Skill of Magic 11
前回来たときは、蜘蛛やら蛭がウヨウヨいた通路だが、今は何もいない綺麗な通路だった。
「そういや、あんときは騒がしかったな」
赤屋が術をぶっ放し、俺達はそれに着いて行った。その人数は五人… 一人でいる今とは大違いだ。そして、大きな違いがもう一つ。
鼠が大量にいた地点、第一ポイントと云うべき場所に、5匹の合成獣が待っていた。
鼠型が3匹に、ゴメラが2匹…… 一人で相手にするしかないのだが、面倒臭い事この上ない。
「時間が勿体無いからな、速効で片付けてやるよ」
更にあの時と最大の違いは俺の強さだ。
これは単なる自慢だが今の俺ならこの程度の相手、面倒臭いが敵じゃない。
「飛翔」
正面でたむろっている合成獣の中心へ飛び込む。そして瞬時に、風切りを閃かせ鼠型を二体屠る。そして、刃が届く範囲ゴメラがいる。
「お前も逝けよ」
体を翻し、目的としたゴメラの首に刃を当て、削ぎ落とした。これで後二匹。
残った合成獣は本能で、俺に恐れを抱き、戦意を失っていた。もはや、ほっといても障害にはならない。しかし、
「そんな姿で生き恥晒すのは辛いだろ」
その生物固有の能力は上回っているのだろうが、進化したとは云い難い。見ているだけで、嫌悪を感じるその姿は生命の冒涜だ。
俺はゴメラの肩に飛び乗り、首筋に刃を落とす。そして、最後の鼠型はその場から逃げ出した。
「外には出す訳にはいかないんだよ」
合成獣を追い抜き、進行方向に逆らって合刃を振るう。鼠型のスピードはゴメラより速いが、それが仇になる。カウンターで入った刃は、体を二つに分け絶命させた。
「ちっ、いい気分じゃねえな…… 」
術で倒すのと違い、命を奪った感覚が手応えとして残っている。存在自体があやふやな魔物を斬るより、ずっしりと重く思えた。だが、立ち止まっている訳にはいかない。
場合によっては、同胞を… 御社を殺るかもしれないのだ。そしてその時、おそらく躊躇ったら殺られるのは俺だ。
更にその先へ…… 俺は歩を進める。
◆
「来たね」
洞窟の最深部に、御社は二匹のキマイラを両脇に携えて立っていた。
「一体、何匹そんなもん創りだしたんだ? 」
「さあ、失敗作を入れれば100は下らないと思うがね」
「て事は、合成獣を合わせれば、1000以上の生命を玩具にしたって訳だ」
「それがどうかしたかい? 魔物に喰われたものは数千万になる。それに比べたら大した数ではなかろう」
人がそう考える事が狂ってるって、何故分からないんだ。
「否、だから狂ってるんだろうな…… 」
「狂ってる? 私がかい… 」
含み笑いをして、御社は狂気の視線を俺に向けた。
「だとしたら、原因は信司にある。つまり、この犠牲は君達の一族が間接的に関わっている、と云う事だね」
「お前の妄想にウチを巻き込むな。ったく、不愉快極まりないな」
「不愉快なのは私だよ。君の存在自体、実に不愉快だ。だから、もう消えてくれ」
指を鳴らし、二匹のキマイラを俺に差し向ける。
「…… 何か、今更だよな」
左右同時に襲い掛かってくる。
そのキマイラ達が俺の眼前まで迫った時、術を放つ。
「風の槍」
その牙で噛み砕こうとした一匹へ、風の槍を食らわせる。だが、外からの攻撃では倒せない。だから、俺はキマイラの口の中へ術を放った。つまり、文字通り食らわせたのだ。
体内ではキマイラの防御力はないに等しい、風の槍は臓器を破壊した。
そして、もう一匹は〈陽炎〉で切り裂いている。
「これは…… 桁違いに強くなったね」
「お陰様で」
「だが、それは本当の力じゃない」
油断していた訳じゃない…… 俺の両目は御社の姿を捉えていたはずだ。だが、だったらなんで奴は俺の真横にいる。
「くっ! 」
瞬時に後ろに飛び退く。
その動きを見極めた上で、御社は右手を振るった。
「これが力だよ。真人君」
