学年一位 8
「勘弁してつかんさいって、云ったら許して貰えますか? 」
「ウフっ、ダメ♪」
そうですか…
「今、怪我するのは色々な意味で危険なのですが… 」
「そんなの理由にならないわよ。嫌ね、怪我しなければいいだけの話でしょ」
ぴっ、と指を一本立てて、空中に創り出した火球を弄ぶ。
あれがさっきの攻撃と同じものなのだろう。ただ、瞬間的に創り出したものと違い、今度はしっかりと創り込んでいる。威力の程は想像するまでもないだろう。
そして、あのスピードがあるのなら、飛翔で逃げたとしても、打ち落とされる。速水がした忠告は、大袈裟でもなんでもなかったと云う事だ。
「怪我すると困るのは、星野の件があるからよね」
「まあ確かに、それもありますけど… 」
カスミに怒られるのが怖いなど、口が裂けても云えん。
「ふ~ん、まあいいわ。とりあえず今は、星野の件で困ってるとしておきましょう」
「そうして頂けると幸いです」
そう云っても、構わず試そうとするんだろうけど…
「さて、ここで問題。私と星野どちらが強いでしょうか? 」
この人の考えが分からん。いきなり攻撃を仕掛けてみたり、力を確かめると云いながら、方向が違う質問をしたり、そもそも赤屋の姉にしては外見が出来過ぎだ。
「答える気になれないかな? 」
一寸、目を離した隙に、少しでも動けば、お互いの顔が接触するぐらい近いところまで寄ってくる。
まあ、ここで「ああ、足がもつれた~」なんて悪戯をした場合、その指で弄んでいる火球が、直撃するなんて不幸が待っている事、請け合いだ。
「いいえ、正直に答えますが、星野の方が強いと思います」
「それは、戦えば星野が勝つから強いって意味かな? 」
なるほど、この人はオツムの回転も弟と違う。この人が異端なのか、赤屋が異端なのかは知る事は出来ないが、流石は学年1位になるような人だ。
「その通りです。単純な攻撃力なら、貴女はおろか、赤屋だって星野より上ですよ」
「うん、いい答えだわ。ねぇ真人君、貴方が私の弟にならない? あの筋肉ゴリラより可愛がってあげられそう」
ニコニコと非道な事を云う。赤屋って、どんだけ不幸な星の元に生まれているんだ。
「でも、残念だけど答えはハズレよ。私と星野が100回戦ったら、私は100勝するから」
それは大風呂敷を広げ過ぎですよ。
「信用出来ない? 」
自分の創り出した火球を握り潰し、赤屋先輩の目の色が変わる。
「真人君、なんで私がこんな話をしたか分かる? 実はね、この話が私の本当に知りたい事に繋がるからなのよ」
なっ! これは… 赤屋先輩の体が炎に包まれる。こんな力は、ランクBの精霊でも有り得ない。と云う事は、
「ランクA…」
「来な、火精霊ヴォルグ」
赤屋先輩の背中を衛るように、2M程度の人型の炎が燃え盛る。
「精霊召喚… 」
この人の実力を舐めきっていた。10代でSクラスと云われる召喚術を、使えた者など聞いた事がない。
「二年にも、予知を使える能力者はいるわ。けどね、ヴォルグの攻撃を予知出来ないのよ。だから、私は負けないって訳」
腕を一回降り下ろすと、ヴォルグは姿を消す。
いるんだな天才って… 100勝するなど、大風呂敷だと思ったが、あの高速の攻撃術に、召喚術を使えば星野が勝つ事は出来ないだろう。
「これを見せたのは、君が同じランクAの精霊を持つ者だと思ったからよ。どう、私の見立ては間違ってる? 」
「いえ、その通りです。でも、僕には貴女のように召喚術は使えません。否、それどころかAランクの術ですら、使いこなせてるものは皆無です」
「でしょうね。でも、このままじゃ星野には勝てないわよ。それは分かってる? 」
俺が勝てる可能性があるとすれば、Aランクの術を複数習得する必要がある。だが、三ヶ月で使えるようになるかは、分の悪い賭けであった。だからこそ、何か別の方法はないのか、情報を集めたかった訳だ。
「そうですね。今のままなら、奇跡を期待する資格もないです」
かと云って、諦めらめるつもりなど毛頭ない。例え星野に勝てなくても、それは変わらない。
「何があっても抗うって感じの目ね。うん、オネーサンそう云う子好きよ。だから、真人君はしばらく私の元でトレーニングしてみない? 」
「はい? 」
「だから、弟子入りしなさいって云ってるのよ」
… えっ、と。
「元々、愚弟に頼まれてたのよ。真人君が理事長に目をつけられているから、助けてやってくれってね。それに、速水も君の事面白いって云ってたし」
あの馬鹿、何を勝手に頼んでやがる。
「だからって、俺に教えても貴女に特になる事なんかありませんよ」
それどころか、敵になる可能性だってあるのだ。
「小さいなぁ、男ならもっとデンと構えなさい。損得勘定は私がする事だし、もし敵になるなら、いつでも来なさい。望み通り叩き潰してあげるから」
このオネーサン、マジぱねぇ… どんだけ自分に自信があれば、こんな風に振る舞えるんだ。
「それに、幾ら弟… って、云うか、アイツの頼みじゃなおさら、叶えてあげたくなくなるのに、それでも受けてあげるのは、私が真人君を気に入ったからよ。これでも断るなら、無理強いはしないけど、どうする? 」
こんなチャンスは二度とない。赤屋先輩は、賭け値なしに天才だ。得られる経験はこの上ないはずだ。
「よろしくお願いします」
俺は深々と頭を下げた。だが一方で何かが、胸につかえている。何なのだこの気持ちは…
「りょーかい、オネーサンに任せなさい。じゃ早速、明日から毎日15時にここに来なさいね。雨天決行だから、宜しく」
「は、はい」
「それと朝6時には起きて7時までには、自分の精神力を空にしなさい」
は? そんな事したら、その一日は地獄になる。
「いい、もしここに来た時に余裕があった場合、オネーサンがもっとキツいお仕置きをするからね」
「朝、空にしても15時までには若干の回復がありますよ」
「そうよ、だからここまで飛んでくればいいでしょ。ベストは二年校舎の前で力尽きるぐらいがいいわ。
だから、昼寝とかも禁止よ♪」
さっき感じた胸のつかえの理由が分かった。
この人を師事すると云う事は、全ての指示に従わないと行けない。
「鬼… ですね」
「甘えてる時間もないのよ。元々甘えさせるつもりもないけど」
だぁ~、判断ミスしたかもしれない。ただ、この人の指示をこなせば、確実に強くなれる。そんな確信をもったのだった。




