入学初日の出来事3(プレートバトル5)
「瑞穂、聞こえてるか」
先輩A・Bを追いかけて行った、瑞穂に向かって話し掛ける。
「ええ、あれで良かったの?」
声の様子から少し照れているのが分かる。
空伝絃、任意の相手を空気の膜で覆い、風の絃で繋ぐ、風使い特有の精霊術である。
メリットは離れた相手の位置特定と通信。
デメリットは、人中で使うと相手側は独り言を云う危ないヤツと思われる事。
もっとも、術者は声を出す必要がないので、デメリットとは云えず良く利用している術だ。
「ああ、上出来だよ」
俺はあの場に着くと同時に瑞穂にこの術を使っていた。そして、頃合いを見て指示を出した。
(なるべく気配を消して、合図と共にC先輩を瞬殺し、離脱しろ)と。
特にやり方は指示していない…と、云うか指示をした事がない。また、瑞穂は余計な事を聞かない。本人曰く「悩んだら負けでしょ」との事だ。
勿論、後で鬼のような追及を受けるのだが、必要な時に動いてくれないより、遥かマシと云うものだった。
「で、そっちは平気なの?」
瑞穂も囲まれていた事は分かっていたし、数人がそっちに向かったのも気付いていた。
ま、通信に応じているのだから、既に片はついているのだろう。
「否、分からん」
「ちょっと…」
「いいか、今から云う事は必ず守れ」
語気が強くなった事を感じたのか、瑞穂は大人しくなる。
「独りどうしても読めないヤツがいる。だから、なるべく人に会わないようにして、ここから離れろ。それでも出会ったなら、兎に角逃げろ。分かったな」
「カスミっ!」
引き返した俺は、そのままカスミにタックルをかけ、そのまま抱き締める。
「なっ!」
いきなり抱きつかれ、流石に戸惑っているカスミ。だが、フォローしている余裕はない。
「なるべく体を小さくしろ!」
「え、え、え…」
訳も分からず動揺しまくりだが、俺に身を任せて体を小さくする。
直後、ソイツは宙を飛んでる俺の真上に表れた。
「ちゃんと先輩の助言を守ったんだな。偉いぞ♪」
そのまま踏みつけるように蹴りを出す。
チッ、避けられないか!
ダメージは仕方ない、身を屈めて背中で蹴りを受ける。
「がっ!!」
何だコレ…冗談じゃない!!
背中に走る凄まじい衝撃に、何も出来ないまま地面に叩き付けられる。
「お~、これが飛ぶ鳥を落とすってヤツだな」
「ざけんな…」
かなり視界が歪んでいるが、何とか立ち上がる。
「いた~い、もうなんなの」
地面にぶつかる直前にカスミが魔力障壁を発動してくれたお蔭で、何とか瞬殺だけはま逃れた。
「助かったよ、カスミ」
「助かってないよ」
カスミは俺よりダメージを受けていなかったが、凍ったかのように、蹴りをくれた男を見ていた。
「何でこんな…」
いつも余裕しゃくしゃくのカスミが、顔面蒼白になっている。
「カスミ?」
「青の1プレート。2年4位音速の疾走者。速水駿二」
4位…マジかよ。
「お嬢ちゃんは俺の事知ってんだ、そりゃ光栄だね~」
目は笑っていないのに、表情だけはニコニコしている。ぶっちゃけ好感は持てないヤツだ。
「何で永遠の5位が出てくるのよ。あり得ない」
もはやカスミは完全に取り乱している。
こうなると、戦力として数える事は出来ない。
「あり得ないって事はないでしょ。なんてったって100プレートが居るんだから」
速水の視線が俺を射貫く、何処まで興味を持ってくれているか分からないが、少なくとも今の興味は俺にあるらしい。
だったら、最初の作戦を遂行すべきだ。
「カスミ、何取り乱してる。お前も1プレート《ワンプレ》が出て来る事ぐらい予測してただろ」
カスミの肩を掴み揺らしながら、空伝絃を設置。
「来るとしても6~9位くらいだと思ってたのよ!!でも4位はダメ…下手をすると殺されるわ」
「だったらお前はもう喋んな!端で見てろ」
そう云い、カスミを後ろに追いやる。
(カスミいいか、俺が時間を稼ぐ。逃げろ)
体を揺らし恫喝する事で、カスミは少し冷静さを取り戻した様だった。
だから、何も云わずに逃去る。
とても良い判断だった。
「さて、もういいか後輩」
「性格悪いっすね、先輩」
速水は全てを承知の上で、カスミを逃がした。
だから、次の台詞はこうだろう。
「気合い入れないと、すぐあの女をヤルぞ」