4話
花蓮の首元から取られた宝石を追うが、相手は空を飛んでいる。柊の追跡もむなしく、悪魔はどこかへと飛び去って行った。
元いた場所に戻ると、憂茨が花蓮を慰めていた。
「ごめん、取り返せなかった」
「いいえ、大丈夫です。取られたものは、仕方ないですから」
「……奪い返しに行くつもりか?」
「行く。あれは、花蓮にとって大事なものだ」
「あ、じゃあさ。俺も一緒に行くよ……あんたの――花蓮、さんの事守るように言われてるし。それってきっと、あのインタリオも含めてってことだろうし」
なんかインタリオがどうのこうの、とずっと言っていた。それは、インタリオを所持している西院花蓮を天界まで連れてこいと言う意味なのだろうと解釈した。たった今だが。
「呼び捨てで問題ありません……でも、柊さんに来てもらうことはできないです」
「どうして?」
「知らない人だし、危険だから」
「たった今、命がけで一緒に戦闘したのに、知らない人ってちょっとひどいんじゃない? お互いの名前ももう知ってるし、知らない人じゃないよ。それに、人数が多い方が色々とやりやすいだろうし。だから、俺も行くよ。ね?」
「でも……」
「俺も仕事だからさ。このまま手ぶらで帰ったら怒られるし」
屁理屈をこねたりして、なんとか押し切り了承してもらえた。
その夜、崩壊した教会まで3人で戻った。2人に聞いたところ、いつも人目を避けて行動しているという。目立てば、それだけ危険が増えるからということだった。でも、それだけが理由とは思えない。恐らく、人を巻き込まないためだろう。
火にあたりながら、報告をどうするか悩んでいると、服の中からからもぞもぞと獣が動く気配がした。それはどんどん上へ来て、襟元から顔を出したのは……背に小さな筒を携えたモモンガのUFOだった。
こいつにお願いするか。そう思い、短く今の状況と憂茨に関しての調べごとの依頼を紙に書く。
UFOの体格で天界まで飛べるか不安に思いながら、飛ばそうとした時に花蓮の視線がこちらを向いていることに気が付いた。
「可愛い。これ、なんて動物ですか? ムササビ……?」
「モモンガだよ。顔に飛んでくるから、気を付けて」
人懐こい性格らしく、UFOは花蓮の手に乗り遊んでもらう。やがて飽きたのか、自分勝手にもUFOは夜空へと消えて行った。
「明日、西へ移動する。今のうちに休んでおけ、花蓮」
憂茨が告げた。少女は素直に頷くと、彼の所へ戻り横になった。
+++
その頃、天界では若桜が残業をしていた。カタカタとキーボードを操る音だけが室内に響いている。動物たち――守護課専属の式神たちはすでに眠りについていた。
静かな中で、人間界で苦労して手に入れたコーヒーを飲もうと立ち上がり、バンっという音に驚いて振り返った。
窓を見てみると、ずずずとUFOがずり下がりながらも落ちるまいとして、踏ん張っている。きっと、窓が開いていると思って体当たりしたのだろう。開けてやると、喜んで肩の上に乗っかってきた。
「UFO。どこに行ってたんだ?」
大きな黒い瞳を潤ませて、一声キィと小さく鳴く。ドライフルーツを一欠けらあげると、満足げに両手で持って一生懸命頬張りながらも小さな筒を若桜の手に押し付ける。
「伝言か」
小さな筒からは、柊の汚い字で何事か書かれた紙が出てきた。
「――西院花蓮と合流。至急、憂茨という人物についての情報求む。特徴は――」
胸に刻まれた円形の焼印。金色の瞳。長剣を不思議な力で出し入れする。人間ではない。
「焼印……」
嫌な予感がする。焼印の事は、昔何かの文献で目にしたことがある。その印は、悪魔に下った人間の魂に押す烙印であると。
守護課の課長である菫路に報告すべく、若桜は急いで部屋を後にした。