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学年一位 6

 人の不幸は蜜の味… その言葉の真実と嘘を、俺は今思い知っている。時刻は10時を過ぎた、一年校舎の屋上で…


「俺に拘ってる暇あるのか? 」

「ふんっ、姉さんの為ならそんな暇幾らでも作ってやる」


 この男、赤屋甲二が瑞穂にご執心なのは知っている。だからと云って、瑞穂をネタに俺に関わるのは酷く迷惑な話だ。


「これ以上、あの人がお前に関わる方が、無駄な事だと思わないか? 神城真人」


 星野の事を除いても、その言葉を否定出来ない。昨日までの俺ならば…


「それは、俺やお前が決める事じゃねぇだろ」

「少しだけ変わったな、お前。だから、希望を持たせちまう。知ってるか、希望は長く持つ程、大きくなるんだぜ」


 やかましい、お前から正論を聞くと虫酸が走る。


「だから、ここでその希望を俺が断ってやる」

「役者不足だよ。お前には」

「やかましい、それにそんな日本語はねぇっ! 」


 赤屋が炎を手に纏い、俺に攻撃を仕掛ける。


「お前にそんな学力があるなんて驚きだな」


 赤屋の攻撃を、俺は風を両手に纏って受け流す。受け止める事は出来きなくはない。だが、わざわざ危険をおかしてまで、やる事ではない。


「ちっ、散弾炎舞(フレイムダンス)


 受け流され、泳いだ態勢を直さずに赤屋は術を放つ。放たれた術は、赤屋の足元にバスケットボール程度の火球を創り爆ぜる。なるほど、舞い(ダンス)とはよく名付けたものだ。まともに食らえば、小火球に体の至るところを弾かれ、踊っているように見えるだろう。


風障壁(ウインドウォール)


 俺の創り出した風が、赤屋の火球を全て跳ね返す。態勢を戻さずに術を使う判断は、称賛するが、俺と赤屋では残念ながら、実力に差が有りすぎる。キマイラとやり合った時なら、もう少し勝負になっただろうが、今の俺には赤屋の動きがスローモーションに見えてしまう。

