Skill of Magic 14
「だが、その通りだったりするのだよ」
俺が放った突きを御社はその右手で止める。すると、俺の刃は一瞬で消滅した。
そして、そのまま掴まれる俺の左腕……
「─── がっ! 」
その痛みに気付いた時、俺の前腕も刃と同様に消滅した。
あまりにも大きな痛みが伴う場合、感覚が麻痺するというが、今が正にその状況なのだろう。
── 気を確かに持てよ、俺っ!
「私の能力に気付いていたみたいだが、残念だったね。左腕を無くし武器もない…… 。
── 終わりだよ」
「そうだな…… 」
御社の力は空間を削り取る事だ。右手から発生した魔力が届く範囲といったところだと思う。
その力を使い御社は、瞬間移動もどきの芸をしていた。
空間を切り裂き、その場に進入。開かれた空間はすぐに元に戻るので、御社の体は弾かれて移動する。あの時、御社がよろけた時に立ち位置が変わっていなかったら、想像すらしなかった力だ。
「ったく、ふざけた力だよ…… 」
「そのふざけた力を止める方法はあったはずだよ。もっと早く力の源に気付いていればね」
「冗談だろ。そんなゲスの極み、気付いてたってやらないさ」
「だから、負けるんだ。勝つためなら、三人ぐらいの命切り捨てなきゃダメだよ」
御社の力は魔物を取り込んだもの、その魔物は三年の三人が今も力を供給しているから存在している。
御社が云う通り、三人の生命を断てばコイツはただの老人になる。そうすれば、簡単に俺は勝てるだろう。
そして、今の俺は麻痺しているとはいえ、腕一本切り落とされたのと同じ状態なのだ。そうは長く保たない……
── だからこそ、とっとと勝って終わりにする。
俺が勝つ事が、こいつを黙らせる唯一の手段だからだ。
「風精霊譲渡」
俺は術を発動させる。
── 自分自身ではなく、俺のすぐ側で控えてくれていた相棒を対象にして……
「主よ、これがワシからの贈り物じゃな」
ジンは風精霊譲渡を増幅させた後、俺と同化した。
肉体強化の力を更に強化させた力は、俺に左腕の痛みを忘れさせ、動く力を与えてくれる。
「まず、その右腕を戴く! 風切り」
「愚かな、その武器は先ほど消滅させたっ! 」
御社の叫びを無視して、俺は右腕を振り上げた。
「ぐっ、がぁあああ── 馬鹿な! 」
ボトりと音をたてて、御社の右腕が地面に落ちる。そして、俺の右手には風の刃が握られていた。
「愚かなのはお前だよ。俺の左腕に腕輪があったか確認してないだろ」
「── あの刃は偽物か…… 」
「一万と腕一本でお前に勝てたんだ。安い買い物になったな」
今は無くなった手持ち杖の魔術具。亮から買い取って、随分お世話になっただけに減価償却も充分だ。
「─── さあ、選べよ」
「何をだ? 」
苦痛に顔を歪めながら、御社は聞き返す。だけど、痛いのは俺だって同じだ。
「力を使えなくなったお前でも、殺さなきゃいけない理由がある。
だが、その理由が無くなればという事だ」
「私を助けようというのか? ── ククク、甘いな」
「なんと言われても、出来ればそんな業を背負うのは遠慮したいんだよ」
もし戦いの最中、殺すしかないのなら躊躇うつもりはない。だか、既に翼をもがれ翔べなくなった鳥を殺す必要があるだろうか。
「── あるぞ。私が魔物を放棄すれば良い。それだけの事で、あの三人は戻ってくるだろう。──だが」
御社の殺気が膨れ上がる。
─── バカがっ! やっぱりこっちの選択をしやがった……
御社が左手を振りかざした瞬間に、俺は残った腕を切り裂いた。
「あ、あああ…… 」
両腕を無くした御社は、両膝で自分の体を支え「あ」の一文字を繰り返し呟いていた。
「分かってた答えを聞くのは、甘いよな……
それにあの質問は、今すべき質問だったよな」
