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■■ 4. 討伐者は見た

 その時、屋上の入り口がなにやら騒がしくなる。

 ぼくとカミラの位置は給水塔の裏側だ。一応出入り禁止の場所だから隠れているつもり。

 風紀委員の見回りだろうか、ぼくはそっと覗いて見る。するとカミラもこっそりと顔を出した。

 そこに居たのは水谷くんと菅原、松本。

 それに。

「てめえミズムシ、何センコーにちくろうとしてんだよ!」

 鬼の形相で倒れている水谷くんのお腹に蹴りを入れている長田だった。

 やや離れているここまで音が響く。

 長田の足先が水谷くんのお腹に食い込むごとにうめき声があがった。

「だって……だって、ぼくの教科書隠したの」

「いいんだよ、おめえ自分の立場が判ってねえのか! ミズムシは俺の点数を稼いでくれればいいんだよ!」

「ホント危なかったぜ長田さん、俺たちが止めなかったらこいつ確実に先公にちくっていたな」

 そこに菅原も加わる。当然のように松本も水谷くんを蹴った。

「おう、起きろよミズムシ!」

 どこか薄汚れた水谷くんを長田が起き上がらせる。

「おまえ誰のおかげでこの学校に入れたと思ってんだ、あ!」

「……長田くんの……お父さんのおかげ……」

「言葉遣いがなってねえんだよ!」

 長田の拳が水谷くんの腹に刺さる。

「げほげほ、長田様の……お父様のおかげです……」

「そうそう、はじめっからそう言えばいいんだよ! おまえの親父に金積まれて足りない成績補完してやったのはどこの誰だよ!」

「長田様のお父様です」

「判ってんのならさっさといつもの出せや!」

 長田にそうせまられ、水谷くんは震える手でポケットから封筒を取りだした。

 それを長田が乱暴に受け取って中を見る。

「これっぽっちかよ」

「もう……お金が無くて」

「ふん、まあいい。今度はちゃんともってこいよ!」

「さあて教室に帰ろうかミズムシ!」

 水谷くんは菅原に引きずられて屋上を後にする。

 わずかな静寂のあと。

「今のは何だ」

 カミラの口調が冷たい。いつでも豪快に笑う彼女の目はどこか冷え切っていた。

「確かやられていたのは部屋で叱られていたのだな。それがどうしてここで殴られている」

 やはりカミラは見ていたのか。

「彼はイジメられっこ、そして殴っていたのはイジメっこだよ」

「イジメ? よく判らねえがいびりとかのことか。それにしては両方ともさして強くなさそうだったが」

「イジメていたのはこの学校の理事関係……ええと、学校を運営している偉い人の身内ってことさ。ここは国や自治体でなく、個人が運営している学校だからそういう力がこどもにも働くんだよ」

「ああ、なるほどな。名前だけのくせに偉そうなお飾りの騎士団連中みたいなもんだな。それよりあの部屋でケンタは何かしでかそうとしていただろう」

 それもきちんと見られていたってことか。

「ぼくの心を読んだの?」

「俺にそんな力はねえ。だが見ていれば判る。お前、あのこどもを助けようとしたな、それを隣の女に止められた。あれはどういうことだ?」

 言うべきか迷ったがカミラの目が強く要求している。

「一年生の時、おなじようなことがあったんだよ。イジメの主犯格は同じ長田だった。それでぼくは長田にイジメは止めろって言った」

「ほほう」

「だけどその時、長田に暴力を振るったことになってぼくは停学になった」

「テイガク?」

「学校の罰則だよ。一定期間学校に行けなくなる。ぼくの停学は三日だったけど停学開けに学校に行ったらぼくはすっかり問題児だった。それにイジメられていた生徒は別の学校に転校していた。その転校理由もぼくだってウワサが広がってね」

「反論しなかったのか?」

「したよ。でもすればするほどぼくの立場は悪くなった。それにあまり立場が悪くなると両親にも迷惑がかかる。だからぼくは何も言わなくなったんだ」

 ぼくは氷が溶けて気が抜けたコーラを飲んだ。

「ぼくの隣に座っている八雲さんは去年も同じクラスなんだよ。それでその時のいきさつを知っているから今日も止めてくれたんだと思う」

「なるほど。それでおまえはすっかりと悪党扱いか。あの部屋に入ったとたん雰囲気が変わったのもそのせいか」

「そんなところだね。ぼくには無視するだけで何かしてくるわけでも無いから気にならないけど、また転校生をだすのは嫌だとおもって」

 ぼくがそう言うとカミラは腕組みしてうなった。

「ケンタ、どうしてそいつを助けようとした?」

「……ぼくのおばあちゃんに言われていたからかな。困っている人が居れば助けてあげなさいって」

「そっか。お前のばあさんは偉い人だったんだな」

 カミラはにかっと笑ってみせる。しかしすぐに真顔になった。

「だがケンタはウソをついた」

「ぼくがウソを?」

「お前はこの世界に魔王もバケモノも居ないって言った。だがバケモノは居る。だとすると魔王も居るかもしれねえ」

 カミラはそう言って、いつの間にか人影が消えた屋上を見つめていた。

「それにしても……せっかくお前を止めてくれたのに、なんであの女には無愛想なんだ?」

「だって女の子とまともに話したこと無いんだよ。家族以外免疫が無いんだ」

「そっか? 俺とは普通に話しているだろう」

「言っちゃ悪いけどカミラはぼくより身体が大きいし、がっしりしているし、どことなく男みたいだから」

「ほほう、聞き捨てならねえな。こう見えても俺だって立派な女だぞ」

 するとカミラは素早くぼくの右手首を握り、彼女の胸にへと押し当てる。

 ぽよーん。

「うわ、何をする――qあwせdrftgyふじこ」

 ぼくはカミラの胸から手を引きはがそうとするのにガッチリ掴まれて逃げられない。

 あたふたしている間にカミラは大声で笑った。

「ははーん、ケンタお前童貞だな。その反応見てればよーく判るぜ」

「いいからその手を放してよ!」

「俺の胸は立派な大胸筋だけだと思われがちだけどな、貴族の貴婦人並みに乳房はあるんだぜ。たまにでかすぎて面倒になるけどな。どうだ、これでも俺を男と思うか?」

「思わない思わない。カミラは女性だよ!」

「そっか、判ったのなら放してやろう。それとももっと触りたいか?」

「もういいから放して!」

 直後、手首が解放されてぼくは屋上に転がった。

 カミラは大声で笑った後、腕組みして眉を寄せた。

「お前もう一七才だろう? そこまで女に免疫無いとはひょっとして男色か」

「違うよ。女の子には興味あるけど、どことなく話のきっかけが無くて」

「そうなのか?」

「勉強も運動も普通だし、見た目もイケて無いし。女の子にも興味もたれないよ」

「そうかなあ。あっちの世界の基準ではそれなりに女受けしそうな顔立ちしているんだけどな」

 カミラはぼくを起こしてまじまじと顔を見る。

 ぼくの顔って異世界受けするのだろうか。

 カミラに弄ばれた感じがしてどこか肩を落とした。



5. 君がぼくで、俺が君 に続く

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