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Lord's Prayer -祈る者-   作者: 庵原奈津
第四章
29/30

6話

 何度来ても迷路だと思った。廊下を曲がり、扉を開け、部屋を通ってもまだリューリエの所へはたどり着けない。


 それでも、銃を信じて前へと進んだ。彼女が案内してくれると言ったから。宝石が強く輝く方へと向かって、ひたすら進んだ。


「何も出てこないな」

「罠だったのかもな……俺たちを2人だけにする」

「リューリエには到底敵わないもんな。前は今の倍は人数がいた。それでもボッコボコだったし」

「次は、消えてなくなるかもな」

「それでも、震えて前に進めないよりはいい」


 いつの間にか扉の前まで来ていた。


「空間おかしいだろ……こんな馬鹿でかい扉」

「しかも気持ち悪い」


 それは大きかった。しゅうたちの何倍の高さもある扉は黒い。苦痛に呻くような人の顔だけがびっしりと扉一面に彫られていた。


 ぎょろりと顔達の目だけが、俺たちを捉えた。悪魔の様な紅い瞳で、睨みつけている。顔達は引き攣れた笑いを幾重にも重ねた後、低く重苦しい声で言う。


「あ……あああ、ぎ……た」

「き、た」

「あげろ……、あけろ。ぎいいぃぃぃぃたあぁぁぁぁ」


 その声を合図に、扉がゴゴゴゴと重苦しい音を立てて開いた。その先にいたのは、リューリエと花蓮かれんの2人だけだった。


 花蓮かれんは淡く緑色にかがく円の中心にいる。何もない空間に手を彷徨わせてはいるが、一定の場所から手が伸ばせないでいた。何か喋っているのか、口を大きく開けている。でも、声はこちらには届かなかった。


 円の横には、リューリエが満足そうな顔をして立っていた。背筋をのばし、威丈高に言う。


「入りなさいよ。せっかく来たのに。取り戻しに来たんでしょ?」


 憂茨うきょうが何の躊躇もなく足を勧めた。しゅうもそれに続く。中に入ると部屋が円形であることが分かった。とても広く、闘技場のような印象だ。だが、観客は誰もいない。いるのは――あるのは、扉と同じように彫られた無数の顔だけだった。青年、少女、少年、老人。彼らは口々に「助けて」と嘆き続けていた。


「気味悪いな……」

「私と契約した人たちの末路よ。私のコレクションなの」


 彼女は優雅に手をのばし、そのうちの1つを摑んだ。摑まれた顔は悲鳴を上げる。逃れようと顔を激しくふるが、逃げることができなかった。やがて顔を手にしたリューリエは、それを握りつぶす。断末魔が響いた。


 膝が笑う。恐ろしくて。

 体が震える。リューリエの魔力の高さに。


 どんなに恐ろしくても引き返すことはできない。前に進む。仲間と助け合って。血を吐いても、這いずりまわっても。見捨てない。花蓮かれんを。絶対に連れ帰る。


「行くぞ」


 大きく息を吸い、自分を落ち着かせた。


「走れ――っ!」

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