入学初日の出来事3(プレートバトル2)
「アンタ何者だ?」
小柄な男は、パッと見、女の娘かという程、整った顔立ちをしていた。
それ故、その存在感が不気味に思える。
「貴方と同じ新入生ですよ。でも、今はそんな事より、あっちの問題を片付けませんか」
さほど問題にしない様子で、上級生に視線を戻す。
コイツは…
横目でこの「ロリフェイス人生倒錯野郎」の様子を確認する。
「あの、何か酷い事考えてませんか?」
俺の事などチラリとも見ていないのに、あっさりと云い当てる。
「さて、どーだか」
チラリと確認しただけだが、目に付くのは手に持った本だった。
まさか「本使い」か。
確か魔術のレア能力だが、使い方が難しく戦闘向きでなかったはずだ。
「僕の事など、気にするだけ無駄だと思います。明確な敵対者がいるんですから」
「ごもっとも…」
倒錯君の忠告に従い、俺は上級生に視線を戻した。
コイツが味方だとはとても思えないが、さっきの言葉から、少なくても今この場では敵ではない。
だったら、目の前の小石を片付ける事から始めよう。
「おい、どーするよ」
「知るかよ」
上級生の左と中の男は「俺の登場かそれとも集団戦」か、分からないが兎に角露骨に動揺していた。
「何に動揺しているんでしょうね」
クスクスと笑いながら、人の心を見透かす倒錯。
「顔も見ないくせに人の心を読むな。妖怪か己は」
「酷いですね。貴方は慎重な性格のようでしたから、当然の思考だと思っただけですよ。で、どうします?」
「別に、ほっとけば向こうが勝手に教えてくれるだろ」
云って、右の男を見る。
「狼狽えるな。1プレートが一人増えたところで、所詮新入生だ。問題ない」
は?俺が1プレート。何でそう思うんだコイツ…
少し考えると、色々な事が線で繋がっていく。
…なるほど、そう云う事か。
しかし、この男もう少しマシかと思ったが、
「ふふ、小物ですね」
また絶妙なタイミングだな…この倒錯妖怪。
「けど、お陰で余計な黒星を付けないで済みそうだ」
そう云ってほくそ笑むと、倒錯妖怪は初めて視線を俺の顔に向けた。
「やれやれ、やっとその気になりましたか…少しも遅すぎやしませんか」
「んな事ねーよ。まだ何も始まってないんだ」
倒錯妖怪を制して一歩前に出る。
「んじゃ、枷を取るとしますか」
右の男の叱咤でも、残り二人はまだ迷っている。
だから、ヤル気にさせてやるよ。
「先輩、何か勘違いしてませんか?俺は1プレートなんかじゃ、ありませんよ。その辺にいる有無象です」
首に掛けていたプレートを取り出し、上級生に見せる。
『は?』
「何で100プレートがこんなトコに居やがる!」
う~ん、思った通りの反応だな…ある意味清々しいぞ。
「何でと言われたら、そっちの付き合いですよ」
「だったら消えろや、カスが!!」
『プチッ!』
えっ…今、何か鳴っちゃいけない音が聞こえたような。
「カスはテメーだ!」
音もなく瑞穂は、キレてた男との間合いを詰めて、右手を掴む。
「うわっ!」
突然手を掴まれた男は、吃驚して振りほどこうと手を引いた。
…引いたらダメですよ。
次の瞬間、男の身体は綺麗に宙を舞って、背中から地面に叩きつけられた。
「ぐはっ!!」
あ~ありゃ、痛いな…
普通なら終わるトコだか、叩きつけられる直前、背中と地面の間で小爆破を使ってダメージを軽減さていた。
「へーあの人、単なる小物じゃなかったみたいですね」
倒錯妖怪も見逃していなかったようで、感嘆の声をあげた。
「勿体ないな」
不意を突かれた時、咄嗟に反応したのは日々努力をしたからだろう。
だか、コイツは満足のいく評価を受けていない。
残念ながら、努力に才能が追い付いていないと云う事だ。
そして、瑞穂は努力に才能が追い付いているタイプだ。
「ゴミが要らん抵抗してんじゃねーよ」
叩きつけた時の手応えで、終わってないと判断すると、鳩尾の辺りに蹴りを落とす。
「ごっ!」
「後で説教してやるから、ソコで待ってろ!水鎖縛」
