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Lord's Prayer -祈る者-   作者: 庵原奈津
第四章
24/30

1話

「ちゃんとした体調べるの、久しぶりやったからうまくできるか心配やったんやけど……結果は正常や!」


 腰に手を当てて、元気よく結理ゆりが言った。


 窓の外を眺めると、陽が眩しい。座敷牢にいた時とは全然違う環境だった。心も軽く、解放感にあふれている。窓を開けて、風に当たりたい。外を歩きたい。

今までできなかったことをしてみたい。


 そんなことを考えていると、すぐ隣から結理ゆり花蓮かれんの顔を覗き込んだ。


「今日ってこの後、何か予定あるん?」

「あ、ありません。聴取……はこの間で終わりました」

「そうか。ほな、提案があるんやけど皆でショッピング行かへん!?」


 室内に大きな声が響いた。ほかの場所で仕事をしている職員たちが振り向く。その視線は、またか、とでも言っているようだった。


 結理ゆりはそんなことを気にせずに話し続けた。


若桜わかさちゃんとエリカちゃんと行く予定やってんけどな。どうせなら、大勢いたほうが楽しいやろ?」

「大勢……人がたくさんいるところには、あまり言ったことがないんです……」

「そうか? 楽しいで。行こう!!」


 こうして私は、ショッピングに連れて行かれることになった。


++++++++++++


 天界では、地上と同じように人々が暮らしていた。話を聞くところによると、そのほとんどの人は転生をするための準備をしているという。


 多くは楽しくゆっくりとした時間を楽しんでいるが、それもいつかは飽きる。

そういった人々が気晴らしのために、生前の技能を活かしたりして働いているとのことだった。


 その場所は、人が多くひしめき合い賑やかだった。これまで、人を避けて暮らしていた花蓮かれんにとってはうるさいくらいに。でも、その騒がしさはひどく心地よくて、自分が生きている感じがする。


 今までは悪魔から逃げ回り、人目を避けて隠れるように暮らしてきたから。


「人が……」

「多くてびっくりするやろ。うち、賑やかなのが好きやから天界で一番のお気に入りの場所なんよ。奥に洞窟があったりしてな、探索してみると他にも色々なものが見つかるかもしれんわ」


 テンション高くずっと喋っている結理ゆりを尻目に、目をそらしながら、おずおずと若桜わかさが口を開いた。


結理ゆりがどうしても、連れて来たいと言ってな。か……花蓮かれんは、ここの空気はどうだ?」

「私も好きです。みんな、転生待ちとは思えないくらい生き生きとしていて……」

「そうか。気に入ってもらえたみたいでよかった……」

若桜わかさちゃん。女の子やのに、女の子が苦手なんやって。まあ、あないなところで働いとったらなぁ……ガサツな男のジャングルやから。特に狩猟課と守護課は酷いもんやし」

「バカでガサツで動物園みたいでも、良いところもある」

「そんなん分かってるって! みんな命がけやもんな」

花蓮かれんって呼んでもいい? 花蓮かれんちゃんのほうがいいかな?」

「あ、みなさん呼び捨てにしてもらって構わないです……」

「じゃあ、花蓮かれんね。お腹すいてない? あそこの屋台で売ってるクレープ美味しいの! 買いに行こう! あの2人は放って置いても大丈夫だから」


 エリカに手をひかれて歩き出す。後ろからは残された2人の話し声が聞こえた。


 ずっと憧れてた普通の日。


 友達と呼べるのかどうかは分からないけど、憂茨うきょう以外の人と出歩くのなんて初めての経験だった。


 心の奥底が温かくなる。1人じゃないと感じられた。でも、どこか寂しさもあった。憂茨うきょうが一緒にいないから。彼は今日、研究課悪魔部で検査を受けている。


 クレープを女5人で頬張りながら歩いていると、広場の噴水の近くに1匹の犬がいた。その犬はとても寂しそう、悲しそうな瞳をして地面に伏せている。じっと誰かの――大事な人の訪れを待っているように見えた。


 クレープを食べ終えたあと、みんなで買い物へと行く。服を見たり、アクセサリーを見たりして楽しい時間を過ごした。


 人といるのはとても楽しいけど、あの犬の事が頭を離れない。何を見ても、何をしても、みんなと笑っていても。


 少し前の自分と同じに思えたから。あの館で再開した時の憂茨うきょうと同じに思えたから。


「休憩するか? それなら、どこかで」


 優しく、体調を窺がうように若桜わかさが問いかけてくる。それに私は、広場で休憩したいと答えた。1人寂しく、孤独に耐えているあの犬が気になったから。


「あ、ごめん。私ちょっとこの後予定があるの忘れてた!」

「何やの?」

「ちょっと職権乱用をしに」

「何言っとるん?」

「すぐに分かるわよ」


 そう言って、エリカが両手いっぱいの紙袋を抱えて颯爽と去って行く。それを3人で見送った後、広場へと向かった。

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