入学初日の出来事2 (過去2)
一人の男が自宅のマンションで思ソファに深く腰を下ろし悩んでいた。
非常識な存在に対抗するには…切り口はここだった。
相手が非常識なのだから、常識に添っていては絶対に通用しない。
しかし、常識に凝り固まった頭では、中々打開策など出て来ない…
自分たちにとって、非常識とは何だ?
たばこのポイ捨て?
割り込み?
否、非常識の方向が違う。
魔物は本来、幻想の産物のはずだ。自分たちの日常での非常識なんか、当てはまらない…では、どうすればいい。
漫画や小説でしか出て来ないモノを相手に、常識・非常識があるのか…ん、待てよ。
幻想・漫画…有るじゃないか。
魔物の被害増加していく中、人は科学サイドから対抗策を考える事を止めた。
今の科学では限界だと云う事を思い知らされた以上、対抗手段は対極に位置する「魔術」しかない。
魔術が人類の切り札だった。
当時「魔術」は幻想の産物とされていたが、一部の権利者はその有用性を理解し利用していた。
勿論「火が飛び出す」のような魔術ではなく、利用していたのは「占い」だ。信じられないかもしれないが、時には国の行く末を左右し兼ねない問題ですら、占いに任せた事もあったらしい。
だから、今回も占ってもらうようにした。
藁にも縋る思いだった。だが、こんな馬鹿な考えとは思っていない。
このアプローチの方向は合っている。
強く思い高名な占い師数名に、依頼して答えを待った。
しかし、どの占い師も答えは出せなかった。
当たり前の事だ。
占いの基本は「当たらずとも八卦」にある。だから、外れても責任は占ってもらった方にあるならば、どんな大きな問題でも占える。
だが、今回のようなほぼ確定している未来で、人の命が関わってくるような占いは「外れました。後宜しく」と云う訳にはいかないのだ。
だから、依頼をした対策本部は返答が無くとも、偽物と誹るような真似はせず、次に用意していた質問「魔物を倒せる可能性がある者はいるか」に切り替える。
この質問の肝は、明確な答えでなくとも良いと云う事にある。大袈裟に云えば「西へ向かえ」でも「北海道にいる」でも構わない。
一つ目の質問に答えなかった以上、答えに幅が出来る今回は必ず返答がある。それこそ、先のような答えばかりかもしれないが…だが、それで良い。
自分たちは返ってきた答えを精査し、本当に有益なものを見つける事が仕事なのだ。そう考えていた。
そして、その考えが正しかった事が証明されたのだった。
その返答があったのは、質問をしてから二日経過していた。
質問をしてから直ぐに返ってきた答えは、精査するまでもなく使えないと判断された。
余りにも予想通りの答えばかりに、諦めムードが漂う中、最期の占い師がこんな事を云ってきた。
「想像された物語で使われるような能力を使う者がいる。そして、その者は既に魔物と対峙してまだ生きている」
この返答は占いの答えではなかったが、信じるに足るキーワードがあった。
魔物と対峙して生きている…
これまで魔物と遭遇して、生き残った者は稀にいる。しかし、対峙してとなると皆無だった。だからこそ、本当に生き残っているのならば、魔法を連想させる能力があるのではないかと思えるのだった。
射した一条の光に、答えた占い師に生き残った者へのコンタクトを求める。だが「私は神薙の末端、これ以上は何も出来ない」と断ってきた。
その後、諦めなかった彼らは、生き残った男とコンタクトを取る事が出来た。
突き止めた方法こそ不明であるが、魔物の出現地点と次の出現地点までのタイムラグが、長い所をしらみ潰したのだろう。
やっとの思いで辿り着いた人物に、コンタクトを取ると「巫女の言葉を信じ、自分の事を探した方に逢わない道理はない」と、あっさり面会を了承した。
彼らは指定された場所へ、三人で来ていた。
そこに待っていたのは、20代のやさ男だった。
男は自分の事を魔術士のような者と云い。また、今荒らしているのは「魔」に属するものであり、自分ではどう足掻いても倒す事は出来ないと断言した。
その言葉は想定の範囲内であったが、これまでの被害を考えると、少なくはない落胆が彼らを包んだのだった。だからと云って、このまま手ぶらでは帰れない。強迫観念にも似た心境で質問をしていく。
(何故、貴方は生き残れたのですか)
「魔術のような能力を使いました」
(どのような能力ですか)
「お答えし兼ねます」
(何故?)
