Skill of Magic 13
カスミの勝利を約束する領域のお陰で廻りの状況が確認するまでもなく分かる。これならば何かあったとしても、すぐに対応することが出来るだろう。
俺は御社にだけ集中し、ヤツが残りカスと云った力を出せばいい。
一歩づつ確実に御社との間合いを詰める。すると、犬型が俺を威嚇し始める。だが、コイツの相手は俺じゃない。
── あと二歩……
カスミによって意思統一された俺達は、それぞれが臨戦態勢をとった。
── あと一歩……
周囲の空気が凍てつく。これだけの緊張感は、間違いなく御社にも伝わっているはずだ。ならば、せめて俺の動きだけでも、ヤツの思考を上回らなければならない。
── Go!
心の中で指示を出し、俺は右へ跳んだ。
その直後、俺のいた場所から、ズドンと鈍い衝撃がある。視線を向けるまでもなく里美が、犬型の斬撃を真っ赤な刀身で受け止めているのだ。
(ダメ…… 支えきれないっ! )
里美の悲鳴が脳内に響く。
「ヴォルグっ! 」
だが次の瞬間、圭さんが叫ぶと犬型の左へ回っていたヴォルグが拳を降り下ろした。
四元素最大の攻撃力を誇る火精霊の直接攻撃を受ける気はないのであろう。犬型は咄嗟に後ろに下がる。
「あら、受け止めないのね。そんな根性なし、オネーサンは認めないわよ。〈火縛り〉」
後ろに跳んだせいで、犬型の影が地面に浮き彫りになる。その影に二本、小剣が突き刺さる。更には犬型本体の背中にも、炎を纏った小剣が刺さっている。
〈影縛り〉は、有名な魔術の一つだ。
影を鋭器などにて縛りつける事で、相手の動きを封じる。精神世界に直接干渉するだけあって、見た目は地道だが束縛するという事にかけてはかなり強力な魔術である。
しかし、影がなければ術そのものが発動しないなど制約があるが、圭さんが使った火縛りは、犬型に刺さった小剣が炎を纏っているので、その灯りが影を創り続ける。故に外部干渉がない限り、影が途切れる事はない。
「乙女の自尊心分、ちゃんと徴収させていただきますわ」
圭さんが動きを止め、間髪入れずに里美が犬型の上に跳ぶ。
「重力衝破」
── 里美の体に重力がかかり、犬型に向かって一直線に落ちる。
本来、対象者に重力の楔を打つ、こちらも束縛系の精霊術だが、使い方一つで肉体強化系の術になる。里美が乙女の自尊心と云ったのは、自分に重力付加をかける事で体重が増加される事を指しているのだろう。
今までの小太刀であれば、この攻撃にそれほど威力はないかもしれない。だが、今は里美が〈紅桜〉と名付けた魔術剣がある。少なくても与えるダメージは今までの比ではないはずだ。
「飯綱連斬」
里美の剣閃が紅く煌めき、犬型の体を切り裂く。一撃必殺とはいかないが、魔術剣の威力と合わさって相当なダメージを与えたはずだ。
しかし、あの魔術具は亮が渡したらしいが完成度が高い。しかもそれだけではなく、圭さんにも魔術具を渡していたようだった。
流石に里美の〈紅桜〉ほどの完成度はないが、チョイスが凄い。魔物に対して有効な攻撃を持つ圭さんには、物理攻撃に特化した魔術具を渡しているのだ。
そして、カスミ達が犬型を相手に奮闘している時、俺も御社と交戦をしていた。
「──風散弾」
御社は魔物と違う。能力の一部は引き継いでいるとしても、ダメージを通し難い能力はない。つまり、その一点に於いては犬型より組み伏し易いといえる── はずだった。
だが、俺の攻撃はカスりもしない。今そこにいたはずの御社は、瞬きの瞬間で立ち位置をどんどん変えていく。
まるで瞬間移動のようだが、速水のように視線を追って移動位置を知る事が出来ない。
── 何かヒントがあれば、御社の力を解明出来る。だからこそ、どんなに小さな動きでも見逃してはならない。
そして、小さな動きをより大きくする為に、俺は一つ手を打つ事にする。
「風精霊譲渡」
── あと何回使えるだろうか。
一気に力を無くし、休みを入れて若干の回復をさせているが、全快まではしていない。だから何回使えるかなど分かるはずがない。それでも、この術ならまだ使えるとは思うが……
左右にステップを踏み、スピードをもって御社を圧倒する。そしてあわよくば一撃を入れる。
計算や策としては甘いのだが、最大の目的の副産物と考えれは充分良作になり得る。
右足を地面に着けた瞬間、今まで左に流していた力を正面に向ける。
「風切り」
御社が俺の動きを捉えられるなら、正面から切りかかるような単調な攻撃をどう捌くだろうか── 答えは簡単だ。
あの右腕で俺の刃を受け止め、また分解させるだろう。その後、攻撃をしてくるかは不明だ。
御社の勝利は、俺の力を尽きさせれば確定するのだから遥かに緩く、無理な追撃をする必要などない。しかしだからといって、そう決めつけていたら、御社は容赦なく追撃をしてくるはずだ。
── 決めつける事なく対応する。
御社が俺の間合いに入ると同時に、俺は刃を振り上げ── ダメだっ!
