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東方妖狐録  作者: 鈴ノ風
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002 幻想郷と妖怪の賢者

この作品は東方projectの二次創作です。

原作ブレイク、キャラ崩壊、独自設定、オリキャラ幻想入り、駄文乱文、そもそもプロットが不完全、その他諸々が含まれております。

それでも構わん! という勇者以外は直ちに『戻る』ボタンを押して、他の小説を検索することをお勧めします。

「私の夢はね、夜々。いつが幻想の楽園を作ることなの」


「忘れ去られた妖怪を、信仰を失った神様を、死にかけた彼らを集めて、保護して、そして楽しく暮らせる理想郷。それを作って、そこに住むことが、夢なの」


 ずっとずっと昔。いまだ夜々が、天才陰陽師として名をはせていたころ。

 同じように陰陽師という肩書を有した八雲紫は、楽しそうにそう語った。

「っはは。それはまた、変わった夢だね」

 夜々はそれを、思わず笑った。

 馬鹿馬鹿しい、夢だった。その当時は。

 その当時、人々は同族よりも幻想を恐れた。夜と闇を恐れた。ろうそくの頼りない明りの向こう、天井や部屋の隅を恐怖した。

 人の生活は、常に闇の恐怖とともにあった。妖怪はその恐怖を糧に育ち、栄えた。神もまた、その恐怖から逃れるために、敬われ、奉られた。

 だから、幻想が忘れ去られるなどほとんどなかった。たまにあっても、それはその幻想が、人々の畏れも信仰も集められないほど、弱かっただけの話だ。

 妖怪にとっての死とは、人に退治されることだった。さまざまな術を習得した陰陽師や、剣や槍で武装した兵隊たちに討たれることが、妖怪の最後であり、名誉だった。

 そんな最期も遂げられず、忘れ去られて野垂れ死ぬことなど不名誉そのもので、そんな末路を遂げるのは雑魚の証。

 夜々は、おかしかった。そんな雑魚どもを守ることが、かの大妖怪、八雲紫の夢だなんて、想像もできなかったから。


「ひどい人ね。私は真剣なのに、笑うなんて」


「ごめんごめん」

 手を振って、謝罪して、しかしすぐに先の言葉を思い出して、また笑う。


「愚かね、夜々。このまま生き続ければ、あなただって他人事ではいられなくなる。未来に訪れるであろう困難を、そうやって笑うのは愚かな証拠よ」


 紫の言葉に、嘲りが混じる。

 ああ、私は今見下されてるんだと、夜々は感じた。当然、なのだろう。

 いつも彼女はこうだ。八雲紫はいつだって賢くて、夜々では想像もできない危機をあらかじめ察し、対処する。

 夜々はいつだって、そんな彼女についていけず、能天気に構えて、紫にバカにされる。

 今回も、そうなんだろう。

 夜々の考えが甘いだけで、紫の想定する未来は、もっとずっと絶望的なものなんだろう。

 いつものことだ。

 いつものことだから、彼女はまた笑った。

「私は愚かだよ、紫。あなたと違って愚かで、浅はかだ。だから私は笑うんだ。馬鹿だから、思考したって無意味だから、今はこうして笑うんだ」

 だって。

「だって今、私はこうして生きている。楽しくあなたと話ができる。楽しい時に笑うのは、当然でしょう?」


「そうして問題を先送りにして、いいと思っているの? 問題に直面したら、いったいあなたはどうするつもり?」


「その時は、思考するだけさ。目の前の困難を乗り越えるために、努力するだけさ。でも今は無理。考えても何もできない」


「思考の放棄は愚かな証拠よ」


「考えても答えなんて出ない。私バカだもの。第一、今そんなことを考えても、私に何ができるのさ。あなたほど崇高な夢も持てない、私みたいな愚か者に」


「……」


「笑ったことは、謝るよ。ごめん。いくら想像できないからって、笑っちゃいけないことだった」

 ごめんなさいと、頭を下げる。

「もしも、さ。何百年先になるかは知らないけど、もしもあなたの懸念通りになって、もしも私が、死にかけたら」

 その時は。

「助けて、紫。馬鹿な私を、きっと何もできないで死にかけている私を。私はその時も、生きていたいと願うはずだから」


「……愚かね、夜々」


 紫が、肩をすくめた。


「助ける? 当然のことを言わないで。私だって、あなたには死んでほしくないのよ。あなただけじゃない。すべての妖怪、すべての神を、私は助ける。誰かが死ぬのは悲しいことで、私は悲しい想いなんてしたくないから」


