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疲れが無ければ絆されなどしなかった。


「あァ?ふざけんなよ!こんな不味い酒とブサイクな女で金取ろうっつーのかよ」

「そ、そんな・・・・・・あんなに飲み食いしてそれは無いでしょう!」


繁華街のど真ん中にある、クラブ『Madoka』。私はそこで接客をしている、只の従業員。お酒飲んで、飲ませて金目の物を貢いでもらう、只の従業員。

レジの方から太い声が聞こえて、グラスの割れる音がする。焦ったボーイの声も聞こえてきて、私の客も酔いが覚めたようで苦笑いしている。


「レイラさん、お願いします」

「ごめんね、高木さん。すぐ戻ってくるから」

「うん、怪我には気をつけて」


かなり派手な繁華街なので、喧嘩も暴力も絶えない。勿論、Madokaでもこういった問題が絶えない。普通なら用心棒を雇う所だろうが、うちには必要無い。


「あら、お兄さん。踏み倒し?男なのに情けないわね」

「あァん?うっせーんだよ、このブス!」

「貴方こそ、煩いわね。貴方が属してんのは『無法者(アウトロー)』でしょう?あそこの総長と私、とっても仲良しなの。貴方の顔を見せて困ってるって言ったら貴方どうなるでしょうね」


何故なら私が用心棒だから。毎日接客している訳ではない。店の定休日は休むし、スタッフルームでずっとだらだらしながら問題が起こるのを待つ日もある。ちなみに今のは脅迫では無いので注意して欲しい。あれは脅迫ではなく、挑発。あれで怯めば良いが、大抵の場合が逆上して殴りかかってくる。


「くっ、このアマふざけんなあああああああああああ」


この男も例に漏れず、殴りかかってきたが半歩動いて腕を掴み投げ飛ばす。私のドレスは短く、深いスリッドの入った動きやすいものだ。蹴り上げた時の為に、見せパンだ。見せパンと言っても客から歓声が上がったりするので、もうこれは一つのショーと言っても過言では無いだろう。


「ぐぁッ!はぁ・・・ッ」

「さぁ、お金払ってください」


若い青年は恐らく未成年。ろくにお金も持ってないガキが、ちょっと調子に乗って飲み食いしたらお金足りなくて暴走した所だろう。ママも分かっててやってるんだから人が悪い。絶対暴れさせる気だったんだ。


「ただいま、高木さん。お騒がせしてすみません」

「レイラちゃん、怪我してない?大丈夫?」

「えぇ、大丈夫です。ご心配おかけしました」


微笑みながら、何気なくワインを注ぐ。私はかなりえげつないと言われる類の人間で、持ってると思ったらとことん搾り取る。気付かないうちにお財布が緩くなってしまうのだ。


「またそうやってレイラちゃんは・・・・・・」

「ちょっとは良いでしょう?」

「全く、可愛いんだから」


高木さんはそれを知ってて、許してくれている類の人だ。建設業者の社長さんで、奥さんの束縛に耐えられなくてMadokaに来たら見事にハマった。私は二度程奥さんと遭遇して泥棒猫呼ばわりされるが、その度に高木さんが美味しいものを食べさせてくれる。


「また来てくださいね~」


高木さんの相手も終え、徐々に夜が明けていく。貰った時計を売って買ったお気に入りの時計を見ると、店が閉まるまでまだ時間がある。


――パンッ


そう思って店に入ろうとしたその瞬間、店の中から銃声が聞こえた。銃声からして恐らくピストルの類だ。同僚の悲鳴も聞こえる。


「やれやれ、まだ夜は終わらないな」


溜め息を吐きながら、店の扉にある飾りにも見える拳銃を手に取り足で豪快に扉を開ける。


「その銃を降ろせ」


これを言ったのは私では無い。格好を付けて入ったのが間違いだった様で、簡単に後ろを取られてしまった。少し奥を見れば、青い顔をしたママが人質に取られている。ママは怖がっているんじゃない。破損された物の金額や、お客様への対応を考えて青ざめているんだ。相変わらず度胸のある人だ。取り敢えずママに何かされる訳にはいかないので、銃を地面に置いてから誰も居ない所へ蹴る。


「そのまま手を挙げて、膝を付け」


取り敢えずは言うとおりに従う。一体何が目的なんだろうか。


「うりゃっ」


膝を付こうとして、私は左手でナイフをママを人質に取っている男へ投げ足で後ろに感じるピストルを蹴り上げる。そのままピストルをキャッチして、後ろの男へ向ける。


「レイラッ」


ママの声を聞いて、振り向こうとしたがその前に身体が動いた。


――パン


反射的に打ってしまった。足に当たった様で、後ろで男が蹲っている。警察に届けるのも面倒なので、この店の尻拭いをしてくれているヤクザに後始末は任せる事にした。丁度若頭が店に客として来ていたのだ。


