Skill of Magic 6
「んっ… 」
暗闇の向こうから、光が入ってくる。
「お、気付いたね」
耳元で馴染みはないが、聞いた事がある声が聞こえてくる。
「後輩君、ここは気持ちいいかね? 」
そう云うと俺の頭を優しく撫でる。その感覚が心地よくて、暫くそのままでいたかったのだが、そうも云ってられない。俺はゆっくりと目を開けた。
「すいません。治療してくれたんですね。御影さん」
俺の腕と足の怪我が治っている。
「いいさ、いいさ、私も貴重な経験させてもらったしね。お礼だよ。それより君、圭のお気に入りだけはあるね。かわいい寝顔だったよ」
「そりゃどうも… 」
男にかわいいは、必ずしも誉め言葉じゃないのだが… 悪意がないのが分かるだけに、それ以外云いようがない。
「えーと、コホン。で、真人君。いつまで、響子の膝の上にいる気なのかな」
「え~、私は別にいいよ。この子、気に入っちゃった」
「アンタはいいかも知れないけど、少し空気を読んだ方がいいわよ」
圭さんの言葉に周りを確認してみると、不機嫌そうな視線が三つあり、無言を貫いている。
「ちぇっ、仕方ないなぁ。んじゃ、後輩君もう起きる時間よ」
そう云って御影さんは、頭を下げると俺の頬にキスをした。
『あ… あ~』
圭さんも含め、女性全員の声がハモる。尤も、その中で一番動揺していたのは俺だった。
「な、な、な、なんばしよっとですかっ! 」
「何故、博多弁… 」
「あ、あ、アンタはぁ~、私の真人君に何してんのよっ! 」
圭さんがブチ切れる。
「お前のじゃねぇだろ… 」
冷静にツッコむ速水、そして頷く不動さん。ただこの二人、俺を助ける気は全くないようだった。
「真人…ちょっとツラかして」
「瑞穂、私も付き合うわ」
待て待て、俺は何もしてないだろ…
「お二人共、見苦しいですわよ」
そこに、冷静な口調で里美が云う。だが、その瞳は暗殺者のものだった。
「こそこそと陰で問い詰めるより、今ここではっきり弁明をさせるべきですわ。答え次第では、切り刻みます」
いやいや… そんな顔で貴方を殺して私も死ぬ的な事を云われても、怖いだけですよ。
「何、甘い事考えているのかな。死ぬのはアンタだけよ」
カスミの奴、精神感応を使ってやがる。
「んな事、どーでもいいでしょ。ぽっと出に私達以上の事をやられて黙ってらんないわ。ねぇ? 」
『………』
「はぁ? 」
ちゃ~… これは… 二人共そっぽを向いている。同意を求めたカスミが、思いっきり口をパクパクさせていた。
「ふ、ふ~ん… アンタらやる事はやってんだ」
「な、そんな事までしてないわよ。御影先輩と同じ事しかしてないわ」
「わ、私もです」
確かに諸外国じゃ、挨拶みたいなものだ。
「ねぇ、圭。この娘達、こんな事で何で揉めてんの? 」
はい、そこっ! 火に油を注がないように…
「へぇー、響子には分からないか… よしっ、じゃあ、こうしよう」
イタズラを思い付いた子供の顔を、圭さんはした。
「真人君、カスミちゃん。ちょっとこっち来て」
「何ですかっ! 」
不機嫌極まりない顔で、カスミは渋々と圭さんの近くに行く。俺もまた無視する事が出来ずに、近くまで行った。
「なぁに、抜け駆けした悪い友達と乙女心を忘れたくそビッチに、軽く仕返しよ。えいっ♪ 」
カスミの頭を掴み、無理矢理俺の頬にキスさせる圭さん。慌てて俺が離れようとすると、
「うふふ、逃がさないわよ。チュッ!」
空いているもう一つの頬に、自分の唇を当てた。
「はんぎょっ! 」
「ふっ、ふふふふふ… 切る、切る時、切ればいいじゃない… 」
その様子を見せられた瑞穂は意味不明な言葉を叫び、里美は間違った三段活用をしている。
そして御影さんは、額に血管を浮かしながら、薄ら笑いを浮かべていた。
「なるほど、確かにコレは軽くムカつくわね。圭、思い出させてくれて、ありがと… 」
「腐れビッチにも、少しは乙女心が残っていたようで、何よりだわ… 」
火花を散らす圭さんと御影さん。カスミは真っ赤になって、ヘタれている。
もう、嫌じゃ… この場を去りたい。
「神城君… カンバ! 」
不動さんのお茶目な一面が、俺に留めを刺したのだった。
「で、最後のアレは何? 云っちゃなんだけど、響子にあの魔物を倒す力はないはずよ」
散々騒いだ挙げ句、結論を出さぬまま勝手に折り合いを着けたらしい。そこに俺の意思の介入は許されず、流石の俺ももうどうでも良くなっていた。
そんな時に、圭さんから真面目な質問が来たのだった。
「あれは精霊能力〈増幅〉ですよ」
精霊が使う増幅は、契約者の術だけではない。同系の術であるなら、別の術者が使うものでも、増幅の対象になるのだ。
今だから正直に話すが、あの時の俺では魔物を倒し切れるかどうかは微妙なところだった。事実、共鳴風殺はある意味不発に終わっている。だからこそ、確実に魔物を倒せる力の検討をしたのだ。
当初、戦闘対象として考えていた、カスミ・圭さん・速水では倒せる保証は得られなかった。だが、ほぼ無傷で戦闘から外れていた御影さんの存在を思い出した。
俺と同じ風使いで、学年三位の実力者である彼女であれば、隠し球の一つや二つ持っていても不思議ではない。そう思い当たった俺は、里美に連絡を取り確認を試みた。その返事は、結果が出ている以上、語る必要はないだろう。だから、俺は増幅の説明をして、術を放つタイミングのみ指示を出していたと云う事が顛末だった。
「増幅か… 面白いわね」
圭さんが顎に手を充てて呟いた。
「ええ、使える能力です。ただ… 」
「今の私じゃ使えない」
「はい、そして使えるようになっても、先輩では使いこなせません」
増幅には、使用制限がある。俺とジンは会話にて、その上限を知る事が出来るが、圭さんにはそれが出来ない。いざと云う時に、使えないかも知れない力を使いこなせるとは云えない。
「精霊とのリンクが問題か… これは取り敢えず同調を上げる努力をするしかないわね。使いこなせなくても、使えれば武器になる事は間違いないし」
言葉の真意を理解し、圭さんは正しい選択をする。これが天才たる所以なのだ。
ただ、やはり増幅が使えないのは痛い。俺の力も少しは戻っているが、御社を止めるには足りない。
「みんな、ありがとな… 」
俺は一つの決断をした。この決断は誰にも云えない。だから、小さな声で礼を云った。
その礼は、誰の耳にも届かなかったがそれでよかった。
どんな結果になろうとも、もうすぐ一つの結論が出る。願わくばこの先も俺が俺でいられますように…
生まれて初めての神頼みをして、俺は時が満ちるのを待つのだった。
ラストスパートです。頑張りますので、最後までお付き合いください。




