001 境界のお迎え
この作品は東方projectの二次創作です。
原作ブレイク、キャラ崩壊、独自設定、オリキャラ幻想入り、駄文乱文、そもそもプロットが不完全、その他諸々が含まれております。
それでも構わん! という勇者以外は直ちに『戻る』ボタンを押して、他の小説を検索することをお勧めします。
虫が、静かに鳴いていた。
月の光に照らされて、仄かに輝く銀色の中で、名も知れぬ虫が鳴いていた。
手入れの行き届いた木々の中で、地面で咲き誇る花々の中で、苔の生えた岩の陰で、虫たちが鳴いていた。
静かな夜だった。鳴くのは虫たちばかりで、ほかに騒がしいものなど一つもない。その虫の音ですらも、静寂に彩りを持たせるだけだ。破壊することはない。
静かな夜を、静かな庭を、ゆっくりと歩く人影が二つ。
先を歩くのは、紫の服を着た、金の髪の女性。白い傘を優雅にさして、時代錯誤な貴族のようにゆっくりと歩く。目の前にかざした右の手のひらには、何やら不気味な裂け目が現れていた。
それに追随するのは、やはり金の髪をした女性。しかし服装は白を基調としており、隙間からは金色の獣の尻尾が映えていた。その数は九つ。
「……紫様」
後ろの女性が、目の前の主人に対し声をかける。相手に届く程度に大きく、しかし夜の静けさを壊さない程度に小さく。
「その者を、招き入れるのですか」
彼女は、主人の肩越しに亀裂を見ていた。その中には、一人の少女が映し出されている。
「ええ。そうよ」
前を歩く女性が応える。紫と呼ばれた彼女は、視線を亀裂に向けたまま、振り返ることはなかった。
「結構強い妖怪だったのだけど、現代には耐えられないみたいね。かつてに比べて随分衰弱している」
「それは当然のことかと。人の世はもはや、幻想の入る隙間などないのですから」
「だから、消えかけの妖怪を保護するの。それ自体はいつものことでしょう? 何をそんなに、不思議がっているのかしら?」
紫が振り向く。顔を横に向け、目で後ろを覗き込む。怪しく光るその瞳から、女性は目をそむけた。
「ねえ、藍。どうして?」
まるで誘うような声に、藍と呼ばれた彼女はわずかに震える。
「いつもは、そういったことは結界の機能に任せているはずです。たまに、気まぐれでさらうことはありますが、あなた自身が保護をするなど、前例がない」
「そうね。けれど、だからなんだというの? 前例がない行動を、どうして私はしてはいけないの?」
「してはいけないなどと、あなたの行動を妨げることは、私は致しません」
「でも不思議がっている。私が彼女を保護することを。もしかしたら、嫉妬でもしている?」
「それ、は」
無い。そんな短い一言が、藍は出せなかった。肺に力を入れても、口を大きく開いても、何かが引っ掛かってしまう。
目をそらし、混乱する藍。彼女の視界の外では、紫が楽しそうに笑っていた。図星を付かれて戸惑う彼女を、いとおしそうに見つめながら。
「……彼女はね、ちょっとした知り合いなの」
「知人、でしたか」
「ええ。ずいぶんと古い、ね。あなたと出遭うよりも、ずっと前の話よ」
その言葉に、何かを感じて。藍は勇気を振り絞って、顔を上げる。
紫は、すでに藍から視線を外していた。過去を懐かしむように、笑っていた。
「……聞いても、いいでしょうか」
「いいわよ」
「彼女は、何者ですか?」
「あなたと同じ、九尾の狐よ。あなたより、格はわずかに劣るけどね。私が昔、人間の社会に紛れて暮らしてた頃、同じことをしてた彼女と出会ったの」
本当に楽しそうに、紫は語る。
「陰陽師を、してたのよ。二人とも、当時は天才だってもてはやされた。お互いの素性を知って、ちょうどいい機会だからって理由で、殺し合ったわね」
さらりと、物騒なことを呟く。しかし藍は気にしない。紫は今ここにいるのだから、過去にどんな陰惨なことがあろうと、彼女はそれを問題視しない。
「勝者は、紫様ですか」