「そうだね、あなたは優しいから」

 夜々の知る中で、八雲紫ほど怪しく、しかし優しい妖怪はいない。

 たとえ、すべての幻想が滅ぶ未来を、ほかのものが予測しても。彼女と同じ考えに至るものはいないはずだ。

「じゃあ、その時はよろしくね。紫」


「ええ、任せなさい。必ず迎えに行くから、あなたは安心して、待っていなさい」



 そんな約束を結んでから、一千年後。

 紫の予言どおりに夜々は忘れられ、死にかけて。

 そしてあの日の約束通り、彼女は幻想郷へと迎えられた。



◇◆◇◆◇◆◇


「……懐かしい、夢」

 目を覚ます。

 時は過ぎること、現代。

 十畳はあろう和室の中で、夜々は目を覚ました。

「っん。よく寝た」

 上半身だけを起こして、夜々は体を伸ばす。節々の固まり具合からして、眠っていた時間は一週間ほどか。

「怪我も全快。力もある程度回復してる。さすがは幻想郷」

 噂以上だ。人間の恐れすらなしで、死にかけの妖怪をここまで回復させるなんて。

 妖怪の自然治癒能力はもともと高い方だが、しかし力の回復となると話は違う。あれは人にとって水分を失うようなもので、自力で賄うのは不可能。人が水を飲むように、他から補わなければならない。

 なのに、力は戻りつつある。さすがに一週間程度では全盛期ほどではないにしろ、それでも外にいたころなんて比べ物にならない。

 見事としか言いようがない。大気そのものが栄養で満ち溢れてるようだ。息をするたび、鼓動をするたびに力がみなぎってくる。

 最後に外で戦ったあの餓鬼を思い出す。今の彼女なら、あの程度呪符なしでも瞬殺できるだろう。

「紫は凄いや」

 そう感心して、夜々は立ち上がる。

 足のストレッチをすると、そのままふすまを開けて外に出た。

 ふすまは縁側に通じていて、そのさらに奥には庭園が広がっていた。白い砂で水を表現した枯山水で、中にはいくつもの島が配置されている。島には、何種類かの木が植えられている。

 きれいな庭だ、そう夜々は感じた。どこがどう、という具体的な説明はできないが、とにかく彼女は見惚れた。

「きれいだね」

「そうでしょう」

 夜々のつぶやきに、答える声が一つ。

 驚くことなく、言葉を続ける。

「手入れが行き届いてる」

「藍が毎日手入れしてくれるからね」

 とりあえず思いついたことを口にして、言葉を返した人物に、視線を向ける。

 視線の先には、縁側に腰掛け、庭園を眺める女性が一人。

 八雲紫。幻想郷の創造主で、かつての友人。

「藍って誰?」

「私の式神。あなたの同族よ」

「九尾の狐……ああ、彼女か」

 夜々は、一人の女性を思い出す。

 あれは7、8百年は前のことか。都を揺るがす大妖怪を、紫が退治したのは。

 退治されたかの白面金毛は紫の式神となったと、夜々も聞いてはいた。しかしまさか、本当のことだったとは。

「麗しい玉藻前が、今は庭師か。なんだかおかしな話だね」

「違うわよ、夜々。いくら私でも、かの傾国をそんな雑用じみた役職にしないわよ」

「全国の庭師が泣くようなセリフはともかくとして、じゃあなんなの?」

「私の世話係よ。あと仕事のサポート」

 なるほど、それは確かに、庭師より得が高そうな仕事だ。境界の大妖怪の世話に、その仕事の補佐。並みの妖怪では務まらない大役だろう。

「それは重要な職務だろうけどさ。だからと言って彼女に似合うかっていうと、そんなことはない気がするけど?」

「文句を聞いたことはないし、苦にした様子もないわよ」

「いい主従関係だね」

 夜々の心の中で、白面金毛に対し抱いていたイメージが崩れる。上皇の嫁にまでなったというから、世話係とか下賤な仕事は嫌悪する、という感じがしていたのだが。

(まあ本人に会ったことはないし、単なる偏見だろうけどさ)

