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Lord's Prayer -祈る者-   作者: 庵原奈津
第三章
16/30

1話

 式神治癒センターでUFOユーフォーの様子を見ていた時、結理ゆりから呼び出されて研究課兵器部で検査を受けていた。

憂茨うきょうは種族的に特に影響が出そうなため、別室で詳しく調べられている。


「そんな目で見んといて……謝っとるやん……」

「謝罪は受け入れよう。でも、開発中のアイテムを持ってきているとは思わなかった」

若桜わかさちゃん、あれにはちゃんと理由があってん」

「どんな理由だ?」

「怖いで……」

「怒りもするだろう。何故、持ってきたんだ?」

「あんな、持っていけば、助けになるかもって思ってん。

それに、実地でのデータも取れるし、一石二鳥やん?」

「一石二鳥だからって身体に影響でるようなアイテム持ってくるな……でも、助けられたのは事実だな」


 擦り傷だらけの顔で話している若桜わかさ、同じように傷だらけで笑顔を浮かべている結理ゆり憂茨うきょうは魂の劣化の影響もあって、特に怪我の具合がひどかった。


 UFOユーフォーは、天界へ帰って来るなり、式神専門の治癒部へと連れて行かれていた。

今は小さな体で、消滅の危機と闘っている。


 あの女悪魔との戦闘の時、ほとんど動けなかった。身体が固まり、全員が傷だらけになりながら戦ったにも関わらず、何もできなかった。


 この手は、あの決意は何のためにしたんだろう。悪魔から人を――仲間を守りたい。そう思ったから契約をしたはずだったのに、結局は何もできなかった。


 片手に乗ってしまうくらいの小さな体で、UFOユーフォーは自分よりもはるかに大きな相手に立ち向かい、自分に与えられた目的まで達成した。


 それに比べて――。


「また暗い顔してるんか? あかんで、元気出さな」

「……あんたらも空元気だろ」

「空元気でも、出していないよりはマシだ。後ろばかり振り返っていても仕方ない」

「笑えってか。無理だろ……俺、何もできなかったもんよ」


 そう、何も。


 ――怖いのは当たり前だわ。だって、私はあなたを殺したんだから。


 何も言えなかった。恐怖で身がすくんで、仲間が傷つけられていくのを見ているしかできなかった。


 何のために手に入れた武器なのだろう。仲間を守るために、力を得たはずだったのに。


 考えても考えても答え何てでなかった。当然だ。考えているふりをしているだけなのだから。後悔もしているふりなのかもしれない。


「あの毛玉がな、ポケットにいないと上着が軽いんだよ……」

「でも、後ろばかり見ていても仕方ないだろう。まだ誰も消えてないんだ。貴様には幸運にも、次がある」

「でも……」

「――気合注入や! 歯ぁ食いしばりっ!!!」


 盛大な音がした。頬が叩かれのだ。


「い……痛い……」

「当たり前や! 生きてるんやからっ。後悔は後でするから、後悔っちゅうんや。次に後悔しないためにも、今できること――」


 そんな時だった。突然、非常警報機が鳴り響いたのは。部屋の外がにわかに慌ただしくなる。そして俺たちを一時的に隔離している部屋の扉が開けられた。


しゅう、行くぞ」


 別室に入れられていたはずの憂茨うきょうが入ってくる。若桜わかさ結理ゆりに避難を誘導するよう伝え、こちらに向かってきた。


「いつまで座ってる。あの2人の話が終わったら、すぐ出るぞ」

「え……?」

「別棟で研究用に捕まえた下位悪魔が逃げ出したそうだ。警備の者達がいるが、彼らは闘い慣れていないらしい。被害が出る前に、殺しに行くぞ」


 思わず腰に差した銃に触れる。


 これで、俺は誰かを助けることができるのか? あの時、誰も助けることができなかったのに。


 ――次に後悔しないために、今できることを。


 そうだ。今は何も考えず、後悔しないように、誰も傷つかないように悪魔を殺しに行こう。できることをしないと、次は動けるようにしないと。


憂茨うきょう、終わったか?」

「ああ」

「じゃあ、行こう。しゅう、ぼうっとするなよ」




 別棟にはできるだけ急いで来たつもりだったが、今でも研究員たちがばらばらと外へと逃げ出している。逃げ出してきた人たちは所々怪我をしていたり、怯え泣いていたりする。その中の1人を捕まえて、若桜わかさが聞き出したのは、悪魔を逃がした研究所は4階にあるという事だった。


「3階は匂いがしない。まだ4階をうろついてるんだろう……行くぞ」


 憂茨うきょうを先頭に3人で駆け上がった時、黒い物体が目の前から迫る。 彼は何とか応戦しようとするが、力で押し負け壁へと激突した。


 乾いた音を立てて、長剣が転がり光と共に掻き消える。サメのように鋭い歯が並んだ口を悪魔が開き、噛みついた。憂茨うきょうを喰うために。


 何も考えずに撃鉄を下し、トリガーを引いた。弾は悪魔にも憂茨うきょうにも当たらず、窓ガラスを撃ちぬいた。が、それで充分だった。音に驚いた悪魔は鳴きながら奥へと逃げていく。


 駆け寄った若桜わかさが、憂茨うきょうに声をかけた。


憂茨うきょう、大丈夫か?」

「げほっ――なんと、か……。でも、この間の傷が開いた」

「噛まれた傷も酷い。出血が止まらないし……」

「そうだな。2人共……奴はまだこの先にいる。追え」

「ダメだ。止血が先だ、若桜わかさ……これ」


 脱いだシャツを渡すと、彼女は手早く引き裂き出血箇所に当てる。それでも血は止まることなく、布を重く濡らしていった。


 前よりも、明らかに傷が塞がるのが遅い。以前、出会った悪魔は憂茨うきょうの魂が劣化していることを言っていた。


「2人共、さっき結理ゆりと何話してたんだよ」


 憂茨うきょう若桜わかさがこちらを見た。憂茨うきょうは黙って下を向いている。話す気がないのだろう。


「傷の塞がりが遅いってことは、消滅するまでの時間があまりないんだな……」

「……そうだ」


 天界には式神や職員たちの治癒センターはあるが、悪魔専門の治癒センターはない。このまま憂茨うきょうの体にダメージが蓄積され続ければ、遠からず彼は消えてしまうのだろう。


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