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Skill of Magic 2

 羽化を始めた召喚球(サモンオーブ)だが、同時に活動を開始する訳じゃない。同じ日に産み落とされた卵が、同時に羽化する事がないのと同じ事だ。それを念頭において、いち早く活動を開始したものから、カスミが率いる殲滅隊が対応するように決めていた。

 そして、その時が来た。

 3つの内の一つが弾けると、中から生き物の様なものが蠢いている。その刹那、鋭い視線の影が一直線に魔物に向かって走った。


「ほう、これは…」


 里美のスピードに感嘆の声を漏らす不動。その速度は、今まで俺でも見た事がない程、鋭く速かった。


「まずは、確認致します。〈陽炎・乱舞〉」


 突っ込むかと思われた里美は、魔物の手前で急停止し、そのまま魔物を六回切り刻む。その苛烈な攻撃は、里美の姿が三体あったかの様に錯覚させる。だが大技を出した分、当然隙が生まれる。これで攻撃が効かない場合、里美は魔物のいい的になる。


「当然、効かないわよね」


 横で見ていたカスミは、冷淡とも思える口調で云った後叫んだ。


「不動さんっ! 」

「了解だ」


 右手を突き出し、何もない空間を握り潰す。すると里美に向かって、攻撃を仕掛けようとしていた魔物は動きを止めた。


 これが〈念動力(テレキネシス)〉か、俺の中では物を自在に動かす力と云う考えが、先行していた為、動きを封じる為に使うと云う考えはなかった。その点、カスミは違い適切な能力の使い方を指示している。


「速水先輩、御影先輩っ! 」


 初手に関しては、完璧な流れが組まれていた。里美の単独攻撃は意味なくされたものではなく、魔物に物理攻撃が効かないのかを確かめる為に行ったものであった。つまり、効かなかった場合をしっかり想定している。


重力封鎖グラビティバインド


 速水は瞬間移動(テレポート)で魔物の真上まで飛ぶと、不動の呪縛を引き継ぎ、地面に抑えつけた。


風刃付与(ウィルズエッジ)


 同時に御影は、里美の小太刀に風を付与した。付与された風は精霊術なのだから、これで魔物にもダメージを与えられる。


「不動さん、お願い致します」

「いつでもOKだ」

「では、行きます。〈陽炎〉」


 里美の陽炎に合わせて、不動が念動力(テレキネシス)を発動させる。異なる能力を一つの力として放つ事は基本出来ない。だが、里美の陽炎は技なのだから、不動の能力の支援を受ける事が出来る。


 綺麗に決まった、里美と不動のコンビネーションの一撃は、魔物の腹を切り裂いた。


「ぎゃうっ」


 悲鳴にも似た声をあげる魔物。それは間違いなくダメージを受けている証拠だった。ただ切り裂いたはずの一撃でも、魔物に外傷は見当たらない。つまり、どの程度ダメージを受けているのか、視認する事は無理だった。


「やるわね彼女達… 」


 そう云いながらも、圭さんの顔から緊張が抜ける事はない。あれだけの手練れが、協力しているのにも関わらず、瞬殺出来ない。その上、どの程度ダメージを受けているか、分からずにいるのだから、それも仕方がない事なのだろう。

 一方、俺と云えば違う意味で歯痒さを感じていた。俺や圭さんが、あの戦闘に参加していれば、もっと効果的な攻撃が出来たはずだ。下手をすれば、倒せていたかもしれない。だがそれは、結果論に過ぎない事も理解している。

 もし、俺達が戦闘に参加している間に活動を開始してしまったら、全てが無に帰る。それだけは避けないといけない。

 これで俺達の戦いが開始していれば、こんな葛藤をしなくても良かったのだが… おちょくられてるのかもしれない。俺はまだ羽化しない二つの召喚球(サモンオーブ)を見て、そう感じていた。


