6話
何度来ても迷路だと思った。廊下を曲がり、扉を開け、部屋を通ってもまだリューリエの所へはたどり着けない。
それでも、銃を信じて前へと進んだ。彼女が案内してくれると言ったから。宝石が強く輝く方へと向かって、ひたすら進んだ。
「何も出てこないな」
「罠だったのかもな……俺たちを2人だけにする」
「リューリエには到底敵わないもんな。前は今の倍は人数がいた。それでもボッコボコだったし」
「次は、消えてなくなるかもな」
「それでも、震えて前に進めないよりはいい」
いつの間にか扉の前まで来ていた。
「空間おかしいだろ……こんな馬鹿でかい扉」
「しかも気持ち悪い」
それは大きかった。柊たちの何倍の高さもある扉は黒い。苦痛に呻くような人の顔だけがびっしりと扉一面に彫られていた。
ぎょろりと顔達の目だけが、俺たちを捉えた。悪魔の様な紅い瞳で、睨みつけている。顔達は引き攣れた笑いを幾重にも重ねた後、低く重苦しい声で言う。
「あ……あああ、ぎ……た」
「き、た」
「あげろ……、あけろ。ぎいいぃぃぃぃたあぁぁぁぁ」
その声を合図に、扉がゴゴゴゴと重苦しい音を立てて開いた。その先にいたのは、リューリエと花蓮の2人だけだった。
花蓮は淡く緑色にかがく円の中心にいる。何もない空間に手を彷徨わせてはいるが、一定の場所から手が伸ばせないでいた。何か喋っているのか、口を大きく開けている。でも、声はこちらには届かなかった。
円の横には、リューリエが満足そうな顔をして立っていた。背筋をのばし、威丈高に言う。
「入りなさいよ。せっかく来たのに。取り戻しに来たんでしょ?」
憂茨が何の躊躇もなく足を勧めた。柊もそれに続く。中に入ると部屋が円形であることが分かった。とても広く、闘技場のような印象だ。だが、観客は誰もいない。いるのは――あるのは、扉と同じように彫られた無数の顔だけだった。青年、少女、少年、老人。彼らは口々に「助けて」と嘆き続けていた。
「気味悪いな……」
「私と契約した人たちの末路よ。私のコレクションなの」
彼女は優雅に手をのばし、そのうちの1つを摑んだ。摑まれた顔は悲鳴を上げる。逃れようと顔を激しくふるが、逃げることができなかった。やがて顔を手にしたリューリエは、それを握りつぶす。断末魔が響いた。
膝が笑う。恐ろしくて。
体が震える。リューリエの魔力の高さに。
どんなに恐ろしくても引き返すことはできない。前に進む。仲間と助け合って。血を吐いても、這いずりまわっても。見捨てない。花蓮を。絶対に連れ帰る。
「行くぞ」
大きく息を吸い、自分を落ち着かせた。
「走れ――っ!」




