Skill of Magic 3
「獄炎連撃」
圭さんの炎鞭がうねり、生き物の様な動きで何度も魔物に迫る。
その術は以前、赤屋が使っていたが、そのパワーとスピードは段違いだった。それでも、魔物には数発しか当たらず、大したダメージを与えられていない。
「ちっ、何なのコイツ… 」
圭さんの表情が曇る。あれだけの才能の持ち主だからこそ、思い通りにならない苦しみを初めて感じているのだろう。だが、あの人ならまだ保ちそうだ。
心配なのはカスミ達だが、今この場を離れる事は出来ない。だからこそ、心配ならさっさと目の前のコイツを倒すしかない。
「ジン。増幅は、後何回ぐらいいけそうだ? 」
「術にもよるが… 現段階でリミットは4回だな」
精霊は召喚されている間、どんどん力を消費していく。そして、こちらにいる限り力が回復する事はない。だから、ジンは現段階でと前置きしているのだ。
しかし、こうなると星野とやりあった時に、召喚したのは痛い。あの召喚は、決着までの時間短縮を狙ったもので絶対必要だったものじゃない。後悔先立たずとはよく云ったものだ。
「とりあえず、あいつに一回使用する。その後は、お前に一旦退いてもらうぜ」
「それは良いのだが、戻ったところで力の回復は見込めないぞ」
「使える回数を減らされる方が困る」
俺の魔物は、先程の攻撃で流石に警戒心を高めているので、あちらからは攻撃を仕掛けてはこない。こちらとしては、カウンターが狙える分仕掛けてきてほしいのだが、それは望めない。ならば、
「風精霊譲渡」
こちらから仕掛けるしかない。
ジンをその場に待機させ俺は跳ぶ。風精霊譲渡で肉体強化したところで、魔物にダメージを与える事は出来ないが、考えた戦法を完遂させる為に、魔物の視界から外れる必要があった。
だから、俺は魔物の顔面に一撃を入れ、左へ転回する。そして、
「風縛鎖」
風縛網の強化版であるこの術は、魔物と云えど数秒の動きを止める。その隙を狙い足元に滑り込み、魔物の真下で〈風激陣〉を仕掛けながら、腹部に掌底を放ち、離脱する。
「ジン、足元へ潜り込めっ! 」
俺の指示を受け、ジンは魔物の腹部に牙を突き立てた。その瞬間に俺は風激陣を解き放った。
「Gugayaauu… 」
魔物の絶叫が響く、ジンによって増幅された風激陣は、動きを封じていた風縛鎖を引きちぎり、魔物を天高く舞わせる。
しかし本来、罠系の術をこんな使い方する日が来るとは思わなかったぞ…
ジンの増幅を使えば、多分倒せるであろう術のストックはあったが、当たればの話だった。
当たらなければ術の無駄使いになり、制限が掛かっているこの状況で、発動までに時間が掛かる大技は使えない。かなり危険を伴う苦肉の策であったが、どうやら無事に成功したらしい。
風の礫は魔物の体を削り、削りとった部分の再生を許さなかった。つまり、精神世界の本体に届いていると云う事だ。そして、術が止まると残った体は、霞みに還っていく。
「ふぅ、何とか片付けたな。ジン」
「うむ」
「すまん、またすぐに呼ぶと思う」
一先ず帰還しようとしているジンに詫びる。
「まったく、精霊使いの荒い主ぞ。だが頼られる以上、いつでも馳せ参じる。まさに忠犬じゃな」
「ふっ、飼い主冥利につきるよ」
ジンは消える直前に鼻をフンと鳴らした。
アイツどんどん犬化してるな… そんな事を考えて頬が少し弛んだのだった。
「真人っ! 凄い♪ 」
ジンが消えた直後に走り寄ってきた瑞穂が、後ろから抱き付いてくる。
「な、なんだ、一体? 」
「あの時、勝てなかった相手に勝ったんだよ。凄い、凄いよ」
「落ち着け… 」
嬉しそうな瑞穂を引き離し俺は云う。
