理外の理
――魔術――
奇跡であり非科学的現象であり神秘の力。だがこの世界では普通の力として認識されている。
但し希少価値のある力としてだが。
この世界に生れ落ちて数年。一番最初に驚いたのは母が見せた光の魔法だ、いや正確に言えば魔術である。
この世界で魔法と称されるのは魔物が使っている物という認識だから。
魔術とは即ち地球で言うところの不可思議現象を一つの術理として体系化したものとされている。
普通の人からすれば魔法も魔術もそう変わらんだろうと言いたいだろうが全然違う物であるとされている。
一般人はその両方とも使えない訳だから関係ないと思う無かれ、この世の中には魔術道具が溢れていてこれは魔石を使用する事で魔術を使えない人にも使えるようにと発明された物で此方の世界で科学に相当する。
ファンタジー世界とは侮れない。文化レベルは概ねにおいて中世レベルではあるが魔術と魔術道具によって生活のレベルに関しては地球の中世など笑い飛ばせるレベルで進んでいるのがこの世界だ。主に医療というか人の命を救うという治癒魔術の分野においては現代医学を簡単に凌駕していると云っていいだろう、反面科学という分野での発展は低いが。
赤ん坊の時代に魔法(魔術と魔法を混同していた)を見た事によって転生者が己の中の魔力について考察したりするのはテンプレだ、勿論俺もやった、当たり前だ目の前にファンタジーな世界がまっているのだから。
これが俺の最初の勘違いであるのは先ほど述べた通りで事象改変能力と魔術は違う。だが下手に才能に恵まれていた俺の肉体はそれを可能にしてしまった。まあ当然の如く家族に発覚しないように練習をしていたから問題は無かったのだが2歳の頃だろうか漸く一通りの言語を覚え文字も覚え始めた頃に母と話していて衝撃を受けたのは今では懐かしい思い出の一つだ。
「かあたま(舌足らずである)まほう?」
「いいえ、これは魔術よ。魔法を使えるのは魔物だけですからね」
「へ?」
意味がわからないよと可愛らしく首を傾げる俺に母は簡単に説明してくれた。
「ずーと昔に魔法を使う魔物に苦しめられていた人に精霊が教えてくれた贈り物、それが魔術よ」
簡単過ぎて意味不明、理解できない俺が悪かったのではない筈だ。
「これは光の精霊様の魔術『闇夜を照らす導き』」
フワっと目の前の空間に光が集まる。いやどう見ても魔法じゃねと思うよ普通はな、母が刻印のような模様を空中に書き出して作る魔術、もう魔法でいいんじゃないと思う。他の魔術も見せてくれる、ごく一般の魔術道具でも使用されているものばかりだが火がでたり風が吹いたりする。だが一つとして俺と同じような方法では発現していない。
「かあたま、おせーてくだちゃい」
「私とあの人の息子だもの素質はあるでしょうけど……」
大丈夫素質ありまくりですから! 確かにもしなければと思うのも判るけどな! 今の俺はきっと目を輝かせているから失望させたらとか危険はないのかとか思っているだろう。だが火は危ないだろうが光の魔術ぐらいいいじゃん。
「ひゃーりのまじゅちゅがいいでし」
「光の魔術ならいいのかしら……でも使える人もいれば使えない人もいるの、我が家にいる奉公人でも殆どが使えないし」
渋る母を必死の上目遣いで説得する。
「判ったわ、まず此れが『闇夜を照らす導き』に使う魔術印よ、これを覚えて体内にある魔力で最初はこの魔石筆を使ってみて」
魔石筆という道具謂ゆるどこぞの眼鏡少年の持ってる指揮棒のような物の外見だが初心者はこれを通して魔術の練習をするのだそうだ。
「あらよかったわ、きちんと発動しているみたい」
内部には特殊加工されている魔石のインクが入っていて魔力を持つものが持つとぼんやりと光るのだそうだ。
母親曰く込める魔力量で威力の変化などは無いが継続時間に違いが出るらしい。魔力は謂わば電池や燃料そのものなのだろう。
「こうちてこうなって、こう!?」
「どうかなぁ綺麗に書けた?」
「あい!」
任せろよ!
「じゃあ呪文も唱えてみて」
な・ん・だ・と!
「や、やみにょをちぇらちゅみちゅびび」
おい待ちやがれ、まだキチンとした発音は難しいんだよ!
「あらあら、うーんじゃあ私が唱えてみようかしら『闇夜を照らす導き』」
あれ? 術者じゃなくてもOK?
「このペンで書いたものは普通の魔術とちょっと違ってだれでも使える道具扱いになるのだけど……たぶん書順が違ったのね発動しないわ」
ノー!
本日の教訓、書き取りテストで順番が違っても読めたらいいじゃんって思ってた俺が馬鹿だった。