5話
その日は、突然来た。誰にも予想し得ない形で。
「何だこれは……」
李皇は画面に映し出された複数の反応を見て驚いた。いくつも紅い点が出ては消えていく。
消えて行った反応は、退治した悪魔のものだという。でも、出現速度のほうが速く画面はやがて赤で埋め尽くされていった。
今、狩猟課の人間を総動員して対策に当たらせているが、手が回らないでいた。そのため、守護課にまで出動要請を行っている。
「これじゃ、もぐらたたきと一緒だな。大元を断たないと……」
+++++++++++++
その日、柊は菫路から聞いた話から何か分からないかと思い、資料室で手がかりを探していた。
あの日分かったのは、金冠日蝕の時に自分が殺されたことと自分を殺した悪魔――リューリエと繋がっていることだけ。
あと、強いて言うならあの話に出てきたあばら家が、自分が生まれた場所だという書類を見つけたくらいだった。
それ以外の手掛かりはなく、花蓮がいまだに捕らえられている場所すら分からなかった。
「憂茨……全然、手掛かりが見つからないんだけど……」
「分かってる。やはり、実際の場所に行ってみるくらいしか手がないのか?」
「でも、この間の悪魔との鉢合わせ以来、下には降ろしてもらえない」
UFOがリューリエに負わされた傷のために、消滅してしまった。全員が命からがら地上から天界へと逃げ帰って来たのだ。その事態を重く見た上層部は、柊と憂茨に天界から地上へ行くことを禁止した。
その背景には、天界唯一の悪魔の刻印を持つ者を守る目的もあるのだろう。そして、天界に身柄のある高位悪魔を逃がさないための処置でもあるはずだ。
実質、彼らは手足を縛られた状態で無為な日々を過ごしていた。それを破ったのは、資料課職員のエリカの一言だった。
「2人ともっ! 狩猟課へ今すぐ行って。リューリエの反応が多数でたって!」
それを聞いた柊と憂茨はすぐさま、狩猟課へ向かった。
そこで見たのは、厳しい表情の李皇と菫路だった。彼らは赤で埋め尽くされつつある画面を中止し続け、悔しげにしている。
「遅いぞ、2人共」
「……何があった?」
「UFOの……仕事の成果とも言えるんでしょうけど……。リューリエの反応が多数地上で確認されています」
「沼田課長……それってどういう……」
「そこからは僕が説明しよう」
現在、狩猟課総出で対応に当たっているが、その多くは下位悪魔の反応だった。下位悪魔は退治される際、印章が刻まれた宝石のようなものを所持している。
その所持している印象は、宝石の中から図柄が浮き出るように細工がされたもの。それは地上ではインタリオと呼ばれているとのことだった。
「そのインタリオは、柊。お前が持っている銃に嵌め込まれた宝石と同じ図柄だ。そして、花蓮とか言う少女が持っていたインタリオにも同じ図柄が彫り込まれていた」
李皇の言いたいことはすぐにわかった。あの悪魔と繋がりのある者を地上に送れば、指揮を執っているはずの者の所へ案内することができるのではないか。
「俺たちだって下には降りたい……。でも……どこへ行けばいいのか」
「おおよその判断はついてる。あの後、僕たちも黙って事態を静観していたわけじゃない」
柊が殺されたのも、生家という自分に縁の強い場所であったため、
花蓮も自らに縁の強い場所にいるのではないかとの判断だった。だが、今まで黙って話を聞いていた憂茨が反論した。
「花蓮は、確かに孤児だった。でも、産まれた場所は別にある」
「縁が強い場所が他にもあるってことか……」
「そうだ」
現状の情報では、絞り込むのに決定打がなかった。
地上にすでに降りている人員を先触れとして、確認させる案も出たがどこも手いっぱいで、その余裕はない。大元を叩くには、勢力を分散させる結果になったとしても2手に別れるしかなかった。
「菫路、僕が行く。ここを頼めるか?」
「いや、私が行った方が良いでしょう。現場に多く出ているのは狩猟課の人間です。頼るべき人間がいないと、地上にいる者が驚くでしょう」
李皇の出動準備を止め、菫路が若桜に向き直る。真っ直ぐに目を見て、彼は命令ではなく質問と言う形で若桜の意思を確認した。
「若桜、一緒に行ってもらえますか?」
「……はい」
地上で悪魔たちの対応に負われている状況を見ると、階級など何の意味もないからだろう。現場に出るには、信頼できる仲間が必要だった。命令できる部下ではなく。
次に菫路は柊に向き直ると、呪符を差し出した。
「3枚?」
「ええ。備えあれば憂いなし……現場では何が起こるか分かりませんから。使い方は分かりますね?」
柊は頷き、それを受け取ると花蓮の生家へと向かった。




