Skill of Magic 5
足がもつれる。
せっかく瑞穂がくれた力だが、何とか踏ん張る程度の回復しかしていないようだった。
だが、精神力や魔力は不思議なもので、残っている残量に比例して回復量も増える。そこはゲームのMPとは違う。だからこそ、立てもしなかった先程より、その回復量は大幅に上がっているはずだ。
与えられたチャンスを活かさなきゃな…
俺が間抜けなばっかりに、瑞穂に大きな負担を掛けちまった。そして戦列に復帰できるはずだった、里美も… ここで結果を残せなければ、俺がこうしている意味がない。
考えろ、思考をする力は与えられたんだ。
まず、第一の魔物で使った戦法を取るのは危険過ぎる。ジンを呼ぶ事は出来るが、魔力がないと云う事は精神力も枯渇しつつあると思って間違いない。と、すれば〈風精霊譲渡〉を使えば、残った精神力を使いきってしまう。
同じ理由で第二の戦法も使えない。
つまりは、新しい方法を取らねばならないと云う事だ。
今ある駒で、最大の武器は増幅なのは間違いない。この武器を決め手に、そこに行くまでのプロセスを構築する。
戦闘可能な者は、俺・カスミ・圭さん・速水。そして、〈風精霊譲渡〉が使えない俺が安易に魔物に近付く事は出来ない。
圭さんを前衛に、俺と速水が中衛、カスミが後衛がベストなフォーメーションだ。ならば、やれる事は圭さんが牽制、カスミが足留め、速水が俺を連れての移動で良い。上手く流れれば、俺が最後の一撃で片付ける事が出来る。
だが、後一つ足りないような気がする。
残されたピースを見つけるまでは、動いては駄目だ。急ぐ必要があるからこそ、確実を求めないといけない。
この手の直感は、何かを見落としているからだ。その見落としを見つけられるかどうかで、その運命は大きく変わる。ここまでの思考で、見落とす可能性があるものは…
足を止めて考える。
「あったな、最後のピースが… 」
俺は、繋げてあった空伝絃を使い里美に連絡をする。
これで完全に揃った。準備を終えた俺は、最後の魔物に向かって歩を進めたのだった。
「爆炎指弾」
圭さんの術が魔物を貫く、あの術でも魔物にはダメージを与えるのが精一杯の様だ。炎が削った体がみるみる再生していく。
「速水さん、ガードをっ! 」
カスミの指示の元、速水が動く。
「重力封鎖」
圭さんの目の前に現れて、更に自分の目の前に術を発動させた。
あれは、対象を重力場に巻き込み動きを制限する術のはずだが、何故、何もないところで使うのだ。と、疑問に思ったのは一瞬だった。
魔物はその体毛を鋭い針として打ち出した。その針を速水の重力封鎖が、次々に打ち落とす。
「あんな小技持ってんのか」
魔物は相手の様子を見るのは分かっていたが、おそらく圭さんの力を知って、相手が弱まるまでは中間距離での戦闘を選んだのだろう。そして、その攻撃を単調に繰り返している。何も分からない時は、それなりに脅威になるが、ネタがばれてしまえば速水が行った様に対処は可能だ。
そして、カスミの指揮の元、三人のチームプレーは機能している。
「カスミっ! 後5分、三人で持ちこたえてくれ」
カスミは魔物から目をそらさず、俺の声にも応えなかったが、存在だけは把握した様だった。
俺はそれを確認すると、その場に座り呼吸を整える。たった5分だとしても、気力と集中力を高めるには充分だ。
瞳を閉じて深い深呼吸を繰り返すと、周りの雑音は消え去り、意識は闇へと落ちていく。そして、一度は深く沈んだ意識が戻ってくると、俺は目を開ける。
「圭さん、一番デカいのいっちゃって下さい」
「じゃ、もういいのね」
俺の言葉に圭さんは、溜まっていた鬱憤を吐き出す様に答えた。
