表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/63

Skill of Magic 7

「神城、お前これからどうするつもりだ? 」

「御社を止めますよ」


 速水の問いに俺は正直に答える。あんな魔物(もん)を学園内に放った御社は、すでに一線を越えている。俺達が魔物に殺られた後、魔物を消すつもりだったのだろうが、それでも甚大な被害が出るのは明らかな事だ。それでも良いと判断するようなヤツを、ほっとく訳にはいかない。


「ただ、今すぐは無理ですね。無理に突っ込んでも返り討ちに遇うのが、目に見えてます」

「いいのか? あんなもんまた出されたら、ジリ貧どころの話じゃないぞ」


 確かにその通りだった。だが、今の俺達に御社はおろか、魔物を止める余力はない『兵は神速を尊ぶ』と云うが、余力もなしに猪突猛進する事が英断であるはずがない。


「明日ですね。今の俺達の最速はソレだと思います」

「……そうか」


 何かを疑うような目で速水は俺を見ていた。


「何ですか? 」

「否、何でもない気にするな」

「そうですか… 」


 速水は会話を打ち切り、不動さんの元へ歩いていった。


「何考えてんのかな、真人君」

「圭さん… 盗み聞きですか? 」

「私、頭と顔と耳がいいからね。聞く気がなくても聞こえちゃうのよ。それにそんな顔していれば、何もないと思わない方が変よ」


 一体どんな顔しているんだろうな。今の俺は…


「でも、実はオネーサンが聞きたい事は、そんな事ではないのだ」

「また、さっきの話を蒸し返すんですか… 」

「違う違う」


 さっきのは悪ふざけし過ぎたと反省しているのか、圭さんは慌てて首を振る。


「私が聞きたいのは、このまま自室に戻ってもいいのかって事よ」

「あ、そうですね」


 御社の息がかかっているこの学園にいる以上、何処にいても危険度は変わらない。だからと云って、バラバラに居るのは危険度を上げるだけだ。


「今日のところは、瑞穂達と一緒にいて下さい」

「瑞穂ちゃんと一緒に、真人君の部屋でまったりと…… しちゃダメよね」


 ジト目で見る俺を確認して、圭さんは言葉を留めた。何処まで本気なんだこの人…


「んじゃ、仕方ないなぁ。今回は真人君の事を信じてあげる。だから、オイタをしたらダメよ」


 こうして俺達は、一年の寮に戻った。



 まだ、御社の暴走を知る者がいない為、寮は平静を保っている。

 俺達は男性と女性に別れて、それぞれ一室に固まって体を休めていた。そして、その夜…


「やっぱり、こうなるか… ま、止めはしないがな」


 一人で部屋を出て行こうとしていた俺に、ソファで寝ていたはずの速水が声を掛けてくる。


「起きてたんすね、先輩」

「たまたまだ。な、不動」


 次いで不動さんも体を起こした。


「神城君は、誰も信用しないんだな」

「不動さん… 」

「失うのが怖いと云うのは、言い訳にはならないよ。そう云う事も含めて始めて信頼関係は成り立つんだからね」


 決して乱暴な言い方ではない、不動さんの言葉が痛かった。だが、俺もここで退く訳にはいかなった。


「信用よりも失いたくないものがあります。俺は臆病者なんですよ」

「ま、そう云う事なんだろうな。不動も無駄な説得しなくていいだろ」

「まあ確かに、無駄な説得だな」

「ああ、神城はアイツらのしつこさを分かってない。一旦気に入ったら、多少な事で見捨てたりしないさ」


 圭さんと御影さんの事を云っているのだろう。


「速水先輩は、圭さんの事信用してるんですね」

「あんな性格をしていても、俺達の象徴みたいなヤツだからな… だが、勘違いするなよ。俺も不動もそれ以上の感情は持ってないからな」


 普通なら「照れ隠しのツンデレですね」と、云うところだが、不動さんが鎮痛な顔してうんうん頷いている上に、速水は真顔だった。


「考えただけでも恐ろしい… お前も時期に分かるさ」


 分かりたくない気がするぞ。と云うより、すでに分かるような気がする自分がいる。