「複雑な気分……」

「そう混乱することもないんじゃないの? 私の式神が私の世話をするなんて、当然のことじゃない。あなたも式神は使うでしょ?」

「使うけど、紫みたいになんでもさせたりは出来ないよ。そもそも、式神制作の技量がけた違いだ」

 式神というのはプログラムのようなものだ。妖怪というハードにインストールし、演算することで実態を得る。

 だから、式神の思考能力はそれを構成する術式に依存し、思考速度はハードたる妖怪の能力に依存する。

 術式が複雑であるほど、式神の思考はより高度に、より柔軟になる。

 八雲藍という式神が、具体的にどのような仕事をしているのかは知らない。そもそも夜々は本人にあったことすらない。だがあの八雲紫のサポートだ。子供にもできる、なんて単純なものではあるまい。

 それだけでも、八雲藍の式神としての格の高さが見て取れるというもの。

「紫ほどなんて無理だよ」

「ふうん。それは残念ね」

 そう言うと、紫は立ち上がった。

「ところで、あなたはこれから幻想郷で暮らすことになるのよね?」

「そうだね。ここで暮らすわけだ。外にはもういられないし」

「だとしたら、あなたにはここのルールというものを覚えてもらわないといけない」

「ルール? みだりに人を食らうなって言うなら、私には無用な心配だよ?」

 ほかの妖怪はともかく、夜々は人の肉というのがあまり好きではない。人が好きとか、そういうロマンティックな理由は皆無で、単に不味いと感じるからだ。

 昔ほかの妖怪に勧められて口にしたが、不味くてとても食えたものではなかった。無駄に筋張っているし、脂肪も少ない。食肉としては完全に失格で、人肉を食べるくらいならその辺のドブネズミの方がまだましだと思えるほど。

 以来人肉は一度も口にしていない。

「そうではないわ。あまり多くの人を襲うなというルールならあるけど、言う必要はないと知っているし」

「じゃあ何さ」

「決闘よ。幻想郷にはね、スペルカードという決闘方式があるのよ」

「スペル、カード」

「妖怪と、人間。お互いが一体どういう関係にあるのか、あなたも知っているでしょう?」

「妖怪は人を襲う。人は襲ってきた妖怪を退治する、だっけか。大まかには」

「正解。細かく言い出すとあなたみたいな例外が出てくるけど、それは置いておくわ」

「あはは。なんかそう言われると照れるなー」

 例外、という言葉の響きにむずがゆさを感じた夜々だが、紫は無視した。

「しかし、幻想郷でその関係をそのまま適応させるわけにはいかないの。そもそもここは外と隔絶された土地。人間の数には限りがある」

「ああ、そうか。結界を張ってるんだし、そう何度も出入りさせられないか」

「だからルールを作ったのよ。死者を最低限に抑え、しかし妖怪も人間も遠慮なくお互いの役割を果たせる、そういうルールを」

「それがスペルカードか」

「決闘の方法は弾幕戦。競い合うのは単純な実力ではなく弾幕の美しさ。スペルカードと総称される、いわば必殺技のような弾幕を編み出し、競い合うの。どちらがより美しい弾幕か、実際に使用することでね」

