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Lord's Prayer -祈る者-   作者: 庵原奈津
第四章
25/30

2話

 陽が傾いてきた。1日がそろそろ終わりを迎える頃になっても噴水の横には、ぽつんと1匹で犬が伏せていた。そろそろ天界でも夕方が来る。家へ帰らなければ憂茨うきょうたちが心配してしまう。


 それでも噴水の傍から離れることができなかった。一緒にいてあげたくて。傍に寄り添うと、犬もこわごわと擦り寄ってきた。


 若桜わかさは噴水の縁に座り、時々花蓮かれんを見ていた。結理ゆりはすぐ戻ると席を外したわりには、全然戻ってくる気配を見せない。


「そろそろ、帰るか?」

若桜わかささん、もう少し……ここにいてもいいですか?」

「構わないよ。今日は、ここで夕飯を食べて行ったらどうだろう? 夜には蝋燭がたくさん灯るから、静かでとても綺麗なんだ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、何か買って来よう。何が良い?」

「何を食べたらいいのか……」

「お勧めを持って来よう。ここにいてくれ」


 若桜わかさの背を見送った後、花蓮かれんは思う。


 長いこと悪魔に追われ、人間らしさをあまり味わったことがない。今こうして、天界で平和なひと時を送れるのは――あの時、命がけでたくさんの人が助けてくれたから。助けてもらった後も、こうして支えてもらっている。


 それなら、転生するまでの間――少しの間だけでもいい、誰かの、何かの支えになりたい。


花蓮かれん! まだここにいたのか?」


 後ろから聞こえてきたのは憂茨うきょうの声だった。


「ごめんなさい、心配かけて……」

「それはいい。連絡を貰っていたから問題ない」

しゅうさんは?」

「少し遅れてる。その犬は?」

「ここで1人ぼっちでいるの。なんだか離れられなくて」

しゅうの家では飼えないぞ。それに、ここにいるなら転生待ちだろう」

「うん……分かってる。でも何かしてあげたいの。私、色んな人に支えて助けてもらってる。今日も買い物に連れてってもらったり、美味しいものを教えてもらったりした。少しでも誰かに、何かに恩返しがしたくて」

「それで、その犬か?」

「本当はこの犬じゃなくてもいいのかもしれない。でも、何かしたいの。地上へ戻れるかどうかも分からないし……」

「どうしたい?」

「……しゅうさんには迷惑かけちゃうかもしれないけど、この犬と一緒にいたい」


 蝋燭に火が灯り、優しく辺りを照らし出す。隣でじっとしていた犬が、頭をすり寄せ、指先をなめた。1人でも大丈夫だよ、とでも言うように。それでも離れる気にならなかった。


「おい、いつまで黙ってみてる気だ」

「ごめん、ごめん。まだ2人で話したいかと思って」


 そう言って出てきたのは、しゅうだった。両手いっぱいに荷物を抱えている。その隣には結理ゆりとエリカが満足そうに立っていた。


「ごめんねぇ。ずっと犬のこと気にしてたから、ちょっと調べてきたの」

「うちは、ちょっとしゅうと話をしてな」

「あれは会話になってなかっただろ。一方的に話してて」

「やかましい。荷物置いて、若桜わかさちゃん手伝ってきて!」

「人使い荒いな……」


 ぶつぶつ文句を言いながら、しゅうが去っていった。遠くで若桜わかさと何か言われ、荷物をたくさん持たされている。


 それからみんなで食事をした。7人と1匹で。賑やかな食事を。その時、結理ゆりから犬の飼い主は、やはりすでに転生したことを聞いた。犬の名前はゾーイ。人生という意味を持つということを。




 そして、運命の日がやって来た。


 日蝕の日が。


 天界の者は当然、警戒はしていた。地上で何かが起こるのではないかと。


 だが。

 事件が起こったのは、天界だった。


 空を埋め尽くすほどの黒い大軍が、押し寄せてくる。それを発見したのはゾーイだった。

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