学年一位 7
「どうでしたか? 真人さん」
一年校舎の入口で、里美は待っていた。
このタイミングでこう聞いてくると云う事は、星野の件だろう。
「ありゃあ強いな。一年の中じゃ、頭三つは抜けているわ。否、速水から考えば、二年でもトップかもしれない」
「先輩をつけろ。馬鹿が」
「えっ? 」
里美の後ろから、速水… 先輩が顔を出す。
「しばらく前からお見えになられてましたわ」
里美は一歩横にずれて、速水を招く。
「久しぶりだな、神城」
「ども」
警戒をしながらも、軽く会釈をする。コイツが何の脈絡もなく襲ってくるとは思えないが、相変わらす不機嫌そうな顔をしている為、気を緩める事も出来ない。
「俺に何か用事でも? 」
「当たり前だ。用事がなければ、お前なんかに会いたくない」
さいですか… んじゃ、用事すませてはよ帰れ。
「神城、今からちょっと付き合え」
「なんだ、そんな事か… って、はぁ? 」
何だ、この場で済む話じゃないのかよ。
「お前に用があるのは、俺じゃない」
「すっかりメッセンジャーが板についてますね」
俺の不要な一言で、速水の不機嫌度はMAXになったようだ。
「負け犬が吠えるなよ。それより、お前は星野が二年でもトップと云っていたな。着いてくれば、それが真実か分かるぞ」
ったく、コイツは初めて会った時より、どんどん根暗になってるな。これが地なら、相当無理してたんだな。
「分かりました。何処へなりお付き合いしますよ」
「そうか、じゃあ着いて来い」
速水に着いて歩き出すが、10歩も歩かない内に速水は足を止める。そして、振り向くと額に血管を浮き立たせていた。
「ぞろぞろ着いてくるんじゃない。呼ばれているのは神城だけだ」
「二年の領域に真人さんだけ、行かすとお思いですか」
「そうね。しかも先輩は真人の身の安全を保証していませんよね」
里美とカスミがそう反論すると、瑞穂は口をパクパクさせている。
… 多分、何も思い付かなかったんだな。たまにこう云う事をしでかすヤツだか、今回は大人しくしとけよ。
「神城… 」
速水も何も云えなくなったようだ。俺の顔から目を離さない。
「ああ、分かりましたよ。今回は、俺だけで行ってくるんで、ちぃとばかし待っててくれ」
俺の言葉に里美は頷き、瑞穂は心配そうな表情をしている。そして、一番やっかいなのはカスミだった。
「アンタ、今の状況分かってんの? ちょっとした怪我でも、命取りになり兼ねないのよ」
かなりキツい表情で言う。だが、分かってないのはカスミだ。星野に勝つ為に、今は1つでも情報を集めるべきなのだ。そして、安全が確保されているところでは、必要な情報はほぼ入ってこない。
その点今回は速水が星野より強いと、考えている奴が呼んでいると云う。圧倒的戦闘力で殲滅するような奴なら、情報らしい情報は手に入らないかもしれないが、そうでないのなら何か手に入る可能性が高い。
「大丈夫だよ。怪我しそうな展開なら逃げるし」
まあ、逃げられるならになるがな。
「かすり傷1つでも負ってきたら、私がその三倍傷つけてやるからね」
「本末転倒だろ、それ」
「うっさい、死ぬほど注意しろって云ってんのよ」
何とか説得に応じた… のか? 瑞穂達は校舎へ戻って行く。
「さて、先輩これでいいですか? 」
「あ、ああ、大変だなお前… 」
速水に同情されてしまった。
「でも、意外に楽しいんですよ。これが… で、俺を呼んでいる人は誰なんですか? 」
俺が行く事を了承し、反対する人間がいなくなった以上、隠しておく必要もないだろう。
「二年1位紅の焔赤屋 圭だ」
「二年1位の赤屋… って、まさかあの赤屋の」
「ああ、一年に弟がいる。出来が悪いとよく嘆いているな」
やっぱり、そうか… まさか、弟をヘチ倒した仕返しとかないよな。速水も、出来が悪いと嘆いているとか云ってたし… 否、ちょっと待て、それは出来が悪い弟を溺愛している奴の台詞じゃないか… なんかヤバそうなかほりがしてきたぞ。