その言葉は、確認のためのものだった。藍は主人たる紫の勝利を、微塵も疑っていなかったから。
「ええ。辛くも、ね。私が勝って、彼女を蹴落としたの。今までの地位を失った彼女は、それ以降ちょっかいを出してきてね」
「それにしては、ずいぶんと楽しそうですね。その者には随分と恨まれているでしょう?」
「全然。あっちはあっちで、権力なんて毛ほどの興味もなかったのよ。負けたと言っても、私は殺さなかったしね。むしろ楽しかったって言っていたわ。好敵手でも見つけたつもりなのかしら」
「あなたも、似たようなものでは?」
「楽しかったのは事実ね。ええ、話すのも殺し合うのも、そこそこに楽しかったわ」
そう言うと、紫は手のひらの亀裂に視線を戻す。
その中では、衰弱した少女の戦いが映し出されている。その表情に、死への絶望はない
「だから、死んでほしくないのよ。楽しみが消えるのは、つまらないもの」
「わかりました」
藍は一つ頷く。つまらないのはいけない。彼女は主に、そんな思いをしてほしくない。
いつも楽しそうに、藍をからかいながら、何か策略を巡らしながら、生きていてほしい。
充実した生を謳歌する彼女の笑みが、藍は大好きだった。
だから、己の心の奥底で燻るものを無視して、彼女は頷いた。
「では、近いうちに?」
「ええ。あまり先延ばしにはできない。死ぬ前に結界が彼女を保護するでしょうけど、できれば、私自身が迎え入れたいのよ。この幻想郷に」
「わかりました。では歓迎会の準備でも、しておきますね」
「適当でいいわよ」
藍は頷き、そして立ち止まった。紫は背中を見るだけでわかるほど、楽しそうだ。おそらく、過去の記憶に思いをはせているのだろう。
ならばと、回れ右をする。そんな中に割り込むなんて、無粋なまねはできない。
「……ふふ」
藍が立ち去った後も、紫は歩く。
月光に照らされた庭を、ゆっくりと。
「楽しい楽しい私の箱庭を、早くあなたに見せたいわ。昔語って聞かせた夢が、ついに叶ったのだから」
そうして、月を見上げて、呟いた。
「だから待っていてね、夜々」
◇◆◇◆◇◆◇
どこかの地方都市。夜であるにもかかわらず、町は眠りにつくことはない。ネオン看板があちこちで輝き、街灯が人々の足元を照らす。真昼さながらの明るさの中を、やはり昼間と同じだけの数の人間が行き交っている。昼間と違うものがあるとすれば、それは空が漆黒に覆われていることと、仕事に追われたサラリーマンの姿がないことだけだろう。
そんな街の賑わいから、わずかに離れた場所。立ち並ぶ幾つものビル群の、隙間に生まれた裏路地の一つ。足元を照らす明かりすらない場所。
そこで一人の少女が、ビルの灰色の壁にもたれかかっていた。息は荒く、綺麗な黒髪が、汗で湿っている。
少女の名は夜々。
この科学万能の社会で、ありえない幻と戦う、狂人だ。狂人だと、周囲のものは噂する。
噂するだけだ。彼女の身を案じるものも、彼女に危機感を覚えるものも、いはしない。
どうやってか手にいれた偽の戸籍と、普段から口にする荒唐無稽な話の数々が、彼女の胡散臭さを増長させ、人々の関心を遠ざけた。
それを、夜々は気にしたことがない。自分の話が信じてもらえないのは承知してるし、周りがどう思うかなんて、知ったことではない。
やりたいと思ったことを、やるだけ。彼女はそうして、今まで生きてきた。
「だから、どうでもいい」
荒い息を立てながら、夜々は頭に浮かんだことを消し去る。
弱気になっていると、彼女は感じる。刻一刻と訪れる死に、彼女はおびえていた。
しかし、それを誰かに言ったことはない。日々衰弱していく彼女を案じた誰かが、病院へ行くことを勧めてきたが、無視した。
行くだけ無駄だと知っている。どんな名医だって、この衰弱の意味を理解できるものはいない。
疲労だストレスだと言って、それ用の処方箋を用意するのがせいぜいだろう。薬では、治ることなんてないのに。
