Skill of Magic 4
あの時の力が出せれば倒せるはずだ。
精神世界で、キマイラを倒した時ジンは「精神世界の魔力を使えば、あれくらい造作もない」と云った。
そして、俺にはその力を使う事が出来る。全てはイメージ次第だ。
「風精霊譲渡」
3回目の風精霊譲渡。以前試した時は、7回が限界だっただけに、もう無駄使いは出来ない。全てがカツカツだ。それほど無駄な事をしていないにも関わらず、この状態になると云う事は、まだまだ俺の力は足りない。
じいちゃんなら、事が片付いた後でも平気な顔して、数戦ならこなせる。そもそも召喚術の増幅など使わなくても、あの魔物を倒すぐらいの事をやってのけるようなヤツなのだ。
じいちゃん程の力がない俺が、無駄なく倒す為に掛けられる保険は少ない。
「里美、アレ使ってみるわ」
「マスター出来ましたか? 」
「さて、どうだろ」
正直に云えば、三回に一回ぐらいの成功率だな。ただ決まれば、保険としては充分だ。
「これは是非、見届けなければなりませんね」
「真人は何するつもりなの? 」
「見ていれば分かる事ですけど、知っている方が面白いかもしれませんね。
あの方は、小太刀の剣技を長刀でやろうとしてますのよ」
あっさりとネタ張らししやがって…
「里美さんの〈陽炎〉… そんなの出来るの? 」
「普通なら無理ですわ。と云うより、成功してほしくないです。成功してしまったら、真人さんを天才と認めないといけません」
そんな訳あるか。実際使ってみると分かるが、陽炎はインパクトの瞬間に全ての力を、剣に移動させる必要がある。
俺が、里美から基本概念を教えてもらい。紛いなりにもある程度、形にした今でも力を溜めてからでないと使えない。
そんな技を6連撃するヤツが天才じゃなければ、何だと云うのだ。人を認める前に自分を認めろよ。
「じゃ、認めないと駄目ね。真人は間違いなく成功させるから」
「もう諦めてますわ。ですから… 」
ったく、変な期待をするんじゃない。失敗したら、格好つかないじゃないか。
「真人さん、格好良く決めて下さいね」
決まるかどうかは知らないが、充分な力は溜まった。この魔物達は、相手の力を確認するまで様子を見る傾向がある。それが今回は仇になったな。
さて、決めてやるよ。
溜めた力を内包したまま地を蹴る。〈風切り〉を創り出すイメージと、〈風精霊譲渡〉の操作、更には〈陽炎〉。我ながら無茶な事をしていると思う。だから、知恵熱が出るなら明日にしてくれると有り難い。
やる事はさっきのヤツを殺った時と、途中までは同じだ。強化した一撃を魔物の顔に叩き込み、左へ転回。これで魔物の目からは一瞬逃れられる。だが、ここからが違う。
「殲風」
技の流れを止めないように、名付けた名だ。その名を叫ぶ事で、俺はやるべき工程を確実にこなす。
がら空きになった魔物の腹部へ、風切りを突き刺す。タイミングを合わせて、精神世界から流れる力を剣へ送り、振り抜く際には全ての力をも剣に乗せた。
魔術、精霊術、技、魔法の四重奏だ。たっぷり味わえ!!
今、見ていた者は酷くあっさりと思う事だろう。魔物は胴体から綺麗に真っ二つに分かれていた。
そして、切り口から再生する様子はない。
「終わりだ」
具現化させた風切りを消し、俺は魔物に背を向けた。
「格好良く決まりましたね。真人さん」
里美の言葉に、俺は親指を立てて応える。
後一匹、そう思い一歩踏み出した瞬間に視界が歪んだ。
おいおい、嘘だろ… 両足に力が入らねぇ…
そのまま俺は、大地に転がった。
「真人っ! 」
瑞穂が叫ぶ。
大丈夫、意識はある。だが、この脱力感は間違いなく、力の使い過ぎだ。
風切りに魔力を送る事にこれほど、力を使うとは思わなかった。
「瑞穂さん。真人さんを、私はもう大丈夫です」
「う、うん」
促され瑞穂は、俺に走り寄ってきた。その後を里美が追うが足を引き摺っている。
「馬鹿、大丈夫じゃないだろ」
「真人、良かった… 」
瑞穂は俺に意識がある事が分かり、ほっとしている様だった。
「馬鹿は貴方です。今、真人さんが戦えなくなる方が問題でしょう」
「それを云われると、返す言葉がないな」
里美の云う通りだった。魔物を倒す火力を持つのは俺だけだ。否、圭さんも増幅が使えれば倒せると思うが、これまで使っていないところを見ると、精霊からのサインを受け取れていないのだろう。
精霊との意思疏通がないままに、精霊術を精霊に撃ち込んでも、その術を吸収するだけで終わる。
「八方塞がりですわね」
「くそっ、俺が魔法に頼らずジンの力を借りていれば、こんな事にはならなかったのに… 」
力を残す事だけ考えて、普段使わない力を使うリスクを全く考慮していなかった。
人にない能力がある事に、俺は天狗になっていたのかもしれない。しかし、その罰がこれとは… どうする事も出来ない無力感が、俺の思考を奪っている。
「んっ、つまり、今の真人の状態は魔力の使い過ぎって事よね? それ以外、何の問題もない」
「そのようですわね」
「だったら、何とかなるかもしれないわ」
『なっ! 』
里美と被りながら、驚嘆の声を上げる。
「どう云う事だ? 」
瑞穂の回復術は外傷にしか効果がない。魔力の回復など出来ないはずだ。
「私だって、今日まで遊んでいた訳じゃないのよ」
そう云って、スカートのポケットから新しい指環を取り出した。
「それは何ですの? 」
「私が、カスミに魔術を習ってたのは知っているでしょ。やっとの思いで使えるようになったのが、この魔術なのよ。
〈精神回帰〉、精神を病んだ人に使われる回復魔術なんだけどね。健全な精神エネルギーを送って回復を促すのよ」
精神エネルギーは、魔力の源だ。確かにそれなら、回復できるかもしれない。
「ただ問題があってね。回復したとしても微量だし、使ったら、もう私は何の力にもなれなくなる」
精神力のエントロピーか、瑞穂の精神力を俺の魔力に変換するには、相当な差異が生まれる。
それでも、俺は瑞穂に頼むしかなかった。
「分かってるわ。里美さんごめんね。足の治療しばらく出来なくなる」
「構いませんわ」
「二人共、すまん」
「謝るぐらいなら、必ず倒すと云いなさい」
瑞穂の言葉に、俺は一瞬閉口したが「必ず」と伝えた。
「精神回帰」
瑞穂の手から暖かい何かが、俺を満たしていく。魔力の回復量は分からない。それでも心は充分に満たされた。
「真人さん。行くのですね」
「ああ、瑞穂頼むな」
力を使い過ぎた瑞穂は、里美の膝の上で意識を失っていた。本来、ここまで疲労するまで術は使わない。瑞穂は自分の限界以上、俺に力をくれたのだ。
「サクッと終わらしてくるよ」
「待ってますね」
里美に送り出されて、俺は圭さん達の元へ向かったのだった。