「はい、キメます」
「りょーかい、速水5秒稼いで」
「3秒が限界だ」
圭さんが指示するより、早く速水は動いていた。魔物の上空へ飛び、重力が一番効果を発揮するポジションを取る。
「重力封鎖」
「来な、ヴォルグ」
長期戦を見据えて、一度は消していたヴォルグを呼び出すが、出現した精霊は人形をとっていない。野球ボール程度の火球が、圭さんの前を漂っていた。
「精霊の力そのものを味わってみなさい。獄炎咆哮」
その火球が、圭さんの一言で放たれる。そして、魔物に炸裂すると、火柱が上がった。
これが圭さんの隠し球か、確かにこれなら魔物も倒せるだろう。30秒程度の時間が稼げればの話だが…
獄炎咆哮は見たところ、呼び出した精霊そのものを炎に変換する術だ。従って変換に時間を要する。3秒程度では、魔物にダメージを与えるだけで、精一杯と云ったところだろう。
「カスミ、連続で頼む」
「凍てつけ〈絶対零度〉」
流石はカスミ、既に準備は終わっていたか。なら、次は、
「速水先輩、俺を魔物の脇まで運んでくれ」
「どいつも、人使いが荒いっ! 」
文句を云いながらも、速水は俺を魔物の横まで移動させて姿を消した。
魔物はカスミの絶対零度で凍りついている。しかし、そんなに時間は稼げないのは、キマイラの時で把握済みだ。
「ジン」
魔物を挟んで逆側にジンを召喚した。その直後、氷付けの魔物から体毛の針が弾け飛んだ。
「くっ! 」
俺に向かって飛んできた十数本の体毛を、俺は捌ききれず、左肩と右足に受ける。これで俺の行動力は半分以下になった。
「神城っ! 」
速水が声をあげ助けに入ろうとするが、圭さんがそれを阻止した。
「真人君があれくらいを捌けないのは、おかしいとおもわないの? カスミちゃんも全く動じてないでしょ」
よく分かってらっしゃる。その通りですよ。かなり痛いが、わざと受けました。その理由は…
氷の戒めを解いた魔物は、即座に俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。そして、これも計算通りだった。
警戒心を持った魔物は、そう簡単には近付いてこない。かと云って、氷づけの魔物に攻撃をしても、無理矢理戒めを解いて、交わしてしまう可能性が高かった。
確実に術を魔物に当てる方法は、魔物が留めをさしに自ら寄ってくる瞬間を狙うしかない。だから、最小限の攻撃をわざと食らったのだ。
魔物が飛び掛かり、ジンと俺の間に入ってところで、俺は術を発動させた。
「くたばれっ! 共鳴風殺」
瑞穂の話では、以前の俺では倒せなかった術だが、今はジンがいる。増幅された共鳴風殺なら、倒せる。
無数の刃が、魔物を切り裂き体を削る。これで終わりだ… そう思った俺だが、信じられないものが視界に写った。
真空の刃が削った体が再生されている。俺の共鳴風殺では、魔物には届かなかった。
甘かったか… 術が止まると同時に、魔物は俺の体を食いちぎる。負傷した俺の足では交わしきれない。
「ちっ、駄目か… 」
術が終わる。覚悟を決める時がきたようだ。
「… なんてな♪ 御影さんっ! 」
俺はキーマンの名前を叫ぶ。
「はい、風陣収束殺」
御影さんが放った風の塊が、ジンの体を通り抜け魔物の体を包み込む。
「塵に返りなさい」
御影さんが、大きく開いた手を閉じると、魔物の体が包み込んだ風と一緒に縮小して消えた。今までそこにいた魔物は、影も形もなくその存在ごと居なくなっていたのだ。
「今度こそ終わったな」
俺は溜め込んだ二酸化炭素を吐き出すと、地面に大の字になって目を閉じた。次の行動まで一時間くらいなら、休んでも大丈夫だよな…
そしてそのまま、意識を失ったのだった。




