Skill of Magic 7
「神城、お前これからどうするつもりだ? 」
「御社を止めますよ」
速水の問いに俺は正直に答える。あんな魔物を学園内に放った御社は、すでに一線を越えている。俺達が魔物に殺られた後、魔物を消すつもりだったのだろうが、それでも甚大な被害が出るのは明らかな事だ。それでも良いと判断するようなヤツを、ほっとく訳にはいかない。
「ただ、今すぐは無理ですね。無理に突っ込んでも返り討ちに遇うのが、目に見えてます」
「いいのか? あんなもんまた出されたら、ジリ貧どころの話じゃないぞ」
確かにその通りだった。だが、今の俺達に御社はおろか、魔物を止める余力はない『兵は神速を尊ぶ』と云うが、余力もなしに猪突猛進する事が英断であるはずがない。
「明日ですね。今の俺達の最速はソレだと思います」
「……そうか」
何かを疑うような目で速水は俺を見ていた。
「何ですか? 」
「否、何でもない気にするな」
「そうですか… 」
速水は会話を打ち切り、不動さんの元へ歩いていった。
「何考えてんのかな、真人君」
「圭さん… 盗み聞きですか? 」
「私、頭と顔と耳がいいからね。聞く気がなくても聞こえちゃうのよ。それにそんな顔していれば、何もないと思わない方が変よ」
一体どんな顔しているんだろうな。今の俺は…
「でも、実はオネーサンが聞きたい事は、そんな事ではないのだ」
「また、さっきの話を蒸し返すんですか… 」
「違う違う」
さっきのは悪ふざけし過ぎたと反省しているのか、圭さんは慌てて首を振る。
「私が聞きたいのは、このまま自室に戻ってもいいのかって事よ」
「あ、そうですね」
御社の息がかかっているこの学園にいる以上、何処にいても危険度は変わらない。だからと云って、バラバラに居るのは危険度を上げるだけだ。
「今日のところは、瑞穂達と一緒にいて下さい」
「瑞穂ちゃんと一緒に、真人君の部屋でまったりと…… しちゃダメよね」
ジト目で見る俺を確認して、圭さんは言葉を留めた。何処まで本気なんだこの人…
「んじゃ、仕方ないなぁ。今回は真人君の事を信じてあげる。だから、オイタをしたらダメよ」
こうして俺達は、一年の寮に戻った。
まだ、御社の暴走を知る者がいない為、寮は平静を保っている。
俺達は男性と女性に別れて、それぞれ一室に固まって体を休めていた。そして、その夜…
「やっぱり、こうなるか… ま、止めはしないがな」
一人で部屋を出て行こうとしていた俺に、ソファで寝ていたはずの速水が声を掛けてくる。
「起きてたんすね、先輩」
「たまたまだ。な、不動」
次いで不動さんも体を起こした。
「神城君は、誰も信用しないんだな」
「不動さん… 」
「失うのが怖いと云うのは、言い訳にはならないよ。そう云う事も含めて始めて信頼関係は成り立つんだからね」
決して乱暴な言い方ではない、不動さんの言葉が痛かった。だが、俺もここで退く訳にはいかなった。
「信用よりも失いたくないものがあります。俺は臆病者なんですよ」
「ま、そう云う事なんだろうな。不動も無駄な説得しなくていいだろ」
「まあ確かに、無駄な説得だな」
「ああ、神城はアイツらのしつこさを分かってない。一旦気に入ったら、多少な事で見捨てたりしないさ」
圭さんと御影さんの事を云っているのだろう。
「速水先輩は、圭さんの事信用してるんですね」
「あんな性格をしていても、俺達の象徴みたいなヤツだからな… だが、勘違いするなよ。俺も不動もそれ以上の感情は持ってないからな」
普通なら「照れ隠しのツンデレですね」と、云うところだが、不動さんが鎮痛な顔してうんうん頷いている上に、速水は真顔だった。
「考えただけでも恐ろしい… お前も時期に分かるさ」
分かりたくない気がするぞ。と云うより、すでに分かるような気がする自分がいる。