「相変わらずレイラは凄いな。仕事を回したいくらいだ」

「やめてください、本職の人には敵いませんよ。それにしても見てるだけなんて酷くないですか?」

「いや、すまんな。つい見とれてしまった」

「もう。後片付けはお願いしても?」

「あぁ、今若いのを呼ぶ」

「お礼に今晩はサービスしますよ」


これがMadokaの通常運転。今日は流石に発砲したので店を閉めるが、発砲さえしなければ普通に営業していただろう。恐ろしい店だ。


「レイラ、もう帰って良いわよ」

「はい、お先失礼します」

「お疲れ様」


やっと一日が終わる。面倒事に開放されてホッとする反面、まだ厄介事は続く様な嫌な予感がする。


「あ、玲奈(れいな)はっけーん」


私服に着替えて、近くのコンビニ寄って夜ご飯(現在時刻04:30)を買って、鍵を開けた瞬間。後ろから不吉な声がした。


「・・・・・・入れば?」

「わーい」


玄関でゴタゴタを起こすのも面倒なので、さっさと招き入れる。右肩に掛けている袋の中身は、美味しい料理の入ったタッパーに違いない。しばらくご飯には困らないな。


「で、何しに来たの?」

「玲奈に会いたかった」

「正気?」

「正気」


ずっとニコニコしてるこいつは、三年前に振った元彼。どうしてだかは分からないが、こうして付き纏われている。だが、老舗レストランの厨房で働くくらいこいつの作る料理は美味しい。ついつい家に入れてしまう。


「好きだよ、玲奈。僕とやり直して」

「あんたが好きなのは、私の脚でしょ?」

「うん、脚も好きだけど玲奈も好き」


私が振った理由は、こいつがあまりにも脚ばっかり構うから。少々童顔だが整ってるし、家が不動産会社の社長でボンボンだし、中々いい金蔓だったが趣味に付き合うのが疲れた。


(すばる)が好きなのは脚だけ。昴に付き合ってるより、私をちやほやしてくれる男と付き合う方がよっぽど楽しいわ」

「えー、玲奈は僕が居るのに他の男と付き合うの?」


奴の名前は昴・・・・・・、苗字は忘れた。昴はほのぼのとした口調だったが、目が笑っていない。少し怒らせた様だ。まぁ、それもそうか。大好きな脚が他の男に触られちゃうもんね。


「私、モテるのよ?第一、あんたとはもう終わったしね」

「ふーん・・・・・・。今日もいっぱい玲奈に触った男が居るんだろうな。あー、許せないな。やっぱり僕は玲奈が好きだよ。ねぇ、僕にしてよ。今度は絶対大事にするから、結婚しよう。で今働いてる所もやめて、僕のお嫁さんに永遠就職してよ。本当に愛してるの。玲奈が好きなの。お願い、うんって言って。僕、僕、玲奈が好きなの。大好きなの。欲しいもの全部あげるし、大好きな料理いくらでも作るし、僕の作った料理で太っても一生愛するから僕と一生一緒に居て。愛してる」


昴は捨てられる子犬の様に、私へ縋ってきた。脚フェチって、そんなに自分の理想の脚と会う確率が低いの?・・・・・・なんだか可哀想になってきた。絆されているのだろうか。


「ねぇ、今度は私の脚だけじゃない?」

「うん、玲奈の全部愛してる!」

「しょうがないな・・・・・・。浮気しちゃダメだよ?」

「うん!玲奈もしないでね?」

「はいはい、私も昴が好きよ」

「玲奈!」


きっとこの時の私はどうにかしていたんだと、あれから二年が経ち、昴と結婚した私は思う。絶対に疲れていたんだ。疲れが無ければ絆されなどしなかった。


「玲奈」

「何?」

「好き」

「あっそ」


左手の薬指で光る指輪と、膨らんでいるお腹。後数ヵ月後に子供が生まれるが、この子の事を私は愛せるだろうか。あの男の子供だと考えると将来が不安だし、今のところ愛せそうもない。この子供は不幸だ。父親に愛されて母親に愛されないのか。いっそのこと私は居ない方が良いのでは。


「ねぇ、私子供を愛せそうにないわ。私が居るとこの子は不幸になる。私が居る環境で育てるのはやめて、貴方が誰かと結婚してその人と幸せにしてあげてよ」

「玲奈は優しいね。そんなに俺達の子の事を考えているなら、大丈夫だよ」

「嫌。離婚しよ、離婚」

「絶対やらない」


数ヵ月後がとても不安だ。優しくなんて絶対に出来ない。お願いだから、私みたいな不幸な子を作らないで。


「ふふ、大丈夫。そんなに不安なら、玲奈の視界に入らない所で僕が育てるから。絶対分かれるなんてしないよ?」



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