御社の顔が視界に入ったとき、直感があった。このまま攻撃したら、間違いなく俺は殺られる。
刃を振り上げる為に踏み込んだ足から、流れる力を無理矢理ねじ曲げる。そこに掛かる力に踏みとどまる事が出来ず、俺は右側へ転がる。
「ちっ! 」
転がりながらも、俺は御社から目を離さなかった。そして、確かに見た御社が俺を仕留め損ねた悔恨の舌打ちと、その右腕を降り下ろした時に僅かだが、体が前に流れたのを…… それを見た後、完全に態勢を崩した為、視線が御社から外れる。だが、再び御社に目を向けたとき、ヤツの体がさっきまで居た地点より、数歩前に出ている事に気付いた。
── そういう事か……
俺が得たものは正直有り得ない事だ。だが、確信に至った。これを疑ってはこの先、何も信じる事が出来なくなる。
「── 御社…… 俺はお前を殺るぜ」
「…… 何を今更。そんな覚悟は済ませてから、私の前に立ってほしいものだね」
その覚悟が無かった訳じゃない。ただ口にする事で逃げ道を封鎖しただけだ。
それに御社は、躊躇いなく俺を殺しに来た。あのまま突っ込んでいたら、俺の体は今この場には無かった。相手が殺しに来てるのに、自分は殺すのを躊躇って勝てるほど、世の中は甘く出来ていないのだ。
「主よ、私は如何にするか? 」
「俺の側に居てくれ。だが── 決して御社には手を出すな」
「心得た」
ジンはそれ以外に何も聞かない。コイツは俺のやりたい事を察知しているのだ。
── かなり過激な結果になる。それでも否定しないのだから、間違ってはいないのだろう。
「さてと── ちょいとばかり、驚いて貰いますか…… 」
俺は御社を中心に弧を描くように動く。
打倒の為には、まだ確認しなければならない事があった。
「ご老体に鞭打たせて申し訳ないが、付き合ってもらうぜ── ! 」
御社の後ろに移動した瞬間に、弧を描くの止め風切りを横に一薙ぎするが、俺の刃は御社に届かない。そこに居たはずの御社は三歩前に移動していた。だが、御社の目が俺の動きを捉えているのは分かっていた事だ。だから、単発の攻撃ではなく連撃が必要になる。
「── まだだ! 」
一歩前に踏み出した後、左へ展開── 絶対に正面に立たないようにして追撃を掛ける。御社は俺の動きを捉えられるが、体術のみでは対応出来ていない。俺の予測が合っていれば、必ず背を向けるはずだ。
そして、その通りになる。
── 当たりだ。
予測通り動いた御社に、そのまま再度の斬撃を放つ。だが、俺の刃は空を斬る。そして、やはり御社は三歩前に立っていた。
検証は充分…… 三度、追撃を掛ける為に地を蹴る。そして、御社の左側へ移動して攻撃を仕掛けた。
「また左…… 」
御社はニヤリと嘲笑を浮かべると、左腕を振り上げる。
「まさか、右だけの力だと思って── 」
「ねぇよっ! 」
左腕が降り下ろされる前に、俺は右手で受け止める。そして、新に創り出した刃は左手に握られている。
── 躊躇うな!
強い決意を以て、俺は御社の胸に向かって突きを放ったのだった。
すいません。もう少し追加します。
ほんとに何度も申し訳ないです。何卒ご了承下さい。