隠した牙を抜き、翔ぶ事はおろか動けない鳥となった御社に向かい、俺は冷たく云い放つ。
「けどな…… 余力があるときの言葉は真実だが、余力が無くなったときの言葉は諦めだ。また余力が生まれたとき、お前は同じ事をする。
─── だから、もう聞かない。じゃあな、御社」
〈風切り〉が、御社の額に当てられる。このまま少し力を入れれば、御社の生命を終らせる事が出来る。
「─── こんなもんかよ。人の命って…… 」
人の命をその手に握っても、その重みを感じない…… 奪った後に分かるのだろうか? 俺は刃をグッと強く握り締めたのだった。
そして俺の決着が迫る時、もう一つの決着がつこうとしていた。
「─── 里美ちゃん。まだ保ちそう? 」
「正直、一寸キツくなってまいりましたわ」
犬型の攻撃を最前線で捌きながら、里美が圭さんの問いに答える。
「圭先輩、さっきまで考えてたアレ、試しませんか? せっかくの領域ですし」
「──そうね、このままだとジリ貧確定だし……。 やってみましょう。んじゃ、カスミちゃん宜しく」
圭さんがそう云うと、里美は犬型の攻撃を避けるのを止めて受け止めた。そして、カスミが動く。
「絶対魔術障壁っ! 」
カスミが放った術は、犬型を魔力の檻に閉じ込め動きを封じた。
「さてと、ヴォルグ── 私に力を貸しなさい。
ここでなら、私の考えが分かるでしょ。〈溶岩池〉」
ヴォルグが圭さんの意思に応え、その体を溶岩へ変化させる。そして、生まれた溶岩池は犬型を封じた檻の上空で浮遊池になった。
「後はタイミング次第ね。任せたわよ二人共」
「はい、それでは── カスミさん、よろしくて? 」
「いいから、早くしてっ! 檻が保たないから…… 」
今、最もキツそうな表情をしているのはカスミだった。あの檻は完全に犬型の動きを封じている。それだけ大きな魔力を使っているという事なのだろう。
「では── 〈隕石時雨〉」
浮遊池の更に上で、大小様々な石が集まる。
─── 隕石時雨ね…… 名前からこの先の展開が分かる…… 。どう考えても、カスミ達の勝ちだ。
「カスミさんっ! 」
里美の合図で、上空の石が次々と溶岩池に落ちていく。
池に落ちた石が、灼熱の隕石となり犬型に降り注ぐ。そして、到達する直前にカスミは檻を解いた。
「お前なんて消えろっ! 」
絶対魔術障壁は、おそらく全ての能力を封じる術だ。それは中でも外でも変わらない。だがこれでは、止めの一撃を撃ち込む事は出来ない。だから、タイミングを見て術を解いた。
少しでもタイミングがズレれば、犬型を逃がす事になる。そんな難しい攻撃だったが、俺を含めカスミがミスをするとは誰も考えなかった。
そして、術も増幅が掛かった圭さんの術に、里美の術が合わさったものだ。当たりさえすれば、倒せないはずがない。
─── これで全てが終わる。
カスミ達の結果を見届ける事なく、俺は右手を前に突きだした。
「─── がっ! 」
終ったと俺が思った瞬間だった。
安堵から来る油断もあったのだろう…… だが、こんな結果は予測していなかった。
「真人君っ! 」
向こうから圭さんが叫ぶ。
「嘘です…… 」
そして、俺の首筋に噛みついた猿型の姿を見て、里美は茫然と呟いた。
刃を御社に突き立てようとした瞬間、猿型は口から飛び出した。そして、風切りを破壊すると、俺の首筋に牙を突き立てたのだ。
…… こりゃ、死ぬのかな。
咽から空気が抜けていくのが分かる。肺に酸素が届かないのは、究極の苦痛だというが、そんな苦痛は感じなかった。
「イヤぁぁー! 」
カスミの絶叫が聞こえたと同時に、俺の体から全ての力が抜けた。その後は、一面闇に染まった空間がそこにあるだけだった。
今度こそ、次話で完結です。
宜しくお願いします。