だから、誰にも言わない。本当のことを言っても、いつものように、笑われるだけだ。それは、それだけは我慢できない。だから言わない。
それに、やりたいことがある。この衰弱した体を押してでも、やりたいことが一つだけ。
だから夜々は、自分の体に鞭を打つ。そのうつろになりかけた瞳を、忙しなく動す。まるで何かを探すように。
いや、事実彼女は探っているのだ。光り輝く都市の中に生まれた、人知の及ばぬ暗闇の中を。
そこには、人間が闇の底に見るものと同じ、恐怖の具現がうごめいている。
科学が否定した幻、ありえない魔性のもの、人を食らう妖怪。
友人知人に聞かせても、笑われるだけで信じてもらえない。彼らの姿を。
探して、探して。
そして、
「――そこっ!」
暗闇の中へと、夜々は一枚の紙切れを投げつける。
紙切れには何やら複雑な文字が、赤いインクで書かれていた。
まるで血のようなそれは、虚空にて炎を吹き出した。そしてそのまま紙切れを焼き、火の玉となって闇を駆ける。
コンクリートのひび割れた壁が橙に染まり、地面でゴミをあさっていたネズミたちが慌てて逃げ出す。
火の玉は十メートルほど進み、そして何かにぶつかった。
ぶつかり、その場に停止。火の玉はぶつかったものを引火させようと燃え盛るが、それは構うことなく火の玉を薙ぎ払った。
炎が消え去る寸前、飛び散ったいくつもの火の粉が、それの全容を照らしだす。
黒い、人だった。人の形をしたものだった。しかし人ではない。妙に長い手足と、浮き出した肋骨と、膨れ上がった腹部と、そしてその頭部から生えた小さな角が、かの者が異形であると告げていた。
「この現代社会で、幻想が生を受けるなんてね。さすがは鬼、古いだけのことはある」
夜々は呟き、懐に手を伸ばす。取り出されたのは、先ほどと同じ紙切れ。しかしその数は、何十枚にも及んでいる。
だが、それらを放つことはできなかった。そうすれば目の前の餓鬼など一撃で焼き殺せると分かってはいても、できなかった。
鬼が、跳んだのだ。
その細い足を折り曲げて、跳躍したのだ。鬼は十メートルの距離を、たった一瞬でゼロにしていた。
目の前に現れた鬼に、夜々は硬直する。予想以上の運動能力。
彼女は慌てなかった。慌ては、しなかった。想定外の事態に対処するため、思考を巡らせた。
けれど、どれほど冷静な対処をとっても、思考の時間をゼロにはできない。わずかなタイムラグの発生を抑えられない。それが彼女の体を縫い留め、鬼が付け入る隙を生んだ。
鬼は硬直する夜々を押し倒した。跳躍の勢いと、地面にたたきつけられた衝撃で、夜々の視界で火花が散る。
「……く、ぁ」
呼吸ができない。背中から胸骨の内側へと突き抜けていった痛みが、肺の動きを阻害し、そのまま体中を拘束した。
指の一本さえ動かない中、何とか眼球だけを動かして、鬼を睨む。
視線が交差した。鬼もまた、夜々を見ていたのだ。
『お前』
醜悪で、聞き取りにくい声だった。まるで獣の鳴き声を合成して、無理やり人の声を再現したかのような。
『お前も、妖怪か』
「……ああ、そうさ。ご名答。狐、の、妖怪さ」
激痛が彼女の言葉を阻害するが、それを押し切って、何とか答えた。
夜々もまた、妖怪だった。彼女を押し倒す鬼とは違う。千年以上を生きた妖怪。
『なぜ俺を襲う』
「お前、人を、殺してる、だろ。一人二人、じゃない、何十人も。さすがに、見逃せない」
『妖怪のくせに、人の味方を気取るのか』
にかりと、鬼が嗤う。
『生まれ落ちたばかりの俺でも知っている。人に危害を加えなければ、我々は生きていけないということを』
夜々は答えない。その沈黙は、肯定だった。
そう、彼女も同じだ。人を害する妖怪。人に手を差し伸べる傍らで、人を傷つけてきた。
時には奪い、時には傷つけ、時には陥れ、そして時には殺してきた。
そんな彼女が、同じように人を殺す鬼を、殺そうとする。鬼はさぞ滑稽に思うだろう。なんという、偽善か。