「それにあの三人のお嬢さんも、充分に赤屋の後継者感があるね。これで帰って来なかったら、君は死ぬより恐ろしい目に遇うと思うよ」
口調こそ優しいが、明らかに脅迫ですよ、コレ…
「つまり、いい死に方がしたかったら、必ず戻ってこいって事だ。分かったな」
速水はソファに横になったままだった為、どんな顔をしていたかは不明だった。それでも、想像出来る。
「先輩、男のツンデレは気持ち悪いっす」
返ってきたのは、返事ではなく空になった紙コップだった。やれやれ、と不動さんはソファに身を沈める。
「んじゃ、ちょっくら行ってきます。…… なるべく早く帰ってきますね」
俺は部屋を出る。その時に二つの笑いが聞こえたのだった。
玄関を出たところで、二つの人影が俺を呼び止めた。
「夜遊びは感心しないなぁ~、ね。圭♪ 」
「そうね、そんな事は不良のする事よ。オネーサン、そんな子に育てた覚えはないぞ」
速水に気付かれてた以上、この展開は予想していた。後は説得に応じてくれるかどうかだが…
「まあ、稽古をつけてもらいましたけど、人格形成まで、育てられたつもりはありませんよ」
「ん、フフ… 今から矯正しちゃおうかしら♪ 」
「それ、イイっ! 完全に私好みにしちゃおう」
…… この人達は、速水達の気持ちが良く分かる。
「さて、真人君。今から君が選ぶ選択肢は二つよ。私の毒牙に掛かるか、響子の毒牙に掛かるか、どっちにする? 」
「… どちらもお断りします」
「我が儘な後輩君ねぇ」
否、我が儘じゃないですよ…
「それじゃ、しょうがないわね。特別サービスでもう一つ選択肢を追加してあげる。あの娘達を連れて行く事」
そう云って、圭さんが指差した方向には、瑞穂達が立っていた。
「後輩君に一つアドバイスよ。誰かが隣りにいる事は決してマイナスにならないの。護らなきゃいけないと思うだけで、簡単に心は折れなくなるからね。
きっちりやりきって、私の胸に戻ってきなさい」
御影さんは胸を強調しながら云う。
今まで気付かなかったが、その胸はかなりご立派である。
「このビッチが、何どさくさ紛れで誘惑してんのよ」
「アンタじゃ、出来ないもんね。強調すれば、逆にないのが目立つし」
「なっ、形じゃ私の方が…って、何云わせんのよ」
形… いいんすね。思わず想像してしまう。思春期の妄想力を舐めんな。
「コホンっ! 」
「はっ! 」
「兎に角、これ以上の譲歩はないわよ。どうするの? 」
俺はとことんこの人を甘く見ていたようだ。
圭さんが自分を連れて行けと云うなら、一戦交えても断るつもりだった。
「アイツらに見せたくないものを見せるかも、しれませんよ」
「あの娘達なら、受け止めるでしょ」
「ったく、師匠には勝てませんね」
頭をボリボリ掻いて、俺は承諾した。
「だから、師匠なんだよ。必ず帰って来なさい」
「はい」
圭さん達に背を向けて、俺は歩き出す。そして、瑞穂達の横に行くと「行くぞ」と言う。
「格好つけても駄目ですわよ。私達を置いて行こうとした罪、必ず償ってもらいますわ」
「そうね、何処までも付き纏ってやるんだから… 」
里美とカスミは憮然としながら、俺の後をついてくる。そして、瑞穂は何も云わずに俺の横を歩いていた。
「瑞穂さん、マジ痛いんでツネるの止めてもらえます? 」
「五月蝿い、バカ者」
俺の腕に掛かる力が大きくなる。どうやら、一番怒っているのは、瑞穂の様だった。
「護りきる自信がなかった… コレが本音だ」
「私達は護られるだけの存在じゃないわ。みんな真人の力になりたいと思ってるの」
そうだ、当たり前の事だ。今まで散々、力を借りといて俺は何を思い違いしていたのだろう。こいつらにはこう云えば良かったんだ。
「力を貸してくれ、頼む」
その一言で空気が変わる。
その空気の中、そよぐ風は心地良いものだった。




