Skill of Magic 12
ジンの支援は残り3回。これを最も効率的に使う為には、一匹に1回ではなく、1回で二匹を倒すのが最良の結果である事は明白だった。
「だが、それは無理じゃよ」
にべもなくジンは現実を見て云った。
まあ、実際ジンの云う通りなのだが… もし、二体を同時倒すとすれば、貫通力のある術でまとめて葬るか、広範囲の協力な術で殲滅するかしかない。だが、貫通力がある術でとなると、このスピードで動き回る犬型と大人しく見ている猿型が、直線で結ばれる一瞬のタイミングで撃ち抜く必要がある。
また、広範囲の強化な術だが、今の俺にはそんな都合の良い術のストックなどない。
「急がば回れ… だな」
方針を決めながら、犬型の攻撃を避ける。先程掛けた〈風精霊譲渡〉の効果はもうすぐ切れる。多用出来ない術だけに、効果が残っている内に一匹は倒しておきたい。
まず潰すなら、目の前で跳ね回る犬型を先にするのが良いと思える。だが、見る限り猿型が犬型を操っているようだ。それに、狡猾なヤツ程一匹にするのはマズい。味方がいる内に倒すに限る。
「ジン、あの時に増幅した術だが、覚えているか? 」
「…… あれか。うむ、主以外の術を増幅させられるとは思わなかったからな。なんじゃ、使いたいのか」
「ああ」
〈風陣収束殺〉
あれなら、猿型の裏をかける上に魔物を倒した実績もある。
初歩的な術なら、一度見ればすぐに使う事が出来るが、あのクラスの術となると高いイメージが必要になる。だが、今回はジンがイメージの補助をしてくれる。Aクラス精霊の助けがあれば充分に使えるはずだ。
「ならば、私はあのちょこまか五月蝿い犬を相手すれば良いのだな」
「だな…… 頼むぜ」
ジンが俺の意図を正確に理解してくれていなければ、意味ないものとなる。綿密な計画を立ててなく、御社に聞かれないように口頭確認が出来ない今回は、相互理解の深さが問われるのだ。
そして、犬型が俺を狙い攻撃を仕掛けた瞬間に、ジンがカットインして、喉元に食らい付く。
「──風縛鎖」
犬型の動きをジンが止めている内に、更なる拘束術を発動させ、俺は猿型・犬型・ジンが一直線に並ぶ位置へ移動した。
この位置ならば、犬型とジンが障害物になり、猿型の死角になる。そこで、
「風陣収束殺っ! 」
御影さんが使った時を思い出しながら、ジンを対象に術を放つ……
この術の優れているところは、線で敵を捉えるのではなく、点で敵を捉えるところにある。
線では術者の手元から見える火線も、点では見えない。つまり、対象が己になっている事に気付き難い術なのだ。
この術を回避する為には、発動と同時にその場を離れなければならない。そして、それが出来ない場合は、確実に術はヒットする。
「ぴぎっ? 」
自分の廻りの違和感に気付き、猿型は妙な鳴き声をあげるが、既に時遅しだ。
猿型の体を増幅された風球が包み込み、俺の意思一つで縮小・消滅させられる。
「── 時間はやらない。消えろ」
拳を握り締め、猿型の風球を縮小させる。
…… これで一匹。
「なっ! 」
自信を以て、行った戦術だった。
自分がいつでも完璧な策を打っているというような自惚れはない。しかし、ここまで予想外な結末を迎えるとは思わなかった。
猿型は俺の術が消えてもそこにいた。術に耐えたという感じではなく、何事もなかったかのように…… 否、事実何もなかったのだろう。
初めから、俺は御社に惑わされていたのだ。
「くっくくく…… あっはっはは…… 」
御社の嘲笑が響き渡る。その表情はしてやったりと云った感じだった。
「してやられた…… か」
あの猿型が何なのかは分からない。しかし、あれはあそこに実態がない幻術に近い存在なのだろう。
あれに出来る事は、鳴き声から出す魔衝撃ぐらいなもの。それすら、能力者には効かない。
つまり、ほっといても問題ないものと云う訳だ。
御社にしてみれば、俺を引っ掛けて無駄な力を使わせたのだから、溜飲が下がる思いなのだろう。
だが、俺は御社が見せる表情ほどやられたとは思わなかった。
何故なら、元々猿型に使う予定の力を使っただけだからだ。
無駄弾になったようだが、無力化した事に代わりない。
それにも関わらず、怒りや苛立ちを見せれば御社を喜ばすだけになる。
「あまり堪えてないみたいだね」
「んな事はないさ。ただヤられた上にオタオタしてたら、情けないだろ」
俺の言葉に御社の嘲笑が消えた。
「やはり、つまらない男だな君は…… 」
「じいちゃん程、ねじ曲がったユーモアは持ち合わせていないからな」
云いながら犬型の動向に目を向けると、御社の足元に戻り、今は俺への攻撃心を無くしている。
「フッ、アイツも充分つまらない男だよ。少なくても、私にとってはな」
「なら、それは褒め言葉だな。──んで、あのダミーはいつまであそこに残しておくつもりだ?