 だから赤屋が態勢を立て直し、次の攻撃をする前に、俺の拳を赤屋にブチ込む事が出来る。


「がっ! 」


 充分な防御態勢が取れないまま、顎に一撃をくらい赤屋は後ろに倒れ、大の字になった。


「自業自得だ。心配なんぞしねぇぞ」

「うるせぇ、分かってんだよ。俺じゃ、テメーに勝てないって事ぐらいはな。

 けど、お前だって分かってるはずだ。俺達の差はそのまま、星野との差になる。あの山辺が指一本触れられなかった化物だ」


 こいつは、里美が星野に負けたところを見てたのか。


「始めは、山辺の実力がないだけに見えた。だが、あのキマイラの一件で山辺の見せつけられれば、嫌でも星野の実力は分かる」

「なるほどな。で、その忠告をする為に俺を呼び出した訳か。案外親切な事だな」

「そんなんじゃねぇよ。姉さんがお前を信じようとしてたからだ。単なる嫉妬だよ」


 意外に素直なヤツだ。そして、不思議だった。今まで赤屋が大嫌いだったにも関わらず、その言葉を聞いただけで嫌いになった。

 やはり人は、単純な生き物なのかもしれないな。


「真人っ! 」


 そんな事を考えていると、カスミが血相を変えて飛び込んでくる。


「瑞穂が早くっ! 」


 意味は分からなかったが、急いだ方が良い事だけは分かった。弾かれるようにカスミに向けて走り出す。


「神城っ」

「テメーは寝てろ」

「頼む」


 赤屋は瑞穂に何が起こったのか、分かっているようだ。


「お前の頼みを聞く義理はない」


 そう云い残し、カスミの前に立つ。


「何処に行けばいい? 」

「講堂前まで」

「分かった。着くまでに事情説明を頼む」


 カスミの肩を抱き翔ぶ。講堂ならここから3分で着く。説明してもらうには、充分な時間だ。


「瑞穂が星野とやろうとしてるの」


  カスミの一言で全てを理解した。

 あの馬鹿がっ! 情報収集のつもりかもしれないが、はっきり云って今回は不要な選択だ。


「自分で出来る事はこれくらいしかないって… 」

「アイツ、今回俺が何回も戦える事を忘れてんのか」

「違うわよ。もし、真人が直接やり合って怪我したなら、その分修練が出来なくなるって云ってた」


 本当にアイツは… それでお前が怪我したら、俺がどう思うと思ってやがる。


「カスミ、もうちょい急ぐぞ」

「うん」


 カスミは掴む力を強める。それを確認し、俺は速度を上げる為、高度を下げた。


「あれかっ! 」


 講堂よりかなり手前のグランドに、二人の姿が見えた。まだ始まっていない。俺は速度を維持したままグランドに突っ込んだ。


「やれやれ、やっとご到着ですか。待ちましたよ。このままだったら、女の子と戦わないと行けなくなってましたよ」

「そいつはすまんな。テメーの趣味を邪魔しちまった」


 そこに立っていた男は、眼鏡を上げながら俺を見ている。なるほど、雰囲気があるな。

 知的な顔立ちの美形ではあるが、何処かしら人を見下している感がある。


「真人… 」


 瑞穂が俺を見て所在なさげにしている。カスミに指示を出し、瑞穂の横に着いて貰う。


「聞いたぜ、里美をいいようにいたぶってくれたみたいだな」

「里美? ああ、山辺君ですね。ええ、彼女は実によかった。あの娘ならまたいたぶる価値がありますね。でも、その娘は私の趣味じゃないのでね」


 瑞穂じゃ力不足って事か、自信過剰なヤツだ。


「で、俺を待ってたか。期待に添えるか分からんぞ」

「別に構いませんよ。つまらなかったら、二度とあなたとは戦わないだけです」


 コイツ… 完全に弄んでやがる。


「だから、始めから全力でお願いしますね」


 少しだけ落ちた眼鏡を指で戻し星野のは云う。ここで戦うのはリスキーだが、逃げれば次のチャンスはない。戦うか否かの決定権は、星野にあるのだからこの展開は予想すべきだった。


「ふぅ、んじゃ、楽しんでくれる事を祈りますか」


 最初から全力は有り得ないが、ギアを上げるまではその場の全力を尽くす。


「では、行きますよ」

「なっ! 」


 ヤバい、いきなり予測と違う。

 星野は自ら攻撃を仕掛けてきた。ヤツの顔が俺の顔の前で止まる。そして、そのまま身を沈める。


 足払いっ!


 攻撃を確認して対応しようとしたが、遅かった。星野は、地を蹴って飛んだ俺の足に蹴りを当てた。


「ちっ! 」


 このままでは後頭部を地面にぶつける。とっさに両腕で自分を支えて、そのままバグ転し難を逃れる。

 これが予知か、確かに驚異だわ…

 星野は俺が飛んで逃げる事も、逃げた後の足の位置まで、分かりきっていた。だからこそ、高さの調整をする事なく、俺の足に蹴りを当てたのだ。


 こりぁ、こっちから攻撃をし続けるしかないな。


 予知を主体とした「後の先」をとるタイプだと思っていたが、星野はあっさりと否定した。だから、少し様子を見ながら攻撃出来ると思っていた、俺の目論見は初手で潰されたと云う事だ。


 クソっ、あんまり考えてる時間はない。兎に角、仕掛けなければ、星野が攻撃をしてくる。


「あれを試してみるか」


 素早く〈風縛網(ウインドネット)〉を4つ用意し、発動させずに待機させる。そして、


風精霊譲渡(シルフィードギフト)

「ほう、これは」


 星野は感嘆の声を上げ、初めて構えを取る。


「行くぞ… 」


 これが通用しなければ、もう手はないぞ。

 俺は覚悟を決めて地面を蹴った。


 今の俺の速度は、飛翔(エアレイヴン)使用時より速い。それでも星野はこの攻撃を交わすだろう。だが、そこで予知を止めていれば次の攻撃には、対応出来ないはずだ。


 俺の狙いはもっとも避けづらいボディ、一瞬で間合いを詰めて放つ一撃を星野は、その身を捻って交わす。その瞬間を狙って風縛網(ウインドネット)を発動させた。


 上下左右の4つ死角はない。合成獣(ゴメラ)には一秒ともたなかったが、人間相手なら完全に動きを奪う。


 獲ったと思った。星野の体がそこにあり、既に回避路はない状態だったからだ。しかし、俺の術が体を捕らえると同時に、星野の体が霞みのように四散した。


「今のは素晴らしいですよ」


 後頭部に充てられる星野の手、そのまま一撃を出せば俺の負けは確定する。


「幻術か… 迂闊だったな。二つ目の能力(セカンドスキル)を失念してた」

「それは嘘ですね。けど、どうします? 」

「負けを認めるとどうなるんだ? 」


 俺の言葉に星野は手を下げた。


「お互い目的は達した訳ですし、ここまでにしておきましょう。次は三ヶ月後にまた」


 そう言い残し、星野は去って行く。


「ふぅ、何とか合格点は貰えたな」

「真人… 」


 一息つくと瑞穂が寄ってくる。


「ごめん、私じゃ相手にもして貰えなかった」

「この馬鹿がっ! どんだけ心配したと思ってんだ。始めから勝つ気がねぇ、勝負をしようとしてんじゃねぇよ」


 ビクッと体を振るわせて、瑞穂は下を向く。


「けど、私はカスミみたいに魔術を教えられないし、里美さんみたいに体術の修行も出来ない。単なる足でまといだよ」

「このウルトラ3階級制覇馬鹿が、一緒に修行したら、進みが遅くなると思うなら、強さ以外の補助をしてくれよ。頼むから… 」

「真人… 」


 今、お前が俺の所為で怪我なんかされたら、そっちの方が精神衛生上悪すぎる。


「はいはい、もういいでしょ。つまり、真人は瑞穂に横に居るだけでいいんだよ。って、云ってるだけじゃない。ノロケんのもいい加減にしてよ」


 声色を変えて云うカスミに、何故か顔を赤くしてうつ向く瑞穂。


「戯言はそこまでにしとけよ。お前ら全員が今の俺のモチベーションなんだからな。一人でも欠けたらダメなんだよ。だろ、カスミ」

「ふんっ、知らないわよ」


 ったく、素直じゃねーな。

 苦笑しながら、俺達は校舎へ戻っていった。

 


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