水で作ってチェーンで気絶している男を縛り、残っている2人を見据える。
『ヒィぃぃぃ…』
瞬殺された先輩Cを見て、完全に戦意喪失していたA・Bは一目散で逃走する。
すると、瑞穂は逃がさんとばかりに追いかけて行った。
「待て、コラ~!水散弾」
水使いの基本的な術、オンパレードだな…
「よ、よーしゃないわね。彼女…」
流石の倒錯妖怪も目がテンになって…んっ!!んんん。
「お前…その喋り方」
「…あっ!」
口元に手を当てて、しばし視線が定まらない。
そして、覚悟を決めたのか、
「…悪い」
と、云った。
「ぼ、僕っ子…はい、僕っ子、いただきました。絶滅危惧種きゃっほ~い、僕ファンなんです。握手お願いします♪」
「え、ええ、なになになに…」
手を掴みブンブン振り回すと、大混乱を起こしたようだった。
ちょっとおもろいな…コレ♪
実はさっきまで、コイツの不気味さにビビってた仕返しをしただけなのだが、狼狽え方が可愛く、癖になりそうだ。
…などと思っていたら、
「僕っ子、ちゃうわ~」
と、殴られた。
「アンタ等何なのよ!両方共、まともな面してんのに、一人はヤンキーで一人は変態ってあり得ない」
「僕っ子に言われたくないな」
「だから、僕っ子じゃないって、この格好は今日だけだし、話し方だって変えるわよ」
なる、明日から女の格好していれば、今日の行動を少しだけ誤魔化せるか。
「案外セコいな」
「やかましい、ソコで寝てるヤツ程じゃないわよ」
「なぁ、降格者ってそんなに惨めなもんか?」
倒れているC先輩を見て、考えさせられる。
この学校は能力者の為の者だ。
普通の人からの迫害から保護するという一面もあるが、市場命題は強い能力者を作る事にある。
だから、この学校に入学が決まった者は、入学式の一週間前に入寮し、様々な能力判定を受ける。
そこでの成績が基本となり、学年での序列が決まる。
そして、自分の順位を示すモノがプレートだ。
プレートは大分類で3種類にある。
1プレートは、1位~9位
10プレートは、10位~99位
100プレートは、100位~
また、色付けもされている。
白、黒、赤、青、黄、緑、橙、桃、紫の9種であり、色の順番はそのまま順位になる。
今の俺は100プレート白なので、順位は100位~199位になるのだ。
但し、序列は飽くまで暫定であり、3ヵ月に一度見直しがある。
この見直しに関わってくるのが、プレートバトルなのだ。
校内の至るところで戦い勝つことによって、ポイントを稼ぎ、負けると減るのだか、格下との対戦では勝ってもほぼポイントが入らない。
更に順位には基礎ポイントがあり、1プレート持ちは、基礎ポイントが非常に高く設定されているので、戦わなければ落ちる可能性は低い。
戦わないで現状維持に徹する者を無くす為、上位プレート持ち、上級生からの戦闘要請は必ず受けないと云うルールがあるのだ。
C先輩はおそらく1年の時、1プレート持ちだったのだろう。
そして、上級生に喰われ続けた。
だから、新入生の1プレート持ちを舐めていたのた。
「で、この後どうするの?初めからこの展開を考えたんでしょ」
倒錯妖怪改め、僕っ子は回りの気配を探りながら云う。
「まあ、な。…んじゃ、僕っ子は雑魚片付けなら、ボスが出てくるの待っててくれ。んで、ボスが出てきたら、ソッコー逃げると云う事でよろしく」
「アンタ、2年の1プレートとやり合いつもり?」
「アイツ1プレートか、確かに何かヤバそうな雰囲気があったな。でも、殺される訳でなし、俺は負けてもいいんだよ」
「ホント馬鹿ね。んじゃ、護らせあげるわよ。神城真人」
何だ、コイツ…俺の事知ってたんだ。
「復学したら、色々聞かせてもらうからな。僕っ子
」
「カスミだよ、本多カスミ。二度と僕っ子云うな!」
りょーかいとばかりに、右手を振る。
瑞穂とカスミに不要な黒星は付けさせない。
俺は強く心に決めた。
やっと、次で主人公が動きます。
誤字脱字の修正は定期的にやりますが、教えていただけたらありがたいです。
是非、お願いします。