「まるでゲームね。ちなみに勝利条件は?」

「弾幕にあたらないこと。一度も被弾しなければ、相手のスペルカードを破ったということになる」

「数の指定は?」

「事前に戦う相手と決め合うのよ。枚数の上限は特にないわ。お互いに納得しているなら、百枚だろうと千枚だろうとかまわない。もっとも、そこまでする必要性がないけれど」

「なるほどね。楽しそうだ」

 そういうと、夜々は笑った。

「わかったよ。幻想郷ではスペルカードで戦うこと。つまりはそういうことだね」

「その通りよ。でも」

 紫が振り返る。扇子で口元を隠してはいるが、その顔はとても意地悪そうな表情をしていた。

「実物を見もしないでいきなりやれ、なんて言われても困るでしょう? 私とちょっと予行演習をしない?」

「予行演習? 練習じゃなくて?」

「あなたは普段呪符で弾幕しているでしょ? 一から指南は不要だろうし、第一見ればすぐわかるわ。私が実物を見てあげるから、体で覚えなさい」

「体でって……当たったら怪我くらい、するでしょ?」

「するわよ。ええ。当たり所が悪ければ妖怪でも骨の一本や二本はよくあることよ」

「痛いのはちょっとな。仕方ないならともかく」

「いいからやりなさい。大丈夫よ、加減はするから」

「骨一本がかすり傷ひとつくらい?」

「死傷が骨折になる程度」

 加減はしてくれるようだ。きわめて優しくない加減だが。

「……もしかしてさ、怒ってる?」

 紫の体から、殺意とか怒気とかそういうものを感じる夜々。

「私ね、藍に頼んで宴会の準備をしてもらったのよ。きっと疲れてるだろうし、おいしいお酒と料理で歓迎してあげようって。私にしては珍しく気を使ったのよ?」

「そ、そうだったんだ。それはありがとう」

「でもおかしい話。肝心の夜々はぶっ倒れてしまったの。それも半日や一日じゃないわ。一週間。一週間よ? 傷は半日で治ったし、一日たった時には一度目だって覚めてたの? なのにそのまま惰眠をむさぼって、もう一週間も経ってしまった」

「あーそれは、その」

 夜々は慌てて、ここ一週間の記憶を掘り返す。しかし何一つ得られたものはなかった。眠っていたのだから当然だろう。しかし紫の言う通りなら一度、意識は覚醒したはずなのだが。

(寝てる間に忘れたか。私らしいと言えば聞こえはいいけど)

 情けないというか、あほらしいというか。

「ごめん。ホントごめん。そりゃ私が悪かった」

「当然ね」

「うん。だからまあ、いいよ。予行演習をしよう」

 夜々は頭をガシガシと掻いて、ため息を一つ。

「一週間分の憂さ晴らし。付き合うよ、紫」

「それじゃあ、決まりね」

 パチリと、紫は指を鳴らす。

 すると彼女の隣に、人一人は入れそうな亀裂が走った。

 端と端をリボンで結ばれた、まるで口のような空間の裂け目。

 夜々は知っている。これがスキマと呼ばれる、紫の能力の片りんであることを。

 『境界を操る程度の能力』。その万能性から、周囲の妖怪たちからは一時期神と形容されたほど。夜々も、これを超えるものは未だ見たことがない。

「スキマ、か。空間と空間の境界をいじくって生み出した、いわゆるワームホールだね。どこにつながってるの?」

「湖の畔。暴れるなら、壊れるものは少ない方がいいでしょう?」

 言うと、紫は返事も聞かずにスキマの中へと入っていった。

 その行動に、夜々は紫のテンションがわずかに高いことを感じる

 旧友との再会を喜んでいるのか、それとも楽しみを反故にされたことを怒っているのか。

「前者ならうれしいけど、普通に後者だよな」

 そう呟いて、一歩を踏み出す。

 ぱっくりと空いた、亀裂の中に。

 その奥では、漆黒の闇が広がっていて。

 無数の瞳が、こちらを覗き込む。

「……怖いな」

 呟いて、躊躇って。

 しかしすぐに深呼吸をして、勢いよく飛び込んだ。

はい、『東方妖狐録』。2話です。

登場キャラが少ない、というか前回も出た二人だけです。藍にいたっては名前しか出てきません。

次回は弾幕ごっこなんで、戦闘シーンでガンガン文字数稼いでいきたいです。

ではまた次回。

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