして目を開けた。


どうなさったんですか――――?


目の前に女の子がいた。綺麗な黒髪のロングにおおきな黄色いリボンがついている。服装は水色と白を基調とした制服を着ていて、下は黒のスカートを履いていた。


いや、人を待っているんだ。


俺がそう答えると少女は少し悲しそうに微笑んだ。


そうですか。わたしも人を待っているんです。その子は突然わたしたちの目の前からいなくなっちゃって、みんなは裏切ったんだって………でも、……わたしは………


帰ってくると思ってるんだ?

おれがそう聞き返すと彼女は

信じていますから。とぽつりと答えた。


すいません、ご迷惑おかけしました。この町は何にもないですけれど楽しんでくださいね。

彼女はそういうとそそくさと俺から離れていった。俺は呼び止めてその女の子にいった。

でも、そのいなくなった子供のこと怨んでないの?


わかりません。ただ、会いたいんです。それだけだから…………


彼女はそう俺に背を向けて答えた。俺はその背中に向けて問い掛けた。。


俺の名前は森田賢一。君の名前は――?


日向――、日向夏咲です。


少女――日向夏咲はそうつぶやくと駆け足で草むらの中に消えていった。



なっちゃん……帰って来たよ。名前もなにもかも変わっちゃったけど、なっちゃんのいるこの町に――――


そう心の中で叫ぶことが森田賢一にできる最大限のことだった。



俺の名前は森田賢一。

特別高等人候補生だ。

数々の試験を突破して、最終試験としてこの町にやってきた。数多いた候補生はいまでは片手で数えるほどにまで減ったという。そして四方を切り立つ山脈に囲まれたこの町にやってくることが出来るのは何人なのか。途中には戦時中に埋められたままの地雷があって大変だった。つーか死にかけましたよ。マシで。候補生はここにくることも試験だったのであろう。



なんだ、来ているのは森田一人か。


背後から声が聞こえ、慌ててふりむくと、そこにはおれを見下ろす厳めしい初老の男の姿があった―――――

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