相手はあの赤屋の兄だとしても、二年の1位だ。今の俺なら、半殺し以上の被害を被る可能性がある。早速と負傷臭が…
「あの先輩、やっぱり俺、帰ります」
「今更、何を言ってる。連れていかなかったら、俺が殺される」
ひくっ、血の気が引いていく…ヤバイ、これは絶体にヤバイ。
「じゃ先輩、俺はこれでエアレイ…ぐっ!! 」
「逃がさねーよ」
首根っこを掴まれて、そのまま俺は拉致られる。
「後生ですから~」
俺の悲鳴は宙を舞い、そのまま消えていった。
その後、速水は俺の首根っこを掴んだまま、瞬間移動を繰り返す。瞬間移動がどういったものなのか、貴重な経験をさせてもらったが、お陰で逃走するチャンスなどなく、俺は今、二年校舎の屋上に通じるドアの前にいる。
「その先に圭がいる。俺はここにいるから、さっさと行け」
「先輩、せめて一緒に… 」
「だから、呼ばれているのはお前だけだと云っただろ」
ふむ、こうなれば、ドアを開けた瞬間に飛んで逃げるしか…
「あ、そうだ。一応注意しておくが、速攻で逃げた場合、ほぼ確実に打ち落とされるからな」
さいですか… ええい、こうなりゃ男は度胸だ。必要以上の力を込めて、俺はノブに手を掛けた。
「ようこそ神城真人君」
その声に、頭の中が真っ白になる。何せ、あの赤屋の兄貴なのだから、ゴツい筋肉バカが、でぇーんと仁王立ちしている姿を想像していた。しかしその人は、優雅にフェンス脇のブロックに腰を下ろしている。
嘘だろ… 赤屋弟とは、似てもにつかない。
「何を呆然としているのだ、君は」
そう云って、髪を払う姿も様になっている。否、もういいだろう。この人の事を説明するのは一言で済む『美人』だ。
赤茶色の長い髪を編み上げ、右肩から前に流している。そして、涼しげな切れ長の瞳から、鼻や口の至るパーツに掛けてのバランスが、完璧な美を演出している。
あの赤屋の姉が、学年1位と云うだけで驚きなのに、合わせてこの美しさ… とてもじゃないが、すぐに受け入れる事が出来ない。
「もしもし、聞こえているかい?」
「あ、はい。すいません」
「ふむ、まだ心ここにあらずと云った感じたね。何をそんなに戸惑っているのかな」
何と言われても、こんな状況で戸惑わない方がおかしい。
「いや、貴女は本当にあの赤屋の… 」
「ああ姉だよ。まあ、あの愚弟と似ていると云われた事はないけどね」
ですよね。もしそう云う奴がいたら、眼科か精神科に行く事を勧めるべきだ。
「それに君の事は知っていたが、詳しい話を聞いたのは弟からでね。兎に角、気に入らない奴だと云っていたよ」
お互い様じゃ、ボケ。
「それで今日、呼び出された理由はやっぱり、弟さん絡みですか? 」
「何それ?」
「へっ? ですから、俺が赤屋をボコったから… 」
そう云った瞬間に赤屋先輩は、ケラケラ笑い出した。この人、笑っていても絵になる。
「何アイツ、真人君にボコられたんだ。笑える♪」
「いいんですか、そんなんで… 」
「良いも悪いも、私には関係ないからね。私が貴方を呼んだのは、あの神城信司の孫である貴方に興味があったからよ」
じいちゃん絡みかよ… 確かに、あのジジイは精霊使いの中では、知らぬ者がいない有名人だ。だが、その名前が出てくる時は、いつもろくでもない事が起きる。
「後継者と目される存在の素質を確かめて見たかったのよ〈爆炎指弾〉」
赤屋先輩が何気無く指を弾くと、何かが高速で俺の頬をかすめていく。そして、バゴっと大きな音が鳴り、入口のドアが湾曲した。
嘘ですよね。かすめていった頬と髪が焼けている。そして、そのスピードは俺の風弾を凌駕していた。あの威力を落とし、スピードを追求した術を上回る速度と、ドアを湾曲させた威力… 何だこれ。
「見せてくれるわよね、真人君」
赤屋先輩は腰を上げながら、微笑んだのだった。