「それにあの三人のお嬢さんも、充分に赤屋の後継者感があるね。これで帰って来なかったら、君は死ぬより恐ろしい目に遇うと思うよ」


 口調こそ優しいが、明らかに脅迫ですよ、コレ…


「つまり、いい死に方がしたかったら、必ず戻ってこいって事だ。分かったな」


 速水はソファに横になったままだった為、どんな顔をしていたかは不明だった。それでも、想像出来る。


「先輩、男のツンデレは気持ち悪いっす」


 返ってきたのは、返事ではなく空になった紙コップだった。やれやれ、と不動さんはソファに身を沈める。


「んじゃ、ちょっくら行ってきます。…… なるべく早く帰ってきますね」


 俺は部屋を出る。その時に二つの笑いが聞こえたのだった。



 玄関を出たところで、二つの人影が俺を呼び止めた。


「夜遊びは感心しないなぁ~、ね。圭♪ 」

「そうね、そんな事は不良のする事よ。オネーサン、そんな子に育てた覚えはないぞ」


 速水に気付かれてた以上、この展開は予想していた。後は説得に応じてくれるかどうかだが…


「まあ、稽古をつけてもらいましたけど、人格形成まで、育てられたつもりはありませんよ」

「ん、フフ… 今から矯正しちゃおうかしら♪ 」

「それ、イイっ! 完全に私好みにしちゃおう」


 …… この人達は、速水達の気持ちが良く分かる。


「さて、真人君。今から君が選ぶ選択肢は二つよ。私の毒牙に掛かるか、響子の毒牙に掛かるか、どっちにする? 」

「… どちらもお断りします」

「我が儘な後輩君ねぇ」


 否、我が儘じゃないですよ…


「それじゃ、しょうがないわね。特別サービスでもう一つ選択肢を追加してあげる。あの娘達を連れて行く事」


 そう云って、圭さんが指差した方向には、瑞穂達が立っていた。


「後輩君に一つアドバイスよ。誰かが隣りにいる事は決してマイナスにならないの。護らなきゃいけないと思うだけで、簡単に心は折れなくなるからね。

 きっちりやりきって、私の胸に戻ってきなさい」


 御影さんは胸を強調しながら云う。

 今まで気付かなかったが、その胸はかなりご立派である。


「このビッチが、何どさくさ紛れで誘惑してんのよ」

「アンタじゃ、出来ないもんね。強調すれば、逆にないのが目立つし」

「なっ、形じゃ私の方が…って、何云わせんのよ」


 形… いいんすね。思わず想像してしまう。思春期の妄想力を舐めんな。


「コホンっ! 」

「はっ! 」

「兎に角、これ以上の譲歩はないわよ。どうするの? 」


 俺はとことんこの人を甘く見ていたようだ。

 圭さんが自分を連れて行けと云うなら、一戦交えても断るつもりだった。


「アイツらに見せたくないものを見せるかも、しれませんよ」

「あの娘達なら、受け止めるでしょ」

「ったく、師匠には勝てませんね」


 頭をボリボリ掻いて、俺は承諾した。


「だから、師匠なんだよ。必ず帰って来なさい」

「はい」


 圭さん達に背を向けて、俺は歩き出す。そして、瑞穂達の横に行くと「行くぞ」と言う。


「格好つけても駄目ですわよ。私達を置いて行こうとした罪、必ず償ってもらいますわ」

「そうね、何処までも付き纏ってやるんだから… 」


 里美とカスミは憮然としながら、俺の後をついてくる。そして、瑞穂は何も云わずに俺の横を歩いていた。


「瑞穂さん、マジ痛いんでツネるの止めてもらえます? 」

「五月蝿い、バカ者」


 俺の腕に掛かる力が大きくなる。どうやら、一番怒っているのは、瑞穂の様だった。


「護りきる自信がなかった… コレが本音だ」

「私達は護られるだけの存在じゃないわ。みんな真人の力になりたいと思ってるの」


 そうだ、当たり前の事だ。今まで散々、力を借りといて俺は何を思い違いしていたのだろう。こいつらにはこう云えば良かったんだ。


「力を貸してくれ、頼む」


 その一言で空気が変わる。

 その空気の中、そよぐ風は心地良いものだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