なんせ、本体がそこにいるんだから、もはや不要だろ」
実を云えば、魔物の正体に心当たりがあった。
御社が自分で云ったように、創り出した存在が御社でないと分かった時に気付いた。
そして、それが引き金になり全てを理解したのだ。
「── 気付かれないとは思わなかったけどね」
パチリと指を鳴らすと、猿型は姿を消し、御社の存在感が増したような感じがする。
「察しの通りだよ。猿型の本体は私が食った。つまり、この力は魔物の恩恵と云う訳だ」
恩恵…… 馬鹿云え、人間止めただけじゃないか。
人には魔法を使う為の回路がない…… とジンは云っていた。だからこそ、魔法使いになる為には、回路を持つ精神世界の住人と肉体接触が必要になる。しかし、それとて少ない確率で能力が使えるようになるといったものだ。
これは俺達が意図的に隠した情報なので、御社が知り得ない事なのだが、コイツは遥か前に魔法を使う方法を確立していたと云う事だった。
── それがどれほど愚かな事なのか、知りもしないで力だけを求めたと云う事だ。
「…… 魔物を取り込む危険性を考えなかった訳じゃないだろ? 」
「当たり前じゃないか。だから、私より星野の方が先に魔法を持ったんだよ。それで安全性が確かめられた訳だからね── 無難に役に立ってくれたよ」
── 安全。そんなはずがない。
魔物は負の感情の塊だ。そんなものを人の身に宿せば、確実に浸食される。
「お前が猿型を取り込んだのは、ここ一年ってとこだろ? 」
「その通りだよ。何故かは云うまでもないだろう」
「ああ、そうだな。── カスミ、お前の探し物はこれみたいだな」
一寸前に気配を消し、こちらの様子を伺っていたカスミに向けてそう云う。
「── ええ、ありがと真人。これで姉さまを助けられる」
岩影から出てきたカスミは、今まで見せた事がない目付きで御社を睨みつけた。
「君には出来ないよ」
「── そうかもな。でも、俺なら出来るよ。アンタを殺して、魔物を消滅させる…… 」
「簡単に云うね。でも、魔法は人が手に入れられる最高の魔術の技術なんだよ」
「何が最高の魔術の技術だ」
魔法が最高峰の能力だとしても、人を犠牲にしなければ得られないものが最高のはずがない。
── 御社の能力は、カスミの姉を含めて三人の能力者が呼び出した魔物を食らって得たものだ。
普通なら呼び出した術者の力が無くなれば、魔物は消滅するはずだが、御社が強制的にこちらに残している。だから、その精神力を食われ続けている三人はこちらに戻ってくる事が出来ない。
「人の尊厳を蔑ろにするヤツと、未来ある若者三人── どっちが重いかなんて分かりきってる。最低の技術共々、封印してやるよ」
「残りカスのような力で、私と魔物を倒し切れるのかい」
キツいのは分かってるさ。けど、お前だけなら倒せる力はまだ残してるよ。だろ……
「そうね。犬型は…… 」
「私達が引き受けますわ」
「犬コロの一匹程度、軽くヒネれるくらいの力戻ってるわよ」
カスミの後ろから、まだ意識の戻らない瑞穂を抱いた里美と圭さんが現れる。
「と云う訳だ。決着をつけようぜ、御社」
俺の言葉を聞いた後、里美は瑞穂を隅に寝かせると、身に着けた指環にキスをする。
「金縫さん早速使わせて頂きますね。煌めけ〈紅桜〉」
薄紅色の刃を創り出し構えた。
「来な、ヴォルグ! 」
そして、圭さんは精霊召喚を行う。
「真人…… 姉さまを助けてね」
最後にカスミはそう云うと、〈勝利を約束する領域〉を展開する。今度は、敵の思考を読む為でなく、自分の指示をロスなく伝える為に……
「任せておけよ」
俺は御社との距離を詰める為に前に進み出たのだった。