「くそっ! 」


 思いが言葉になる。


「落ち着いて、今の私達が出来る事は信じて見ている事でしょ。そして、私達の番が来たら全力でやるだけ… そうでしょ真人? 」


 ずっと黙ってカスミ達を見守っていた瑞穂が、俺を叱咤する。


「ひょっとして、顔に出てたか? 」

「めっちゃ、ブサイクだったわよ」

「そっか、初めて云われたな」

「ウソつき」


 嘘つきはお前だろ、俺の顔なんか見てなかったくせに… まあ、分かってて聞く俺も俺だか…


「そ、信じて待つのみだったのよね。でも… 」


 圭さんの緊張がピークになる。予感と云うものなのか、その瞬間に召喚球(サモンオーブ)が弾ける。しかも、二つ同時に…

 これはやってくれるな。もし、偶然と云うなら出来すぎだ。


「真人君っ! 」

「行きます」


 俺と圭さんが同時に地を蹴った。


 ちっ、完全に読まれてた。カスミ達の戦いを見ていて、別々に羽化するようであれば、一撃だけぶちこんでやるつもりだった。それが出来れば戦況は楽になる。しかし、相手はそんな安直な考えを分かっていたようだ。


「来な、ヴォルグ」

「ジン」


 精霊を呼び出して、互いの相手の前に立つ。


「こりゃあ、人の事気にしてる場合じゃねえな」


 魔物を前にして、二の足を踏んでしまう自分に気付く。記憶こそないものの、体が覚えているそんな感じがする。

 ただ、それ以外は二の足を踏む理由が分からない。体の記憶さえ克服すれば、何とかなりそうだ。


「ジン。確認だが、アレは俺より強いんだよな?」

「主の問う意味が分からないのだが? 」

「なんだろな。もっと絶望感とか、恐怖とかもっと感じるかと思ってたんだが… 」


 魔物の強さは理解している。あのキマイラより、おそらくは厄介だろう。だが、思ったものと違う…


「そう云う事なら、主が望む答えが返せるな。

 なに、理由は簡単だ。肉体的な強さで云えば、魔物より強い人間はいない。しかし、主は対抗出来るだけの武器を持っている。そう云えば分かるだろう」


 今は持っている力か、俺はいつも得意気にものを話す、ゴールデンレトリバーを横目でチラリと見る。鼻をスンスン鳴らし、話し方だけでなく態度まで何故か得意気に見えた。


「そうだったな。けど、俺が手に入れたのは武器じゃなく仲間だろ」

「ふむ、そのニュアンスは悪くない」


 尻尾がパタパタと動いている。どうやら、気分は悪くない程度ではなく相当いいようだ。

 思わずほっこりとしていると、膨れ上がった殺気が俺をロックした。

 狙われた以上、二の足を踏んでる場合じゃない。相手はこちらが動かなければ、見逃してくれるような存在ではないのだ。


「ジン」


 俺の指示より早くジンは動く。犬の外見をしているが、それは俺がイメージした仮の姿で、中身は風の精霊だ。スピードで、ジンに勝てる存在などそうはいない。

 魔物もジンの強襲を避けられず、首筋に牙を突き立てられもがいている。


「召喚精霊の本当の力見せてやるよ。風の槍(ウインドランス)


 風を錐のように集め敵を貫く術だ。俺はこの術を、魔物に食らい付いているジンにぶつける。

 先に云っておくが、仲間割れなどではない。風の精霊(シルフ)であるジンに風の攻撃が効かないのは、誰だって知っている。しかし無駄な事をしていない。その答えが増幅ブーストだ。


「ジンっ! 」


 俺の合図と共に、ジンは戒めを解き一鳴きする。すると、ジンの腹部から放たれた、十数本の風の槍(ウインドランス)が魔物を貫いた。


「やったか? 」


 魔物との距離を取り、俺の元へ戻ってきたジンへ問う。


「否、主よ。あれを倒すのは、想像以上に骨が折れる作業になるぞ」


 視線を魔物に合わせてジンは言う。


「どう云う事だ? 」

「攻撃が通り辛いのだ。並の攻撃じゃ、精神世界(アストラルサイド)の本体に決定的な一撃は与えられない」


 なるほど、あれだけの風の槍(ウインドランス)に貫かれたにも関わらず、魔物はその四肢で大地に立っている。


「我らは良いとしても、あちらは… 」


 視線は魔物に向けたまま、ジンはカスミ達の心配をしていた。


「ああ、早くコイツを片付ける必要があるな… 」


 俺は、額に流れる汗を拭う事を忘れて呟いたのだった。




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