「……っは」
だから、夜々もまた嗤った。
「くだらない。人殺しが人を助けちゃいけないのか?」
回復した口と肺で、目の前の鬼に吐き捨てる。
『いくら助けたって、許されるわけではないだろう』
「知るか。私は妖怪だ。許しがほしくて、助けるんじゃない」
彼女は、夜々は。
「見捨てたくないから、助けるだけだ」
正義感なんてあるはずがない。
彼女はどこまでも妖怪だから、己の欲望に忠実に生きるだけだ。
その結果として、人助けをしているだけのこと。
「君は殺しすぎた。はっきり言って目障りだ」
だから死ねと、夜々は言う。
でも、彼女は動けない。
『……奇遇だな。俺もお前と同じ意見だ。お前は、目障りだ』
だから死ねと、鬼は言う。
そして彼は、動くことができる。
腕を振り上げ、指を開き、その爪で彼女の喉笛を切り裂くことができる。
欲求に忠実な彼は、躊躇わなかった。
爪が振るわれる。生まれたてとはいえ、鬼の膂力で振るわれる爪。夜々の喉仏どころか、アスファルトをえぐり取ることさえ可能だろう。
夜々の体など、ひとたまりもない。妖怪である以上彼女の体は頑丈だが、頑丈なだけだ。その身は銃弾さえはじけない。まして鬼の放つ一撃など。
だから、彼女はあっけなく引き裂かれた。肉と骨を断つ音が、裏路地に響く。同時に、アスファルトを砕く音も。
鮮血が飛び散り、鬼の爪と体を染める。鬼はその感触に恍惚とした笑みを浮かべ。
「よい、しょっと」
そのまま、鬼は投げ飛ばされた。
『な!?』
鬼は驚愕しつつも、なんとか受け身をとろうと空中で身をひねる。
迫るコンクリの壁に対し、両の手足を向けて衝撃に備える。
だが、壁にぶつかる寸前、衝撃を殺すために手足を動かしだしたその瞬間。鬼は紅蓮の炎に包まれた。
『ぐ、グギィッ!』
肉が焼ける匂いがする。鬼は己が焼かれる痛みに叫ぼうとした。だが、口を開けた際に喉を焼かれたのか、叫びは即座に消え去った。
そして、生き物が苦しみもがく音を聞きながら、夜々は立ち上がった。
『ギ、ガァ』
「なんで生きてる、って顔してるね」
夜々は身なりを整える。と言っても、大したことではない。倒れた際についた土を払い、乱れた服装をただしただけだ。
喉の傷など、一つもなかった。飛び散ったはずの鮮血も、見当たらない。
「さっきの呪符見た時点で警戒しなかったのが君の敗因だね。占いやまじないも陰陽師の務めさ。身代わりくらい安い安い」
『ギ、ざま』
焼けた喉で声を発する鬼。それは、執念のなせるものなのか。
『陰陽師だ、と』
「人に紛れて人を助けて、なんて生き方を続けてきたからね。こういう人間の技術も使えるようになったのさ」
と言っても、もう時代遅れなのだが。
同じく時代遅れの妖怪相手なら、問題ない。
『ぎ、ざ、ま』
鬼を焼く炎が消えていく。燃やす物が減ったためだ。だが鬼は、未だ生きている。
炭と灰だけになってもまだ、その体を動かそうとする。
「腐っても妖怪か。しぶとい奴だ」
呟いて、夜々はふたたび呪符を取り出す。
その数は、百枚。
「いい加減、死んどけ!」
彼女はそれを、鬼の体に直接たたきつけた。
直後、表通りに響くほどの轟音が響く。周囲のガラスは衝撃で全て割れ、アスファルトにもコンクリートにも、蜘蛛の巣状の亀裂が走った。符を握りしめた夜々の右腕は奇妙に捻じ曲がり、血と筋肉の破片をまき散らす。
だが、それだけの被害をこうむっただけのことはあったのだろう。鬼の体は、跡形もなく消し飛んだ。
もはや炭も灰も残ってはいない。いかに執念があろうと、粉々に砕け散ってなお再生するなど不可能だ。
鬼は、完全に消滅した。
「っは、ははは」
それを確かめ、夜々は笑い。
そして、糸が切れたかのように、アスファルトに倒れ伏した。
◇◆◇◆◇◆◇
いったい、どれほどの時間が経過しただろうか。
遠くから聞こえてくるサイレンの音で、夜々は目を覚ました。
