3話
後日、憂茨は研究課兵器部へと来ていた。身体のデータを取るためだった。悪魔が悪魔の体に及ぼす影響は今の所ない。
それでも、憂茨は自分が再び何も感じない、力だけを求めるようになるのではないかと言う恐怖から抜け出せなかった。
――ここには、食べ物があふれている。
花蓮を守りたいと思っていた。仲間を守りたいと思うようになっていた。最後まで、それを貫き通すには――自分を確実に殺すものが必要になる。
「試作品です。ちゃんと動くか分からないですが……それでもよければ……」
差し出されたのは、自らを傷つけることができる武器。これが、きっと俺の心を守ってくれる。そう思うと、少しだけ安心できた。
「手間をかけさせたな」
「いいえ。また、来ていただけますか?」
「……来るさ。データが必要だろう?」
もしもの時、自分を抑えるためのデータが。それの提供のためなら、這ってでも来るさ。自分を、殺すために。その準備を怠ってはならないから。
もらった腕輪を憂茨は愛おしそうに撫でた。
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遠くで憂茨が研究員と話していた。何かを貰っているようだが、悪魔の魂を喰ったことで何か影響が出たのだろうか。
結理のほうも気になるようで、俺の検査結果の紙を手にずっと憂茨がいる方を見ていた。
「表面上は変わらない……本当にあれでよかったのかって思うことがあるんだ」
「うちもそうやで。でも、生きてなければ何もでけんしな。でも、無理やりやったから……」
生きていなければ。今は、強くそう思う。利己的な考えだっただろうが、後悔は死んでからではできないのだ。
今はいなくなってしまったUFOの事を思う。悪魔部での一件が終わった後、知らせを受けた。あの毛玉が消えたと。頑張って闘ったが、生還することはなかった。
「そうだな……でも、あの場は……あれしか方法がなかった。悪魔の傷を治すセンターも天界にはないし……」
小さく同意を口にしながら、結理が検査結果の紙を見た。2枚の紙を見比べながら、不審そうな顔をしたまま、一か所で視線が止まった。
「これ……」
「どうした?」
「今、念のために健康診断の結果――銃を持つ前の結果と見比べてたんやけど……」
紙を置き、気になる箇所を指差しながら言う。見せてもらっても、ただの数字としか思えなくてよく分からない。
でも、結理は違うようだった。
「おかしいねん。何かの力が上乗せされてるっていうか……もともと数値にしたとき、柊君は元気すぎる方なんやけど、原因が分からんし何とも言えんねん」
「そっか」
「もう少し詳しく調べてみるけど、あの小型爆弾の生やない気がする。あれは威嚇用の物で、身体に影響するようなものでもないし……」
考え込んだまま、また動かなくなってしまった。快活な結理にしては珍しく、歯切れも悪い。原因らしい原因もないのであれば、推測を立てることすらできない。せめて、俺に人と違うところがあればそこを足掛かりにできるかもしれないが。
「インタリオ……俺が、インタリオだから……とか?」
「……そうか、普通と違うんやもんね。それやったら、沼田課長に話聞きにいこ」