「いいか、コイツらはカスミ達じゃ倒せない。だから、俺が行かないといけない。全部倒した後、改めて喜んでくれ」
「分かった、今はこれで納得する」
そう言って、顔を近付ける。瑞穂の唇が俺の頬に触れていたのは、一秒もなかった。
「三年前の劣化したお礼だから、こんなものね。だから、早く全部やっちゃって、ちゃんとしたお礼をさせてよ」
「ったく、どいつもこいつも… 瑞穂、翔ぶぞ」
右手を差し出すと、瑞穂はその手をギュッと握り返した。
「飛翔」
第一の魔物の前に立っていたのは、里美と速水だった。不動は傷つき、御影が治療をしている。
すでにカスミの顔に余裕はなく、里美も足に負傷しているようだ。
「瑞穂、このまま突っ込むぞ、直後に里美の治療を頼む」
「うぷっ、気持ち悪い… 」
そう云えば、コイツ〈飛翔〉苦手だったな。だったら手を取るなよ…
「頼むぞ、今猶予はないんだから… 」
「頑張るわ… 」
魔物の前足が里美を襲う、それを最小限の動きで避けるが、余裕あってそうしている訳ではない。あの速度の攻撃なら、もっと大きく距離を取って次撃に備えるのが正しい。それが出来ないのは、里美に余裕がないからだろう。
案の定、避けた先で里美はバランスを崩した。
「ちっ」
速水は瞬間移動を使い、里美のサポートをするが、移動先を魔物に読まれていた。
「くっ! 」
出現ポイントに繰り出される魔物の足、速水は里美を庇うように魔物に背を見せる。だが、
「させるかよっ!」
飛翔を纏ったままの俺の蹴りが、魔物の横腹に炸裂する。何度も云う様だが、この攻撃にダメージはない。しかし、具現化している体には衝撃はある。つまり、俺と瑞穂の体重プラス飛翔の速度が乗った蹴りは、魔物を派手に吹き飛ばした。
「この登場の仕方、二度目だな里美。速水さんも見直しました」
「真人さん」
「神城… 」
里美の表情が『ぱぁ』っと明るくなり、速水の顔から緊張の色が抜ける。
「真人っ! 」
直後にカスミが近付いてきた。
「ごめん、どうやっても倒せなかった」
「分かってる。気にするな」
魔物の強さは、速度でも力でもない。こちらの攻撃が通じない事にある。傷ついた者はいるが、犠牲が出ていないのは、カスミの指示が適切であったと云う事だ。
カスミの頭に手を当てて俺は云う。
「ありがとう、後は俺がやる。だから、速水さんと圭さんのフォローに回ってくれ」
「えっ? 」
「いいか、コイツらを倒そうとするな。時間を稼ぐ事を主軸に指示を出すんだ。お前なら出来るだろ? 」
俺の指示にカスミは頷くと、速水を連れて圭さんの元へ走っていった。
「里美も治療が終わったら、瑞穂と一緒に頼むな」
「心得ておりますわ」
足に裂傷を受けているが骨に以上はないらしく、里美は頷く。
「そちらはどうですか? 」
「私は大丈夫だけど、不動は無理」
致命傷ではないのだが、骨を数本もっていかれたらしい。
「分かりました。では、御影さんはそのまま不動さんの保護をお願いします」
御影さんがついていれば、いざと云う時に上空へ回避出来る。これで二人については何の心配も要らなくなった。
俺の言葉に、御影さんは親指を立てて了解の意を伝えた。
「後は俺の仕事だな」
魔物を見据え俺は呟く。この先の事を考えると、まだジンに頼る事は出来ない。だから、ジンに頼らずあの魔物を倒す方法を考えた結果、可能性は一つだった。
「頼むぜ、亮… 」
俺は左手で腕輪を擦り、力を込める。
「風切り」
集めた風が剣になる。これが俺の切り札だった。
何とか50話まで漕ぎ着けました(プロローグ除くと49話ですが… )。感無量です。読んでくれている方に感謝です。