「今はまだ表に出るべきではない、そう考えております」
(世界を救えるかもしれないのにですか)
「残念ですが、先日の邂逅を以て及ばないのは分かっております。しかし、」
(しかし?)
「私達以外にも、様々な能力を持つ者はおります。その中から、対抗出来るだけの能力に昇華する可能性は高いと考えております」
(では、その方達に来ていただるよう…)
「申し訳ないが、彼らが表舞台に立つかは、私の知るところではありません。この先の交渉であれ、全ては貴方達の仕事であると思います」
男は言葉こそ丁寧であったが、きっぱりと拒絶の意を示し席を立った。
まだ聞きたい事はある。しかし、ここまで拒絶をされると、呼び止める事は出来なかった。
だが一人だけ、今まで何も云わなかった男が口を開いた。
「最後に一つ良いだろうか」
「何でしょうか?」
これまで一度も質問して来なかった男だっただけに、帰ろとしていた男も仕方なしと足を止めた。
「お名前を教えていただけないだろうか?」
部屋の空気が固まった。
男の連れは、最後の質問が…と、肩を落としていた。
だが、呼び止めれた男は、今までの涼しげな顔を一変させて楽しそうに笑った。
「はっははは、これは些か礼に反しておりましたな。後れ馳せながら申し上げます。私は神城信司。若輩者ではありますが風術士一門の当主でごさいます」
帰ろうとしていた体を反転させて、深々と頭を下げる神城信司。若輩者と云いながら、当主の貫禄は持ちあせているようだった。
「いえ、礼を欠いていたのはこちらも同様です。ご挨拶が遅れました。私は内閣府直属異形防衛本部長、御社来栖です。以後、お見知り置きをお願い致します」
「以後?」
「ええ、これから申し上げるのは質問ではありません。故に質問ぽく聞こえたとしても、お答えいただかなくとも結構です。私共は、これから能力者を探し、表に立てる様計らっていきます。その舞台が整った時、改めてご挨拶に伺わせていただきますが、忘れられていると困りますので」
「なるほど…では、私は再び貴方が訪ねて来られるのをお待ちしまょう」
こうして神城信司と御社来栖との、ファーストコンタクトは終了した。
来栖は宣言した通り、自分の持つ力で能力者を探し、交渉をしていった。不思議な程、交渉はスムーズに進み、あっという間に来栖は能力者による防衛ラインを作り上げた。
このラインは凄かった。
来栖の元に集まった能力者では、魔物を倒す事は叶わなかったものの、防御に徹していれば被害は抑える事が出来た。更には魔物の探知も出来るようになり、後手に回る回数も減った。
このまま時間が稼げれば、いつかは倒せる日が来る…そんな希望が人々の中に生まれた頃、災害は思いもよらない形で終わりを告げた。
倒した訳でもないのに、ある日を境に魔物は姿を表さなくなったのだ。初めはまた突然出現するのではないかと、緊張の日々が続いたが、一年を過ぎる頃人の緊張は解かれ、また別の4匹も姿を見せていないとの事「魔招来」発生後、一年間半でようやく災害収束が成されたのだった。
そして50年以上の年月が流れた。
再度、魔物が出現する事はなかったが、災害再発が起こった時の為に、世界は対人間用の兵器に重きを置かなくなった。
倒した訳ではない魔物の再出現は予測出来る、にも関わらず通常の武力を求める国は、全世界から糾弾されたらしい。
そして、今まで武力に費やしていた予算は、能力開発に回された。そして、その一環として、召喚球が発生した3国には能力者の為の学校が創立された。
これが学園創立の顛末だった。