6話
くりくりとした大きな黒い瞳で、UFOは捜していた。大きなホールの中、爪をひっかけて安全に着地できる場所を。
その時、部屋の中央で真剣な人語が聞こえた。自分よりも大きな体をした2人の男だった。1人は課に来た新人――東郷柊。もう1人は、よく分からないが旅の道連れだったと思う。まだ1人、良い匂いがしていた巨人がいたはずだけど――減っている。きっと彼女に何かあったのだろう。
だとしたら、速く背負っている重要書類を届けねば。素早く、安全に。
そうしてUFOは着地した。今、ある中で一番安全で、止まりやすい場所、柊の顔面に。
「――お前はなんなんだよっ! 人が真剣に話してる最中に」
この男はバカなのだろうか。仕事で重要書類を届けに来たのに。まあ、まだ新人だから仕方ない。許してやろう。
そんな事を思いながら、UFOは柊に背負っていた手紙を差し出す。そのあとは、仕事も終わったとばかりに温かい場所を求めてするすると柊の上着の中――ポケットにもぐりこみ眠った。次の重要任務を完璧にこなす体力を回復させるために。
人の服の中で気持ちよさそうに丸まって眠る毛玉を見て、殺伐とした気持ちになるのはきっと俺だけだろう。
「なんか馬鹿にされてる気がする……」
小さいケダモノにどうこう言っても仕方ない。脳みそが小さい分、かわいそうな奴なんだ。そんな事を考えつつ手紙を開くと、短く「悪魔と天界へ戻れ」とだけ書いてあった。
だが、戻る前にやることがある。憂茨の正体を確かめないといけない。俺と彼の間には何のしがらみもない。でも、これから共通の者を取り返すのであれば、守るのであれば、必要な事のような気がしたから。
「あんた、悪魔なの?」
「そうだ」
「さっきのやつが高位悪魔だとすると、あんたもそうだろ?」
「……そうだ」
「ふぅん。そっか」
「聞きたいことは、それだけか」
言うなり、憂茨が立ち上がり去っていこうとする。それを止めたのは、柊だった。悪魔が不機嫌そうに眉をひそめ、舌打ちをする。一刻も早く、花蓮を助けたい。そう思っているのは分かっていたが、このまま黙って1人で行かせるわけにはいかなかった。
「一緒に天界に戻って協力してくれる奴を捜そう」
「何を言ってる。俺は、高位悪魔だぞ?」
「それが?」
高位悪魔、憂茨はじっと柊を見ていた。相手を本当に信用できるかどうか、見定めようとしているのだろう。それが分かっているから、柊のほうも黙って視線を受け止め続けた。
「無理だ。俺は天界とは敵対してる。誰も協力なんかしないし、行ったとしても捕まるだけだ」
「そんなのやってみないと分からないだろ」
「分からないって……バカか? 悪魔は人間の魂を狩る。相手の願いの対価として」
「世の中ギブアンドテイクって考えもある。それで本人たちが納得してるんなら、俺は別にいいと思う」
「報酬対価として貰うだけじゃない時だってあるし、お前も刻印を持つ者だろ。ってことは、悪魔に殺されたはずだ。そんなことをされたら、普通は協力するどころか、一緒にいるのすら嫌がるはずだ」
どうして、こいつはこんなに必死なんだろう。花蓮を想っての必死さが人間臭く感じるのだろうか。それはもちろんあるだろうが、それ以外でも今はどことなく人間臭さを感じさせる。昨日会った時には、そんなことは微塵も感じさせなかったのに。
「そうかよ」
「そうかよって……気にならないのか?」
「今は気にならない。悪魔から人間を、花蓮を守ってただろ。ボロボロになりながら。味方するんだったら、それだけで充分な理由だろ。上に行って、誰も協力しないんなら逃げればいい。それで、花蓮を助ける算段をつければいい」
「言うように簡単に行けばいいだろうけどな」
「簡単にはいかないかもしれない。俺の周りはいろいろ言うだろうし。種族間のこと、インタリオのこととか、任務のこととか……。でも、花蓮を助けるのに、どれもこれも関係ない。あんたがぐだぐだ言うのも関係ないと思う。それに、2人だけじゃ、できることに限界があるし」
「……2人か……お前は、バカだな」
「よく言われる。あんたのこと、聞かせろよ。一緒に命を賭けることをするんだ。仲間の事は知っておきたいだろ?」
柊がにっと笑うと、呆れたように憂茨も少しだけ笑う。そして、彼はぽつぽつと、話し出す。
自分が高位悪魔であること、本当の名はローランドということ。天界からは指名手配され、魔界からは追放されたこと。胸の烙印は、裏切り者の印であること。一族からもすでに追放されていること。追放の原因が、人間の女であることも。