御社はその右手で、俺の風切りを掻き消すと高らかに云う。
「…… どんな冗談だよ、コレ」
俺の風切りは、魔力で集めた風だ。それを消すという事は、魔力そのものを消したという事だ。
こんな事は星野では絶対に出来ない。
「私の魔法が星野と同じだと思っていたのかい? 」
余裕の表情で云う。馬鹿にされているのは分かっているが、そんな事は些細に思える。
俺の中では、威力は違うが、系統は同じだと認識を固めていた。だが、それが根底から覆されそうになっているのだ。
「くくっ、良い顔だ。出来れば信司にその顔をさせたいものだがね」
「有り得ない夢を見るもんじゃねぇよ…… 俺で満足しておけ」
尤も、俺の表情で満足出来るようなら、こんな狂気に走る事もなかっただろうがな……
「必死に分析しているようだね。では、上を見たまえ、これが答えの一つだよ」
御社に促されるまま俺は上を見る。
「バ…… かな…… 」
見上げた先に4つの瞳があった。
その瞳の持ち主達は、天井に立っていた。そして、微動だしないまま俺を見下ろしている。
「それはね。オリジナルに最も近い魔物の模造品だよ。だから、その強さも君が先程戦った三体より上だ。
私の切り札の一つさ」
御社の云う通り、二体いる魔物は一匹は犬型だが、もう一匹は猿型だった。確かに50年前の魔招来で生まれた魔物は、二体で一組とされていた。
組合せからいっても、オリジナルなるに近いのは分かる。だが……
「召喚出来るはずがない…… 」
魔物の召喚にはかなりの魔力を使うはずだ。そして、こちらに留めておくにも召喚主の魔力を使い続ける。御社が呼び出した魔物は、既に消滅している。故に、それ以上の魔力消費はないにしても、新たに召喚するほどの魔力があるはずがない。
「その通りだよ。私がこれを呼び出したのではない。この魔物は随分前からここにいるんだよ」
御社以外…… 随分前…… だと。
「お前っ!! 」
「50年前に、我々が味わった恐怖を少しでも感じてくれれば幸いだ」
御社がその手を挙げると、猿型の魔物が絶叫をあげた。その声は形容するのが難しいが、その効果は充分理解出来る。
魔衝撃とでも呼ぼうか、この声は精神世界から直接肉体にダメージを与える。
魔力耐性のない普通の人間であるなら、その声を聞いただけで絶命する。
「風精霊譲渡」
それは、ただの直感だった。
猿型が犬型に命令し、物理攻撃をしようとした瞬間に肉体強化させなければ、取り返しのつかない事になる。そう感じた俺は力の出し渋りを止めた。
犬型が天井をその四肢で蹴り、俺に攻撃を仕掛ける。
「ちっ! 」
そのスピードは、先程の魔物とは桁違いだった。奇しくも俺の勘は正しかった訳だが、それは追い込まれた事も同時に照明していた。
身を捻り犬型の攻撃を交わす。そして、その後追撃出来れば攻略の余地があるが、桁違いの防御力を誇る魔物に小技は通用しない。
俺がこの魔物を倒せるとしたら、ジンの増幅と魔法精製した風切りでの一撃しかない。
「ジンっ! 」
二択の中で、最善の方法と思える選択をする。
ジンを召喚しつつ、犬型の攻撃を交わしながら距離をとる為に〈爆裂風砲〉を放つ。
「主よ、何やら面倒臭い事になったな」
向こうから全てを見ていたジンは、俺を見ずにそう云った。
「ああ…… だが、万策尽きた訳じゃない。力を貸してくれるな? 」
「云うまでもない。主に尽くすのが忠犬じゃ」
そうしてジンは、犬の鳴き声を三回あげた。
その意味は、増幅の残数を俺に伝えたのだ。
残り三回で魔物二匹と御社を倒せなければ、俺は無事ではいられない。だから、脳をフル回転させた。
無事にアイツらの元に帰る。
今の俺の願いを叶える為に、ただ全力を尽くすのだった。
次回最終話の予定でしたが、1話追加します。
後2話何度も変更すいません。よろしくお願いします。