「……ああ、クソ。逃げないと」
警察沙汰になったら、言い訳が大変だ。妖怪なんて信じてくれるはずがないから、狂人が爆弾でも使ったのかと思われるだろう。器物破損に危険物の使用、実刑は免れないはず。
それは嫌だ。結果的とはいえ、一応は人のためになることをしたんだ。なのに罪に問われて牢獄行なんて、気分が悪くなる。
だから、逃げようとした。
「クソ、が」
再び悪態をつく。彼女の体はもう、動かなくなっていた。
疲労と、痛みと、そして衰弱が重なって、全く動けない。回復も見込めない。ここまでダメージが酷いと、治らずに死ぬだろう。
「いや、だな。それは」
死ぬのは嫌だ。
死にたくない。生きたい。生きていたい。
もっと、ずっと、この世界に、いたい。
「く、あ」
涙が、こぼれた。死ぬのが怖くて、彼女は泣いた。
叫びはしない。嗚咽も抑えて、ただ涙だけが、一つ二つと零れ落ちる。
「嫌、だ」
吐き出すように、彼女は叫んだ。
「死にたく、ない!」
「なら、生かして差し上げましょうか?」
返事があった。
無いはずの返事が。誰もいないはずの裏路地で、誰かが答えた。
「――ぁ」
夜々は、その声に聞き覚えがあった。
透き通るほど綺麗で、訝しみたくなるほど怪しげな、女性の声。
金の髪を揺らして、夜々の記憶と寸分たがわぬ姿で、女性は立っていた。
夜々の顔のすぐそばで、八雲紫が立っていた。
「こんばんわ。夜々」
「こん、ばんわ。紫」
かつての友人を前にして、夜々は必死に嗚咽をこらえた。
泣き顔を、見せたくなかった。
かつて、殺し合って、いがみ合って、ぶつかり合って、そして語り合った彼女に、みっともない姿を見せたくなかった。
「どうしたの、さ。こんなところに」
「お迎えに来たのよ。今にも死にそうな夜々」
「迎えって、どこにさ」
「私の楽園。かつて聞かせた理想郷よ」
「……噂は、聞いてるよ」
思い出す。
かつて、八雲紫は言っていた。
妖怪はいずれ消えゆく。だから見捨てられた彼らを救う、楽園を作ると。
「夢、叶えたんだね」
「ええ。だから行きましょう。私と一緒に。死にたくは、ないんでしょう?」
「当然よ。私はまだまだ生きていくんだ」
大した目的なんてないけれど、生きていくだけで価値があると、夜々は信じているから。
「ふふ。なら急ぎましょう。早くしないと死んでしまうし、何より、涙を拭けないでしょう?」
「……気付いても言うなよ。恥ずかしい」
小声でそう呟くと、夜々はごまかすように、力を振り絞って、無事な左手を上げた。
「連れてってよ、楽園に。私が、生きていける場所に」
「ええ、行きましょう」
紫は夜々の手をつかむ。
互いの手を取り合いながら、二人は同時につぶやいた。
――――幻想郷、と。
そしてその十分後。
サイレンの音ととに数人の警官がやってきたが、彼らは謎の爆発の痕跡以外、何も見つけられなかった。
初めての方は初めまして。
また読んでやるよ! という方はお久しぶりです。
鈴ノ風と申します。
はい、やっと、やっと!投稿することができました、『東方妖狐録』
「いつまで待たせんだこの馬鹿野郎!」なんて叫んだ方もいらしたかもしれませんし、「いや待つも何も興味ねーし」なんて方もいらしたかもしれません。
そんな皆様にまずは謝罪を。
申し訳ありませんでした。
思えば最初に妖狐録を投稿したのは三、四年前。スランプとにじファン閉鎖が重なったこともあり投稿がストップし、こんなにも長い時間放置することになってしまいました。
今や立派な社会人。価値観も考え方も大幅に変わり、作品もかなり変化したと思います。
元々想定してたラストシーンも完全カット。着地点なんて無視です。行きたいところまで突き進んで、書きたいことを書いていきます。
もはや不安しかありませんが、きっとこのくらいがちょうどいいと信じて、書き進んでいきたいです。
行き当たりばったりな作者ですが、応援していただけると幸いです。